32話
学校の定期試験を終え、迎えた週末。『祓魔師』になる為の試験日が訪れた。僕達はこの日に向け、今までに学んできた事を全て出し切るつもりで挑む。この日の為に必死に訓練や勉強をして来たんだ。今更弱音を吐くつもりはない。
「アオイ、準備は出来た?」
「大丈夫だよ。行こう」
僕と佐久穂さんは自宅を出る。目的地は美鈴さんが居るあの場所へ。
僕達が住んでいる所から、再び電車に乗り移動をする。目的の駅に着くと、改札を出てすぐの所に立っている東御先生の姿が見えた。
「先生、おはようございます」
「とーみセンセー! おっはよー!」
「二人共、時間通りちゃんと来たようだな。よし、それじゃ行くとするか」
先生がそう口にすると、僕達は足並み揃えながら、建物がある場所へと目指す。
「アオイは、今どんな感じ?」
「まだ分からない。緊張してるし」
「そうだよね。アタシも結構ドキドキして来たかも」
佐久穂さんの表情はいつも以上に明るく、瞳はキラキラと輝いている。
「午前は、学科と面接。午後は、実技。夕方までには終わるだろうな」
「センセーは、今日はずっとアタシ達に付き合ってくれるのかな?」
「ああ。お前達の邪魔にならない様に見守っているよ」
「やった!」
東御先生は、僕達の事を気遣って傍に居てくれるらしい。
いつも生徒の事を第一に考えていてくれて、何かあればすぐに助けに来てくれていた。僕が困った時には相談に乗ってくれたり、励ましてくれたりする優しい人だ。どれだけ救われたか数え切れない。
この人が担任で良かったと心の底から思える。だからこそ、『祓魔師』の資格を手にし、期待に応えたい。
「立科、佐久穂、頑張ってくるんだぞ」
「任せておけって、とーみんセンセー。絶対合格してきてやるからさ!」
「先生のおかげで、僕達は頑張る事が出来ました。必ず結果を出してきます」
「そうか。楽しみにしているぞ」
そう言葉を交わすと、僕と佐久穂さんは建物の中へ入る。
僕達以外には試験に挑む者はおらず、受付を済ませる為に、窓口へ向かう。
そこに座っている女性の方と目が合うと、ニッコリと優しく笑いかけられた。
「こんにちは。立科葵さんと佐久穂瑠衣さんですね」と確認を取られると、僕と佐久穂さんは「はい」と答え、学生証を職員の方に手渡す。
女性は、「かしこまりました」と言って、用紙を受け取ると、ペンを握り書き始める。
「これからの流れをご説明させて頂きます。まず、筆記試験を受けて頂いた後、各部屋にて面接を受けてもらい、お昼を挟んだ後、実地試験を行って貰います。尚、本日中に合否の発表を行います。以上になりますが、質問等はございますでしょうか?」
「一つだけ良いですか?」
「何なりと」
「実技試験の場合、僕と佐久穂さんは別々の場所で試験を受けるのでしょうか?」
「その点に関しては、ご心配なさらないで下さい。事前に報告を受けておりますので、お二人が組んだ状態で開始となります。その代わりに、判定基準は一人の時よりも厳しくなっておりますが」
「分かりました。ありがとうございます」
僕は隣に目をやると佐久穂さんは、小さくコクリと首肯する。
「いえ、どう致しまして。では、お部屋までご案内します。あ、一つだけ言い忘れていた事がございました」
「どうかされましたか?」
「学科試験では、協力し合ってはいけませんよ?」
受付の女性が、人差し指を口元に当てながらそう告げる姿は、とても可愛らしいものであった。
しかし、何故だろう。先程までの優しさ溢れる雰囲気とは一変して、僕と佐久穂さんは背筋に冷たい汗が流れる感覚に襲われる。
カンニング行為を防ぐ為なのかもしれないが、どうすればこの様な圧を掛けられるのだろうか? 僕達は無言で首を縦に振る以外、他に選択肢は無かった。
「大変素直で宜しい。私、思わず感嘆の声を上げてしまいそうでしたわ」
とは言っても、僕と佐久間さんがそのような事をするのは、絶対にあり得ない。ここまでやって来て、信頼関係が崩れてしまうなんて事はあってはならないのだ。
僕達には目的があり、その為に努力を重ねて来たのだ。ここで立ち止まる訳にはいかない。
「はいはいー、お姉さん! アタシも質問あるんだけど良い?」
「えぇ、勿論ですよ」
「警告してくれるって事は、過去にそういう出来事でもあったの?」
「過去において何度か、家柄を盾に不正を行う者がいましたので」
「そんな人達がいたの!?」
「はい。そういった方々は、私の言葉など聞く耳を持たなかったもので……ですからね?」
笑顔を絶やさない女性だったが、その奥底からは途轍もない怒りを感じ取る事ができた気がしてならないのである―――。
――――――
受付のお姉さんに案内され、僕は佐久穂さんと共に部屋の扉を開け、入室をする前に一礼をする。
僕達が挨拶をすると男性の職員の方が、椅子に腰を下ろしながら出迎えてくれると、早速だが始めようと声を掛けられた。
僕と佐久穂さんは、お互いに離れた席に座り、問題を解き始めた。
美鈴さんに教わった内容も出題され、確かな手応えを感じながらも、ただひたすらに問題を解いて、時間が過ぎていく。
ペンが走る音以外は、一切聞こえない静寂の世界。試験官の男性が僕の様子を伺う為、時折視線を送ってくるが、特に注意される事も無く、淡々と時間は進んでいく。
