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ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: 詩永あえし
第一章 ゼロ距離なカノジョ
23/77

23話

「まさか立科君に力を与え、浄化された子が、再び立科君を通じて現れるとは。面白いね~!」

「佐久穂先生! 笑い事ではありませんよ!」


 東御先生は、美鈴さんに対して怒っていた。

 確かに、僕達にとっては笑い事で済ませられる出来事ではなかったから、仕方のない事だろう。

 でも、東御先生が代わりに叱ってくれるのは、何だかおかしく感じてしまい頬が緩む。

 佐久穂さんの方に目をやれば、彼女なりの葛藤が見えた。僕の事を信じて漆黒の狼を受け入れてくれた彼女だが、すぐには気持ちを切り替えるのが難しい様で、頭を揺らしたり、髪をいじったりと落ち着きがなくなっている。

 僕は漆黒の狼の方へ向き、声を掛けた。


「君に聞きたい事があるんだけど、僕の言葉は通じる?」


 漆黒の狼はこちらに近寄ってきて、僕の問い掛けに応える様に、小さく鳴いた。


「良かった。じゃあ、ちょっと聞いてくれるかな? まずは……そうだな……あの時、僕と佐久穂さんを襲って来たのは君なのかい?」


 漆黒の狼は肯定するように短く鳴くが、声は随分と弱弱しい。まるで否定したいけど出来ないと訴えるかのような声音にも聞こえる。

 あの時、現れた犬だと思っていた"穢れ"の姿と、今の姿の違いに疑問を抱いてしまう。風貌から目つきまで、何故こうも違うのかと。

 漆黒の狼を見つめていると、不意に美鈴さんが話しかけてくる。


「立科君、この子に話しかけている様だけど、何か知っていそうなのかね? 私達が認識している"穢れ"と似たような存在だというのは間違いなさそうなのだが」

「はい。恐らくこの子は、僕の中にあった力を糧に生まれた"穢れ"の一部。そう考えています」

「成程ねぇ。では、立科君は"穢れ"を操れるって事なのかな?」

「推測ですが、よろしいでしょうか?」

「構わない。話してくれ」

「はい。僕の力は、"穢れ"を操るという言い方が正しいのか分かりませんが、その部分においては間違いありません。僕の中には、既にあるんです。この子の力が」


 そう言いながら僕は漆黒の狼に手を向ける。すると、漆黒の狼は僕に向かって擦り寄る様に身体を預けて来る。


「では、何故その力が僕にあるのか。それは本来、『祓魔師』が、"穢れ"を浄化すれば、その力を取り込み自身の力へと変換出来る為だと考えました。ですが僕の場合、"穢れ"の力の一部を、そのままの形で残す事が可能なのではないかと……」

「つまり、キミの中に"穢れ"の一部が残り続け、立科君の力に変質して生まれたと?」

「はい」


 美鈴さんに返答する。僕が答え終わると、佐久穂さんが質問を投げかけてきた。


「でも、アオイ。それだと身体検査の時に、何か引っかかるんじゃないの? あの時はお互いに問題なかったよね? 伯母さん曰く、遭遇、接触するだけでも、何か影響があるみたいだし」


 その疑問に対し、美鈴さんが答える。それはとても簡単な事だった。


「私が今まで閲覧してきた調査資料と知識が正しければ、キミが言っていた発言の前者が正しい。瑠衣ちゃんが言っていたとおり、調査結果では異常は無かったんだ。立科君も、"穢れ"を浄化し、自身の力へ変換できる能力を有している。しかし、他の『祓魔師』とは違い、キミは浄化した相手の力を借りる事が出来る。その力を使って、自身を守る事も、また相手を救う手段にする事も可能となる。新たな『祓魔師』の誕生と言える」


 美鈴さんの説明を受けて、佐久穂さんは少し驚いた表情になる。


「えっ、そんな事が可能なんだ」

「あくまで仮説に過ぎないがね。しかし、漆黒の狼は立科君の力によって生み出された。そして何よりもだ、この子は"穢れ"と呼ばれると、敵意を剥き出しにする。その場面は、先程見たばかりじゃないかね?」

「あっ……」


 佐久穂さんが気付いたかの様にハッとする。美鈴さんは佐久穂さんの様子を見て、言葉を続けた。


「そこで私は考えた。今までの『祓魔師』が行っていた浄化と呼ばれる行為は"祓い"であり、立科君が行う方法は"浄める"行為である。その差こそが重要なのではないか、と」

「その、差というのは?」

「うーん、これは私の勝手な想像なんだけれどね。"祓い"という能力はその名の通り、災厄を取り除くという意味合いが含まれていると思うんだ。対して、"浄める"という方は、悪いモノを良いものに変え、元に戻すというイメージが強い。まぁ、これに関しては本当に個人的な見解だから、参考程度にしておくといい」

