11話
いつもどおりにと考えながら過ごす学園生活。
授業の合間にある休憩時間で頭を過るのは、『祓魔師』という単語。
あの日以来、何度も繰り返し考える様になっていた。
"穢れ"を取り込む事が出来た人間、日本では僕が初めてだというのにも関わらず、美鈴さんは僕に選択肢を与えてくれた。
あちらの状況を考えてみれば、無理矢理にでも僕を、『祓魔師』にさせ、"穢れ"と戦わせる事も出来る筈なのに、美鈴さんはそうはせず、あくまで僕の意思を尊重してくれたのだ。
腕を組みながら悩む僕を、佐久穂さんは横でずっと見つめている。
その表情はとても真剣で、僕がどんな決断をするのかを待っているかのようだ。
「僕は……」
僕は『祓魔師』になりたいのだろうか? そもそも、僕は何の為に戦う事になるのだろうか。
佐久穂さんの為か? 美鈴さんの為か? それともまだ見ぬ他の誰かなのか。
わからない。答えが出ない。
だが、このままではいけないという気持ちだけが募っていく。
「うーん、難しい顔しているなぁ」
佐久穂さんは、僕が考え込んでいる様子を見て呟く。
「えっ?」
「眉間にシワが寄っているよ?」
佐久穂さんは人差し指を伸ばして僕の額に触れる。
「むぅ、シワシワだね!」
「そんなに酷いですか?」
「うん。そんなに思い詰めなくてもいいんじゃないかな? 真剣な顔をしたアオイもカッコイイけど、やっぱり笑ってくれる方がアタシは好きだなー」
そう言って微笑む彼女の笑顔を見ていると、僕もつられて笑ってしまう。
佐久穂さんは、僕に勇気をくれた。
「ごめん、ちょっと悩み事をしていたけど、佐久穂さんのおかげで解決したよ」
「ホントに?」
「本当だよ」
自分の為に、『祓魔師』になる理由はまだ分からないけど、この力で守りたい人を、頼りにしてくれる人の為に初めてみるのも、悪くないのではないかな。
「それじゃあ! お礼としてアタシに何をしてくれるのかな!?」
「お礼の要求をするんですか! な、何かして欲しい事があるの?」
「そりゃもう! たくさんあるよ!!」
そう言いながら佐久穂さんは、目を輝かせて僕を見る。一体何をして欲しいのだろう? 出来れば懐に優しい事であればいいのだが……。
「そ、それはいったいなんでしょうか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」
そう言うと、彼女は鞄の中から手帳を取り出した。
「ジャジャーン!! 今月の予定表〜!」
「ああ、そういえば佐久穂さんは、手帳にメモするタイプでしたね」
「そうそう。忘れっぽいからね〜」
佐久穂さんは、ニコニコしながらページを捲り、スケジュールを確認し始める。
「それで、僕にお願いしたい事って言うのは?」
「まずはコレだね」
彼女は一枚の紙を渡される。そこには可愛らしいイラストと共に、タイトルが書かれていた。
【佐久穂瑠依による立科葵への質問】
「な、なにこれ……?」
「見てのとおり、質問コーナーです!」
「いや、そういう意味ではなくて……」
「ちなみにこのコーナーは、不定期でやるよ!」
「不定期なんだ」
「まあねー。思いついた時にしかやらないし」
「そうなんだ……」
僕は、佐久穂さんから渡された紙を見ながら答える。
このコーナーについての説明を聞きながら、僕は疑問に思ったことを佐久穂さんに尋ねることにした。
「このコーナーをやって、僕にメリットはあるのかな?」
「もちろん! 自分を見つめ直す機会にもなるし、なによりアタシが喜ぶよ!」
「喜んで貰えるのなら、別に構わないんだけどさ……」
「ありがとう、アオイ! それじゃあ早速始めよう!」
佐久穂さんは嬉しそうに話すと、机に手帳を広げて準備を始める。
―――――
佐久穂さんは、僕に色々と尋ねてきた。
好きな食べ物は何か、休日は何をしているのか、普段の生活はどうしているのか等々。
僕はそれに一つ一つ丁寧に答えていく。
この学園に進学し、まだ数ヶ月しか経過していないのに、随分と色々な事があったと思う。
その中でも特に印象に残っている出来事の一つは、佐久穂さんとの距離感がこれほど縮まるだなんて、入学当初は想像すらしていなかった事だ。
最初はただの同じクラスメイトで、席がお隣さんだった、それだけの関係だったのに。
今ではこうして、僕の隣に彼女がいる事が当たり前になっている。
佐久穂さんは、いつも元気で、誰に対しても明るく接している。
容姿も整っており、男女問わず人気者だ。
いつも周りには人が溢れており、賑やかな空間が出来上がっている。
それは、僕と話しかける時も変わらず、いつも楽しげで、笑顔を絶やすことはない。
だが、二人きりになった時、佐久穂さんは少しだけ違う顔を見せる。
不意にいつもの明るさはなくなり、とても落ち着いた様子で、大人びた雰囲気を醸し出している。
まるで別人のように感じるが、これが本当の彼女なのだと僕は思う。
僕が思考に耽ていると、佐久穂さんは僕の方へ視線を向ける。
「なるほどなるほど! つまりアオイは、普段はあまり喋らず、クールな雰囲気だけど、いざという時には、熱い一面を見せるキャラだね!」
佐久穂さんは、僕の設定を自由気ままに書き込んでいく。
「えっと、僕は熱血系ではないのですが……」
「大丈夫! これからアオイは、どんどん成長していくんだよ!」
「成長するって言われても、何が起きるのか全く予想出来ないんですが」
「ふっふっふ、その時になればわかるってば!」
僕の言葉に対して、自信満々に語る佐久穂さん。その瞳は、僕に期待しているかのように見える。
彼女は、僕にどんな成長を期待しているのだろうか? そして、彼女は再びペンを走らせる。
「あ! 今日も一緒に帰ろうね!」
「分かりました。佐久穂さんのお願いであれば喜んで」
「うん!! 約束だからね?」
佐久穂さんは嬉しそうに小指を差し出してくるので、僕は自分の小指を出して彼女と指切りげんまんをした。
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