やがてアラームの音が部屋に鳴り響く。試験終了時間を告げているのだろう。それを合図に僕達は、筆記用具を置き、ゆっくりと息を吐き出す。
「それじゃ、解答を回収させてもらうよ」
男性の方に目を向けると、手元にあるバインダーに、僕達が記入した用紙を回収する。
「これで学科試験は終了だ。十分後、面接を開始する予定なので、それまでここで待機をしていてくれたまえ」
「はい、わかりました」
答えた僕の声に小さく頷いた男性は、部屋から退出する。佐久穂さんも同じタイミングで僕の所へやって来た。
「ふぅ~。緊張しちゃったね」
「うん。佐久穂さんは、どんな感じだった?」
「手応えは感じられたよ! アオイや伯母さんのおかげだね!」
「そっか。僕も大丈夫だと思う」
「センセーは、今頃どうしてるかな?」
「どこかで僕達の事を応援してくれてる筈だよ」
「そうだよね!」
佐久穂さんと話をしながら時間を過ごしていると、コンッとノックされる音と同時にドアが開ける。そこには、先程の試験管の男性ともう一人の人物が立っていた。受付のお姉さんだ。
「これより各部屋で面接を執り行う」
『はい!』
僕と佐久穂さんは、揃って返事をする。
「先に立科君、それから佐久穂君の順で行う。では、立科君はこちらの部屋に入ってくれ」
「はい、分かりました」
「頑張ってね、アオイ!」
「ありがとう、佐久穂さん」
佐久穂さんは、手をブンブンと振って送り出してくれたので、僕もそれに応える様に片手を上げて、指定された部屋へと入る。
室内は先程よりも半分程度の広さで、机とイスが幾つか用意されているだけの簡素な部屋であった。
奥にある椅子と机に、先程の男性とお姉さんが着席し、僕にも席へ着く様に促してくる。
「準備は出来たな。さて、これから立科葵さんに対する、面談を始める」
「は、はいっ!」
「楽にして構わない。リラックスしてくれたら助かるんだが……まぁいいさ。気になる点はいくつかある。正直に打ち明けて欲しいのだが、何故、『祓魔師』になりたいと思ったんだ?」
僕は真っ直ぐ前を見据えながら、「自分の力で守りたい人がいるからです」と答えた。この人はきっと僕という人間の本質を理解したうえで尋ねてきているに違いないからだ。
「そうか……。誰かを守りたいという気持ちは素晴らしいと思うよ。しかし、危険を伴う仕事でもある。命の保証は出来ない」
「覚悟の上です」
「それは何故?」
「僕にとっての大切な人が危険な目に合っている時に、何もせずに傍観しているのは嫌だからです」
「なるほど……」
そう呟くと、試験官の男性の方が、表情が険しくなっていく。何かまずい事を言ったのだろうか? 不安に思っていると、今度はお姉さんが口を開いた。
「私からも質問よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「立科さんは、ご自身の力についてどのように考えておられますか?」
「そうですね……突然、手に入れた力なので驚きの連続でありましたが、今は受け入れていますし感謝しています。美鈴さんと出会えたのは幸運だと思いますし、力について相談に乗っていただけるのは、本当に有り難いと思っています」
「そうですか……分かりました。ありがとうございます」
試験官の二人は互いに顔を合わせる。どうやら納得してもらえたという事で良いんだろうか? 何にせよ良かった……と思っていると次の質問を投げかけられたのだ――。
「立科さんは、ご自身が狙われているという自覚はありますか?」
「僕が日本において初めての、『祓魔師』としての力を持つ者だと判明した時から、可能性はあると聞かされています。"穢れ"からも"人間"からも。幸いに"人間"からは襲われていませんが……守っていて下さったのでしょうか?」
「……ええ、そうです。その点については事後報告となってしまい申し訳ありません。しかし、貴方が持つその力は、『祓魔師』の中でも、特別貴重なものなのです。故に狙ってくる存在は存在します」
「そうだったんですね。説明していただきありがとうございます」
「いえ、ごめんなさい。本当は、もっとお話ししたかったのですが、時間が来てしまいました」
「はい、ありがとうございました」
僕は椅子を引き、立ち上がり、頭を下げる。その時に見えたお姉さんは、少し残念そうな顔をしていた。もしかすると、僕の身を案じて、こうして声をかけてくれたのかもしれない。
扉を開き、外に出ると、僕が出てくるのを待っていたのであろう佐久間さんの姿が視界に入る。
「お疲れ様! どーよ?」
「聞かれた事に関しては、正直に話しをしたよ」
「そっか! 次はアタシかな? 面接なんて慣れないから緊張するなぁ」
「だったらちょっとしたおまじないをしてあげるよ」
僕は佐久穂さんの手を取り、両手で包み込む。
「へっ!? な、なになに!?」
佐久穂さんは、僕がいきなり取った行動に驚いたのか、声を上擦らせている。
「佐久穂さんなら大丈夫だよ。正直に答えれば、相手にも伝わるから」
彼女の目を見て言うと、恥ずかしそうに頬を赤めながら「うん!」と力強く返事を返してくれる。
室内から名前を呼ばれた佐久穂さんは、そのまま深呼吸をすると思いきったのか、面接を行う部屋に足を踏み入れた。
頑張れ、佐久穂さん。
19時にも




