16話
美鈴さんが僕達に、『祓魔師』について教えてくれようとする為、口を開く。
「まずは立科君に説明するよ。キミの場合は、こちらからお願いする立場だからね」
美鈴さんはそう言うと、僕に一枚の紙を手渡してくれた。
「これは……?」
「『祓魔師』に関する資料だよ。私が持っている情報と、実際に活動している、『祓魔師』の人達が書き記したものを纏めたものさ」
「これが……」
「ああ。キミが今後、目指すべき道だ」
美鈴さんはそう言い切ると、真剣な表情を見せる。その言葉を受けて、僕の脳裏に、あの時の光景が思い浮かび、軽く頭を振って意識を切り替えた。
「……分かりました。拝見します」
「どうぞ。何か分からない事があったら、遠慮なく聞いてくれたまえ。私に答えられる範囲で答えるつもりだよ。ただし、私の質問にも答えてもらうけどね」
「はい。よろしくお願い致します」
美鈴さんの言葉に、僕は頭を下げて返事をする。
僕は美鈴さんに渡された紙の束に目を通し始めた。僕が手に取った用紙には、様々な項目が書かれている。
「えっと、何々……」
僕は、書かれている内容に目を通していく。
そこには、『祓魔師』という職業がどういうものなのか、どのようにして力を身に付けていくのか、など基本的な事が書かれていた。
「正直に言ってしまうとだな、そこに書かれている内容は、どちらかと言えば瑠衣ちゃんの様な力を持たない者が、『祓魔師』を目指す為のものだ」
「そうなんですか?」
「ああ。以前、簡単に説明したが、日本では立科君が初めて"穢れ"を浄化し、力を取り込んだ者だ。つまりこの国では事例が無いと言える」
「なるほど」
「ただ、各国から送られてきた報告によれば、立科君の様に力を取り込んだ数名が、既に、『祓魔師』として行動し、活躍している。彼等は『祓魔師』の中でも上位に位置する実力者達だよ」
「そうなんですか。凄いなぁ……」
僕は美鈴さんの説明を聞きながら、手に持つ資料に視線を落とした。
『祓魔師』という存在についての簡単な説明と、現在の活躍者達の名前が記されている。
「興味津々なところ悪いが、話を続けさせてもらっても良いかい? 立科君」
「あっ、すみません。どうぞ」
美鈴さんは小さく息を吐くと、手元の資料に視線を落としながら、話を続けた。
「立科君の場合、秘密保持誓約書に名前を署名してもらう事になる。守るべき事は簡単な内容で、我々の立場や秘密、知り得た情報を外部に漏らさない様にする事だ」
「機密事項ですか」
「そういう事だ。『祓魔師』とは、"穢れ"と立ち向かう為に、日本だけではなく世界各国で活動を行っており、その存在が公に知られれば、大変面倒な事態になる」
「それは……確かにそうですね」
「なので、我々は秘密裏に動いているんだ。その辺りは理解してくれるかな?」
「はい。分かります」
「ありがとう。立科君は物分りが良くて助かるよ」
美鈴さんはそう言うと、ニッコリと微笑んでくれた。
「そうそう、大切な事を言い忘れていたよ」
「何でしょうか?」
「制約が多い反面、表向きには、『祓魔師』は公務員扱いになるんだよ。つまりお給料が支給される訳だ。そこにプラスして、緊急性やら危険手当やらが加算されるから……立科君の初任給は結構な額になると思う」
「そ、そうなんですか!?」
僕は美鈴さんの言葉を聞いて、思わず声を上げて驚いてしまった。
ようやく学園へ通う年齢になったばかりの僕は、バイトすらした事が無い。いきなりお金が貰えると言われても、実感が湧かない。
