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ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: 詩永あえし
第一章 ゼロ距離なカノジョ
30/77

30話

 美鈴さんから課せられた一ヶ月という期間に、様々な出来事が発生したのは、ご存知のとおりだと思う。

 東御先生の指導の元、体力作りから武器の扱い方まで。そして僕達の為に同好会を設立し、部室という場所まで用意してくれた。

 今更ではあるが、正直に言うと訓練は大変過酷なものであった。だが、それに耐え抜いた事で得られた力は大きかったと言えるだろう。

 以前のままの僕であれば、"穢れ"と遭遇したあの時に、何も出来ずに殺されていた可能性が高かった。だが、今の僕ならば、多少なりと対抗する事が出来る。その事実に僕は心底嬉しく思えた。


 美鈴さんの学科対策授業を受けた際に、人型の、"穢れ"から手にした力の話になった。


「あの木刀を使いこなせた様で何よりだよ。作り上げたはいいが、検証する事が出来る、『祓魔師』がいなくてねぇ。どうしたものかと困っていたところさ」

「そうでしたか。でもあの時、僕が木刀を選ばなかったらどうするつもりだったんですか?」

「その時はその時の事を考えるまで。立科君が浄化の力を手にしているのは分かっていたんだから、後日説明してお試しとして使用して貰えば良いかと思っていたが……役に立った様でなによりだよ」

「使用方法も教えて貰っておいて良かったと思います」

「私も、そこに関しては先に伝えられて良かったと思っているよ。しかし、力を注いだら白銀の木刀に変化し、"穢れ"が避けようと行動したのか。木刀に込められた立科君の力である、『浄め』の効果かもしれないが、とにかく興味深い話だね。これは貴重な情報を得た気分になるじゃないか。いや、この場合は感謝すべきなのかね? それで、"穢れ"を取り込んだ時の感覚としてはどんな感じだったんだい?」

「美鈴伯母さん! 一度に聞きすぎだよ! ちょっと待ってくれないと」


 佐久穂さんからストップが掛かる。


「それもそうだ。少し性急すぎたか」

「僕なら大丈夫なので、気にしないで下さい」

「そうかい? とはいえ長々と聞けば瑠衣ちゃんに怒られちゃうから、掻い摘んで聞くとするよ。ではまず、今回は木刀を通じて、"穢れ"の力を取り込み、手にしたわけだが、何か変化はあったかい? 体調に異常を感じたとか」

「特には」

「ふむ。では、今回取り込んだ力を立科君は、扱える様になったのかい?」

「相手が使用してきた技の一部だけ。土の盾を生み出して防御に利用したりといった使い方が出来ました」


 僕の言葉に美鈴さんの目が見開くと、「素晴らしい進歩ではないか……」と呟きながら目を輝かせている様子に見えた。


「いやはや、私が知り得た知識をひっくり返す程の凄まじさだ。相手の力を自分の物にする。それはつまり、相手の持つ技術をそのまま行使する事も可能なはずだ。立科君と同じく力を取り込める、『祓魔師』は存在するが、この様な力の使い方を出来る者は、立科君だけだ。本当に素晴らしい才能を秘めている。私の目に狂いはなかったな!」

「あはは……」


 興奮気味に話す美鈴さんの言葉に、僕は乾いた笑いしか出せなかった。


 ―――――


『祓魔師』の試験を受ける前に、僕達は学生としての義務を果たす為の定期試験がある。

 東御先生からも定期試験が始まるとの事で、訓練を一時休止し、勉学に専念する事となった。

 となれば僕達がすべき事は、一つしかない。


「佐久穂さん、ここはこうやって解くんだよ」

「おお! さっすがアオイ―! アタシでも分かる様に教えてくれる!」


 部室で僕と佐久穂さんが試験対策を行っている。目の前にあるのは、解答欄が埋まりつつある問題集。

 佐久穂さんは、得意科目は満点に近い点数を叩き出すが、苦手な教科になると平均点を軽く下回る。それでも少しばかり教えるだけで、僕よりも良い点数を取る事が出来るのだから、やはり地頭が良いのだろう。

