12話
それから時間は流れていき、放課後を迎えた僕は、約束を守る為に隣にい……ない?
教室を見渡すと、佐久穂さんは友達数人に囲まれて楽しそうな笑みを浮かべている。
僕はその様子を遠くから眺めていると、視線に気づいた佐久穂さんは僕に目配せをして口パクで何かを伝えようとする。
(た・す・け・て)
その言葉に僕は苦笑を浮かべながら席を立った。僕は佐久穂さんの元へ歩み寄りながら声を掛ける。
「盛り上がっている所ゴメンね、佐久穂さんを借りてもいいかな?」
「あ、立科君! どうぞどうぞ!」
「瑠衣と話はいつでもできるしね!」
「という訳だからガンバって行ってきなさい!」
「ありがとうございます。では、佐久穂さんをお借りしますね」
僕はそう告げると佐久穂さんの手を掴んで引っ張りながら教室を後にした。
―――――
帰り道、僕は気になっている事を彼女に尋ねる。
「どうしていきなり助けて欲しいって合図を送ってきたの?」
「アオイの事を聞かれてさ、困ったから咄嵯に助けを求めちゃった」
「僕の事を?」
僕は首を傾げて聞き返すと、彼女はコクリと小さく縦に首を振る。
「『瑠衣と仲が良い男子って誰?』って質問されたから、アオイの名前を挙げたんだ」
「そうしたらあの騒ぎって事?」
「そういうことー」
教室から連れ出した時のまま、気が付けば佐久穂さんの手を握り続けながら歩き、話を続ける。佐久穂さんは、僕の問いに笑顔で応えてくれる。
「答えれば答えたで、『やっぱり、瑠依と仲の良い男子って立科くんしか思い浮かばなくて』とか言われてさ」
「なるほど」
「本当の事を言うだけなのに、大変だったよー」
佐久穂さんは、両手を上げて大きく伸びをしながら言う。
彼女は僕と一緒に帰宅する日は、いつも決まって僕の家に遊びに来る。今日も僕の家で遊ぶ事になり、今まさに僕の部屋へと向かっている最中である。
佐久穂さんは、僕の横に並ぶと僕の腕を抱きしめて、身体を密着させてくる。
「ちょっ!? 佐久穂さん?」
「えへへ、アオイ成分補給中〜」
「人が通るかもしれないから離れて!! あとアオイ成分って何!?」
「アタシの元気の源だよ〜」
「そんな恥ずかしい事を堂々と言わないでください!!」
「冷たいなぁ〜、そんなんじゃモテないぞ? アタシは気にしないけど」
「僕が気になるんですよ!! 佐久穂さんと一緒に遊んでいる間は、他の女子から声を掛けられる事は、ほとんどありませんし……」
「確かにアオイは、アタシ以外の女の子と話しているところを見たことがないかも。たまには違う子とも話をした方が良いよ?」
「佐久穂さんがそれを言いますか……」
僕がため息混じりに呟くと、佐久穂さんはキョトンとした表情を見せる。
唐突に猫のように甘えてきたり、急に離れて行く様な発言をする彼女を見ていると、怒る気力も無くなってくるから不思議だ。
そんな僕らの様子を周りは、微笑ましいものを見るかのように見つめている気がするけれど……きっと気のせいではないと思う。
―――――
帰宅後、玄関の鍵を開けて扉を開く。
佐久穂さんは開かれた玄関に一目散に入り込むと、こちらを振り向いて僕の言葉を待っている。
「ただいま」
「おかえりー!」
いつからだろう、佐久穂さんがこうして僕の家で遊ぶ時は、こうして笑顔を浮かべながら僕を出迎えてくれる。
最初こそ戸惑っていたものの、今ではすっかり慣れてしまった自分がいて、なんだか可笑しい。
靴を脱いで廊下に上がると、佐久穂さんは僕の背中を押しながらリビングへと誘導していく。
「はい、到着!」
「佐久穂さん。いつもありがとう」
「気にしなさんなって! それよりもご飯にする? お風呂にする? それとも、ア・タ・シ?」
佐久穂さんは、両手を広げながら、僕に抱きつこうとしている。
僕は両手を前に出して、彼女の手に絡めさせて動きを止めながら言う。
「あまりにも唐突過ぎてビックリしたよ」
「えー、有名な台詞だと思うんだけどなぁ」
「確かに僕でも知っているぐらいだけど、突然言われたら驚くよ」
「まっ、それもそうだよねー」
正面で向かい合いながら手を絡ませての攻防中、僕達はお互いに手を動かしながら会話を続けていた。
佐久穂さんは僕の手を引き寄せようとしており、僕は佐久穂さんの手を離そうとしている。
僕は体勢を崩さないように注意して足に力を入れて耐える。
佐久穂さんは僕の家に遊びに来た時は、よくこうしてスキンシップを取ってくるのだが、正直心臓が持たない。
「ねえ、アオイー」
「どうしました?」
「そろそろ降参してくれても良いんじゃないかな?」
「佐久穂さんこそ、もう諦めてくれませんかね?」
「むぅ、仕方ない! ならこれでどうだ!」
佐久穂さんがそう言うと、引き寄せられていた力が急に抜けて、そのままバランスが崩れそうになる。
僕は慌てて踏ん張ろうとするが、佐久穂さんは僕の胸に飛び込んできて、そのまま二人一緒に倒れ込んだ。
仰向けで倒れたまま天井を見上げており、佐久穂さんは僕の上に覆い被さるように乗っかっている。
「あはははは! アオイ、顔真っ赤だね!」
「そりゃあ、こんな状況になったら誰だって顔赤くなりますって……」
「まあ、アオイは照れ屋さんだからね!」
「うぐっ!」
彼女の容赦ない一言に、僕は思わず言葉に詰まる。
佐久穂さんは僕の上に跨りながら、僕の頬を指で突っついてくる。
「ほれ、ほれ!」
「やめてください! まったく……佐久穂さんは本当にいつもどおりですね」
「それが取り柄だからね! にひひー!」
佐久穂さんは僕に馬乗りになりながら、楽しそうな笑みを浮かべている。
八重歯を覗かせながら笑うその姿は、いつもより幼く見えてとても可愛らしい。