「あははっ、立科君は驚き過ぎだよ。でもまあ、気持ちは分かる。何せ、今まで普通に生きてきたのに、急にお金が手に入るなんて言われたら驚くよね」
「はい。そうですね」
「まあ、立科君は特別だから、普通の人よりも多めに支払われるかもだけど」
「ははは……」
美鈴さんの言葉に乾いた笑いを受け流すのが精一杯であった。
「さて、次は瑠衣ちゃんかな」
「はい! 伯母さん!」
佐久穂さんは元気良く返事をすると、美鈴さんから一冊の冊子を受け取る。
表紙を見るとやはり、『祓魔師』に関する資料である事が分かった。
「瑠衣ちゃんも原則は立科君と同じ、『祓魔師』になれた場合は、秘密保持誓約書に署名と、公務員扱いになり、お給料が出るよ」
「わーい! お給料がもらえるんだー!」
佐久穂さんは嬉しそうに万歳をしている。そんな彼女の様子を見ながら、美鈴さんは苦笑していた。
「さて、ここからが問題。力を所持していない瑠衣ちゃんが、『祓魔師』になる方法だ」
「はいっ」
「まずは、"穢れ"と戦う為にも、最低限の体力を得る為に鍛える所から始めよう。これは立科君も一緒だね」
「はい」
僕と佐久穂さんの二人は、揃って返事をした。
「それと並行して、武器の取り扱い方を学んでもらう事になる」
「しっつもーん!」
「なんだい、瑠衣ちゃん?」
「『祓魔師』が扱える武器って、どんなものがあるのー?」
「そうだなぁ、日本だと刀や剣、槍に薙刀なんかがあるね」
「ふむふむー?」
美鈴さんの話を聞く限り、日本の文化や歴史が関係していそうにもみえるのだが……正直よく分からない。
「後は……銃火器類を扱う人もいるみたいだよ?」
「おおぉぉ~!! かっこいいぃ!!」
「ただし、あくまで海外での話だ。日本では使用許可されていないよ」
「えぇー!」
「"穢れ"に対して物理攻撃が有効な限り、銃火器が使えれば随分と楽に戦えるんだけど、他部署との取り決めとかもあって、現状は難しいんだよ」
「そっかー。残念だなー」
言葉どおり、残念そうな表情を浮かべる佐久穂さん。
「その二つを重点的に伸ばした後は、『祓魔師』になる為の試験を受験する事になる。立科君は免除されるけれどね」
「試験ですか」
「うん。学科と実技があって、その試験に合格すれば、『祓魔師』になれるよ」
「うぅ……勉強は苦手なんだよなぁ」
佐久穂さんは、困った表情を見せながら頬を掻いている。
「まあまあ、二人共。今日は一先ずここまでにしておこうか。細かな内容は持ってきた資料に書いてあるから、後々確認してくれればいい。ちなみに極秘資料だぞぉ」
美鈴さんは、わざとらしく口元に指を当ててニヤリと笑う。その表情はどこか悪戯っ子を思わせるものだった。
「よし、じゃあ今日はこれで解散だ。瑠衣ちゃんも今日は私と一緒に帰るぞー?」
「えぇー! アオイに聞きたい事とか沢山あるのに!」
「二人の関係をほじくり返した私がいう台詞ではないが、一人で考える時間も必要だと思うぞ?」
「うぐっ……」
美鈴さんに痛いところを突かれたのか、佐久穂さんが黙り込む。
「それに、日が暮れて夜が訪れれば、それだけ、"穢れ"と遭遇する可能性が高まる。一度ヤツラと遭遇し、退治した二人は、ヤツラから優先して狙われる可能性も高い。気を付けないと」
「はい……」
「まっ! 今はお互いの顔を見ながら通話が可能な時代だ。お互いに気になる事があるのなら、自室でゆっくりと話せば良いじゃないか」
「……うん、そうだね。分かったよ、美鈴伯母さん」
佐久穂さんは納得してくれたようだ。
「お邪魔したよ」と言い残して美鈴さんは、佐久穂さんを連れて玄関から出て行った。