 キリが良いので一旦休憩。背伸びをして硬直した身体をほぐしながら会話が続く。


「こうして部室で勉強会をするのって、憧れてたんだけど、まさか実現するなんて思わなかったなぁ」

「僕も佐久穂さんと同じ気持ちです。こういった事には縁が無かったと思っていましたし」

「アタシも。勉強が嫌いなわけじゃないけど、部活と両立して頑張ってる人は偉いなって思うもん」

「本当にそう思いますよ。僕だって一人ではここまで出来なかったでしょうし……佐久穂さんが一緒だからこそ出来た事ですね」


 そう告げると頬を赤らめる彼女に対し、僕の頬まで熱くなっていく気がしたから話題を変える事にしたのだが……。


「アオイって結構恥ずかしくなる様な事をさらりと言うよね」

「そうですか? きっと誰かさんがそう思わせてしまう様な発言をするからですよ?」

「そ、そんなことないと思うぞー? それにアタシは普通に喋ってるつもりだしー」

「佐久穂さんだと言った覚えはないのですが?」

「な、なんのことかな!? アタシもアオイに言った覚えがないのだけれど!」


 お互い誤魔化そうと必死になっている。だが、そんな時間も長くは続かない。

 部室の扉がノックされる音によって僕達の会話は中断され、佐久穂さんが返事をすると、東御先生が入って来た。

 東御先生は、佐久穂さんと僕を見ると、呆れたような表情を浮かべていた。


「二人共、仲睦まじいのは大変よろしい事ではあるが、もう少し周囲に気を配る事をお勧めしよう」

「な、何を言っているんですか、先生!」

「アタシとアオイはまだそういう関係じゃなくてですね! そう! まだ友達以上恋人未満みたいなもので……!」

「ほう。私は仲が良いなとしか言っていないが、違うのかね」


 東御先生はニヤリと笑うと、僕達から離れて椅子に座った。その瞬間、僕と佐久穂さんは目を合わせると、無自覚の惚気話をしていた事に今更気づいた。

 お互いに顔を真っ赤に染め、沈黙してしまう。

 そんな僕達を見ていた先生は口元を押さえながら、愉快そうに笑っていた。


「せ、先生! からかわないでください!」

「ふふっ。青春とは、実に楽しいものだな」

「もう! センセーのいじわる!! こうなったら……お返しだ!!」

「ちょ、佐久穂さん! 何で僕に抱きつく必要があるのさ! 学校内では控えるって話はどこへ!?」

「挑発してきたセンセーにセーシュンを見せつける為に決まってんじゃん! ええい、離してなるものか!」


 彼女の豊満な胸が背中に当たり、僕は羞恥で悶絶しそうになる。

 最近の佐久穂さんは、以前に比べてスキンシップが多くなったように思える。それに伴って僕に対する感情表現がストレートになり、嬉しい反面、困っている部分もある。

 僕に後ろから覆い被さるように抱きしめてきた彼女は、先生に対して意趣返しをしようとしている。その為か、僕は密着状態から抜け出せず、どうしたらいいのか分からず困り果てている。

 最近は暖かい日が多くなり、暑いと感じる日もあるにも関わらず、佐久穂さんから香る甘い匂いが鼻腔を刺激し、更に体温が上昇する。


「くすぐり攻撃だ! これに耐えられるのなら大人しく離れようじゃないか! ちなみに耐えられなかった場合は、罰ゲームだ! そうだな~、今日は二人で帰りたいから、付き合って貰おうか!」


「いつも一緒じゃないか」という言葉を寸前のところで飲み込み、何とか冷静さを取り戻そうとする。しかし、僕をくすぐろうと佐久穂さんが自由奔放に動くせいで、背中に当たるモノまで形を変えて暴れ始めてしまい、思考は乱れに乱されていく。

 僕に出来る事は素直に降参するのみ。そもそも我慢をしても、佐久穂さんに勝てる見込みなど皆無なのだ。ならば早く解放して貰った方が得策。


「降参です! これ以上は許して下さい!」

「ふふふ。潔いじゃないか。では、約束どおり一緒に帰ろっ! これはおまけだ! ……ふぅ」


 佐久穂さんの吐息は耳へと届き、僕の全身に鳥肌が立つ。ゾワっとした感覚に襲われ、身体が勝手に動いてしまう。

「うわぁああああっ」と叫び声をあげながら彼女を引き剥がすと、佐久穂さんは悪戯が成功した子供の様な笑み。

 普段から可愛らしい佐久穂さんが、より一層愛らしく見える笑顔を見せるから、「心臓に悪いんだよ!」とは言えるはずもなく、「佐久穂さんの馬鹿ぁ……」という弱々しい言葉しか口から出てこない自分が情けないと思った。

 そんな光景を眺めていた東御先生は、笑みを深めるばかり。


「全く、お前達は見ていて飽きないな。ほら、勉強を再開しなさい。油断している暇は無いぞ」

「は、はい!」

「分かりました!」


 慌てて勉強を再開する僕達は、佐久穂さんが「よし、これで一安心。後は放課後を待つだけ」と言っていたのを、この時の僕は知らなかった。

21時にも

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