表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: aec
第一章 ゼロ距離なカノジョ
3/77

3話

 佐久穂さんは僕の名前を呼びながら、手にしていた鞄をソレに思いっきりぶつける。

 衝撃により体勢を崩したソレに向かって佐久穂さんは、すかさず蹴飛ばして追撃する。

 その甲斐あってか、何とか僕の腕から引き剥がすことに成功はしたが、ソレは僕達から離れる様子はなく執拗に追いかけて来る。


「こいつ! しつこい!」

「どうやら逃げられなさそうです。僕が囮になるので、佐久穂さんは全力で家まで逃げて下さい!」

「そんなこと出来るわけ無いじゃん!」

「じゃあどうするのですか!? このままでは、僕も佐久穂さんもやられてしまうかもしれないんですよ!」

「だからといって置いて行く事なんて出来ないよ!」

「佐久穂さん!」

「アタシを庇って怪我をしたアオイを、絶対に見捨てたりしないよ!」

「……分かりましたよ!」


 僕は覚悟を決めてソレと向き合う。

 僕達が逃げ切れないと理解しているのだろう、ソレは先程と同じ様に笑みを浮かべている。


「アオイ! 何をするつもりなの!」


 僕は彼女の言葉に振り返らず、動く方の手を使い上着を脱ぎ捨て、噛み付かれた方の腕に、巻き付ける。

 相手はこちらを舐めきっている。それに見た目通りの行動をするのなら、もしかしたら……。

 赤い瞳が不気味なほどよく見える。ソレに向かって噛み付かれた腕を突き出し、挑発をする。

 意図が伝わったのか、ソレは僕に向かって飛び掛ってくる。再び噛み付かんとする為に。

 その瞬間、僕は開かれた口に腕を突っ込み、何かを掴む。


「ガァ!」


 ソレの口からは悲鳴に似た声が聞こえたが、その勢いを利用して近くの壁に思いっきり叩きつける。


「ギャアアア!!」


 ソレは先程と同様に断末魔を上げてピクピクとしている。

 僕と佐久穂さんは息を呑むようにしてその様子を伺うが、しばらくしても痙攣したまま動きがない事から、倒したと判断して安堵の溜め息が零れる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 佐久穂さんも緊張の糸が解けたのだろう、僕の横で座り込むと胸を抑え、呼吸を整える。

 僕の方はといえば、噛み付かれた腕から激痛を感じ始めていた。


「ア、アオイ? 大丈夫? 噛まれた腕の治療をしないと!」


 心配そうな顔をして僕の顔色を窺って来る彼女は、焦りながらも鞄からハンカチや絆創膏を取り出し、僕の血が出ている部分に貼り付けてくれた。


「すみません、汚してしまって」

「そんなこと気にしないで! ……ごめんね、アタシのせいだよ」

「いえ、佐久穂さんのおかげで助かりました。それに、僕の方こそすみません。咄嵯の事とは言え、乱暴に扱ってしまいまして……」

「いやいや! むしろアタシは嬉しいくらいだよ! アオイが命懸けでアタシを守ってくれたんだもん!」


 そう僕に伝えた佐久穂さんは、勢いよく抱きついてきた。


「本当に、アオイのおかげだね」


 僕の胸に埋めていた顔を上げ、彼女は僕の目を見て、「助けてくれてありがとう」と言ってきた。

 恥ずかしいのか少し頬を赤らめているが、真剣な眼差しをしている事が伝わって来て、自然と顔が熱くなる。


「そ、それよりさ、アレどうしよう?」


 照れるのを誤魔化そうとしているらしく、佐久穂さんは先程倒したばかりのソレに視線を向ける。

 どうやら致命傷となったらしく、今にも息絶えそうな状態だ。

 赤い瞳は、先程までとは違い虚ろな瞳で僕を見つめている。

 まるでこちらに来いと言わんばかりに。

 僕はその誘いに乗るように、ゆっくりと近づいていく。


「ちょ、ちょっとアオイ! 何しているの! 危ないよ!」


 後ろから佐久穂さんの慌てふためく声が聞こえるが、気にせず歩みを進める。

 やがて目の前に辿り着くと、ソレに手を伸ばして触れようとした。

 すると、黒く闇に包まれていたソレは、淡い光の粒へと変わり、噛み付かれた腕を通じて僕の身体の中に取り込まれていくと、跡形もなく消え去った。


「え?」


 僕も、佐久穂さんも目を丸くして驚く。

 そして、僕は自分の掌をじっと見つめ、ゆっくりと手を握った。


「痛みが無くなった」


 噛みつかれていたはずの腕の痛みが消えたのだ。

 僕は不思議に思って自分の腕を見てみると、佐久穂さんが巻き付けてくれたハンカチを外して、貼り付けてもらった絆創膏を剥すと、傷が綺麗さっぱり無くなっていた。


「ど、どういう事?」


 佐久穂さんも状況を飲み込めていないようで、困惑気味だ。しかし、ここで考えていても仕方が無い。佐久穂さんの安全の為にも、まずは彼女を送り届けよう。

 帰り道、佐久穂さんが何度も僕に謝ってきたが、別に彼女に責任があるわけではないので、僕は苦笑いを浮かべながら彼女の謝罪を受け入れ、気を取り直してから彼女の自宅へと歩き出す。

 あの現象について知る事になるのは、次の日の事であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