「はい」

「まさに未知の世界だ。調べたい事は多々あるが……その前にすべき事があるね」

「この子がどのような存在なのか、私には理解出来ないが、いつまでもアレやソレで呼ぶのは良くないな」


 美鈴さんの言葉に、東御先生が賛同の意を示す。


「立科、飼い主であるお前の最初の仕事だ。名前を付けてやりなさい」

「わ、わかりました」


 僕は漆黒の狼に目を向けた。漆黒の狼はお座りの状態で口を開きながら僕をジッと見つめ、尻尾を振りながら待っている。


「僕が決めてもいいのかな?」

「ウォン!」


 力強く返事をする。どうやら、それでいいらしい。

 漆黒の狼を眺めながら考える。黒という色は好きだ。ただ、それだけでいいだろうか?


「……クロはどうかな?」


 真っ黒の狼という印象から、つい口から漏れてしまった。漆黒の狼は僕の方を見ながら首を傾げる。


「おやおや、少しばかりストレートなネーミングでお気に召さないのかな?」


 余計なお世話だよ、美鈴さん! 自分でも分かっているんだから!

 ニヤニヤとしている美鈴さんの方をジーっと見つめていると、「ごめん、冗談だって」と言いながらも笑顔のまま謝ってくるが、正直全く信用できない。

 僕が溜め息を吐いている間に、東御先生が呟く。


「立科の考えた名前も悪くはないと思うのだが、安直過ぎるのか?」


 すると、漆黒の狼が、僕の様子を窺いながら小さく鳴いた。


「クゥン」


 何やら少し残念そうな声に聞こえたのはきっと勘違いじゃないだろう。


(確かに僕が悪いんだけど……そこまで落ち込まないでくれ……)


「あれ? もしかしてその子、女の子?」


 漆黒の狼は、佐久穂さんの言葉に反応したように鳴いた。


「ガウッ!」

「あ、やっぱり女の子か。それじゃクロって名前だとカッコイイもんね」

「ガウ?」

「男の子ならまだしも、女の子なのに、その名前はちょっと……ってなるんじゃないかな?」

「キュウーン」

「……そっか、そうだよね。分かった。別のにしよう。ゴメンね?」

「グルル。ガウッ!」


 なにやらあの子と会話をする様に、佐久穂さんは申し訳なさそうに話す。確かに彼女の言うとおりかもしれない。漆黒の狼に、謝罪の意味を込めて頭を撫でた。


「うーん……ポチとかタマしか浮かばない自分の頭が恨めしいよ」

「……あんこはどうだ?」

「玲ちゃん、何か言った?」

「いえ、何でもありません」

「ふむ、そうだねぇ。じゃあ、瑠依ちゃんはどんなのが良いのかね?」


 美鈴さんが佐久穂さんの方を向いて問いかける。佐久穂さんは腕を組んで、悩み始めた。


「そうですね……。"イオ"なんてどうですか?」

「"イオ"? 何か理由でもある……あぁ……」


 美鈴さんが何かを察した様な顔になったのを僕は見逃さなかった。おそらく何かを知っているのだと思う。だが敢えて口に出さない所を見ると……あまり触らない方が良いのかな? と僕は判断したのだが……。

 すると僕が思っている事を代弁するかの様な発言をする人物が居て―――。


「佐久穂、それはどういう意味があるのだ?」

「それは……ほ、本人に直接聞いてください!!」

「本人に聞いているのだが……」

「それは分かっていますけど、アオイの前で言えるわけないでしょう!?」

「立科の前では言えない? それはどういう……」


 そこで言葉を止める東御先生。美鈴さんが「さすがに気付くかー」と言って、僕に視線を送ってきた。

 これだけヒントを貰えれば、僕だって分かる。つまりは僕の名前を逆順にしただけだって事がバレて、佐久穂さんが恥ずかしがっていたんだろう。


「あの、別に気にしなくて大丈夫ですよ?」

「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけれど、でもやっぱり何かこう……凄いハズカシインデス」

「立科が問題ないと言っているのであれば、何も問題ないではないか」

「もうっ!! だから言いたくなかったんだよぉ!」


 涙目の彼女は、少し拗ねていた。そんな彼女をフォローする為に、僕は声を掛ける。


「僕は嬉しかったです。ありがとうございます、佐久穂さん」

「え、い、いや、その」

「佐久穂は良い名を付けた。流石、私の生徒である」


 そう言いながら、僕達のやり取りを見守ってくれていた、東御先生が笑みを浮かべながら援護射撃をし掛けてくれた。

 僕は再び漆黒の狼に向き合い、名前を告げる。


「今日から君の名前は"イオ"にします」

「……ウォォーーーン!!」


 僕が名前を伝えると、先程とは違った雄叫びを上げた。それはまるで喜びを体現しているかのように見えたのだった。

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