24話
休憩中だった訓練を再開し、その間に美鈴さんはイオから何本か毛を採取していた。それを機械を使いながら色々と検査をしている。
「よし、簡易検査終了だ。特に問題は無さそうだ。やはりこの子からは"穢れ"の影響を感じない」
「良かった……やっぱりアオイの力を分けて生まれたからなのかな?」
「そうだねぇ……採取した毛が、検査を終えた時には、粒子となって消えてしまったから、生物として存在しているのかも謎なところさ」
佐久穂さんと美鈴さんが話をしながらこちらへと歩いて来る。
「あと、不確定ではあるのだが、立科君が、『祓魔師』として覚醒してから、"穢れ"の発生率が減少傾向にある。その影響がこの子にもあるのかもしれん」
「へぇー、アオイがいる事でこの子が守られている……みたいな感じなのかな?」
「うんうん。ただ、二人が戦えるのは、あくまで、"穢れ"に対してのみだ。"穢れ"以外の脅威に対しては、私や玲ちゃんの出番になるだろう」
「そういうの、あんまり考えたくないなー」
美鈴さんの言葉に佐久穂さんが反応して、顔を曇らせる。
「そう思うのも無理はないがね。まっ、そっち方面は大人組に任せたまえ! なに、私達がしっかりとサポートしてやるぞ!」
美鈴さんは笑いながら、佐久穂さんの肩をポンと叩く。
「はい! 頼りにしてます!」
「うむ、任された!」
二人はお互いを見合って、楽しげに話を弾ませている。美鈴さんの言葉に、佐久穂さんが元気よく答えていた。二人のやりとりを眺めながら、僕も自然と笑顔になっている事に気が付いた。
「関わり合いを持った以上、私も責任をもって面倒を見よう。それに……立科と佐久穂を信じてるからな」
「わ、分かりました! よろしくお願いします!」
真剣な表情の東御先生が、木刀を握りしめてこちらへ向けている。僕も慌てて構えを取る。正面にいる東御先生は、普段以上に鋭い目つきをしていて、僕の動きを観察されていた。
これは模擬戦闘……そのせいで先程までより緊張感が強い。
「行くぞ?」
「はい!」
東御先生の声を合図に、お互いに踏み込む。先生の一撃は重い。受け止めると腕が痺れるくらいだ。
だけど、負けていられない。僕は必死に食らいつく。
短時間ではあるが、教わった事を駆使し、何度か打ち合うものの、僕の攻撃はまったく当たらず、逆に東御先生の攻撃は、的確に僕を捉えてくる。防ぐのがやっとで、反撃の余地が全く見当たらない。
やがて体力の限界を迎え、動きが鈍った瞬間、腹に強烈な衝撃を受け、吹き飛ばされてしまった。
「くぅ……ゲホッ!」
地面に倒れ込みながら、咳き込んでいると、頭上から声をかけられる。
「初めてであれば上出来だ。だが、今の様に予期せぬ攻撃を受ける事もある。油断しない様に」
「は、はいっ」
「立科は筋が良い。真っ直ぐで迷いがない。それ故の欠点もあるがな」
そう言うと、先生は少し笑みを浮かべて、僕に手を差し伸べてくれる。その手を掴んで立ち上がると、彼女は手を引いてくれて、そのまま隣に立った。
「長所は伸ばすのが大事だ。短所は直せばいい。焦らなくても構わない。これからゆっくり学ぼう」
先生は優しく僕に声をかけると、頭を撫でてきた。
「はい、頑張ります」
「その意気だ。それじゃあ次は佐久穂の番だな」
「う、うぃっす!」
僕が佐久穂さんに視線を向けると同時に、佐久穂さんがビシッとした姿勢になり、東御先生に向かって返事をしたんだけど、なんというか……凄くぎこちなく見える。
「緊張する事は無い。力を抜いてやってくれ。私は佐久穂の実力を知りたいだけなのだから」
「は、はい……」
佐久穂さんが僕に視線を向けて、小さく呟いた。
「……大丈夫かな?」
「……」
「視線を逸らして無言にならないの! こういう時は優しく励ましてくれるのが、私に良く効くんだから!」
「頑張ってください、佐久穂さん」
「アオイ、棒読みになってるよ? そこは『瑠衣ならやれば出来るさ!』って言う所だよ?」
「名前で呼ぶのは、まだちょっと恥ずか――」
「ほう、二人とも余裕がありそうだな? よし、少しばかり追加の訓練を行うとするか? 勿論、拒否権はない」
『すみませんでした!!』
僕達は揃って、謝罪の言葉を口にする。だがしかし、僕は気付いてしまったのだ。
それは――東御先生の口角が上がっている事を。
(あぁ……これ……絶対オシオキを考えている時の顔だ……)
嫌な予感はするものの、先生に逆らえない僕達は、大人しく訓練を受ける事にした……。




