10話
「ご馳走さまでした、美鈴さん」
「気にしなくていい。私の姪が世話になった礼だと思えば安いものだ。お腹一杯になったかい?」
「はい。とても美味しかったです」
「伯母さん、また一緒にご飯を食べようね!」
「勿論だよ、瑠依ちゃん」
笑い飛ばしながらも、僕の言葉を受け止める美鈴さん。
「これからどうなさるのですか?」
「そうだな、瑠依ちゃんを家まで送り届けたら職場に戻るつもりだ。まだ仕事が残っているからな」
「忙しいんですね」
「まぁ、こうして息抜きをする事で気分転換にもなるから心配はいらないよ」
美鈴さんは苦笑交じりに答えてくれた。
「ああ、そうだ立科君。キミにはこれを渡しておこう」
そう言うと一枚の名刺とお守りを渡された。名刺には美鈴さんの名前や顔写真と共に、『第一捜査機関 祓魔課』と書かれていた。
「これは以前、学校で仰られていた組織の名称ですか?」
「そのとおり。きちんと話を聞いていてくれて助かるよ」
「専門用語が多くて、頭に残っていただけですよ。僕が貰ってしまってもよいのでしょうか?」
「もちろんさ。"穢れ"に関する事であれば、その名刺は立科君の身を保証するのに役立つはずさ」
僕の言葉に美鈴さんは満面の笑みで答えると、僕の肩に手を置く。
「私はまだ立科君を、『祓魔師』として勧誘する事を諦めていないからな!」
「うわぁ、美鈴伯母さんってば、強引なんだから!」
「はははっ、私はこれでも瑠依ちゃんの伯母だからね。誰かさんとよく似て強引なのさ」
美鈴さんは、佐久穂さんに向けてウィンクをしながら、人差し指を突き出していた。
「大丈夫、この件については無理強いするつもりはないさ。立科君の意思を尊重させて貰うよ」
「美鈴さん……」
「ただ、この先も同じような事が起こらないとは限らない。もしもの時の為に渡したお守りが役に立つはずだ」
「ありがとうございます」
「気にしなくていい。これも"穢れ"と向き合う者、"穢れ"と戦う力を持つ者の義務だからね」
そう言いながら僕の頭の上に手を乗せ、軽く髪を掻き乱すようにして撫でられる。
美鈴さんの手は温かくて、そして優しかった。
―――――
再び平日が訪れた。
雲ひとつない青空が広がり、太陽の光が燦々と降り注いでいるのが窓からよく見える。
僕は伸びをしてベッドから出ると制服へと着替える為、クローゼットを開いた。
鏡の前に立ち寝癖のついた自分の黒髪を見ながら顔を洗おうと部屋を出て廊下に出る。
先週は怒涛の日々が押し寄せて来ていたが、それも少しではあるが落ち着きを取り戻した。
いつも通り平穏な学園生活を過ごす事が出来るだろう。顔を洗い終えると、朝食を取り、家を出る。
「いってきます」
誰も居なくなった家に声を掛けてから玄関の扉を閉め、鍵を掛けると学園に向けて歩き出した。
僕はいつもどおりの通学路を通って学園へと向かう。
すると、後ろから慌ただしい足音と共に元気の良い声が聞こえてきた。
「おはよう、アオイ! 登校中に会うなんて珍しい! 今日はイイ事がありそう!」
「佐久穂さん、おはようございます」
僕が挨拶を交わすと、佐久穂さんは僕の隣に並んで歩く。
佐久穂さんは僕より先に教室に入り、僕の席の周りで会話している女子グループの中に混ざっている事が多い。なので、こうして登校中に一緒になる事は稀だったりする。
佐久穂さんは僕の方を見て、ニカッと笑いながら話しかけてくる。
「アオイは今日も眠そうだね!」
「はい。昨日は少し遅くまで起きていたので」
「えー? 夜更かしはよくないよ?」
「佐久穂さんだって、時々ですが深夜に電話をかけてくるじゃないですか」
「あはは、アオイならまだ起きてるかなーって思って!」
佐久穂さんは楽しげに笑いながら僕を見つめていた。彼女の明るい声色は、聞いていて心地が良い。
「それじゃ、お互い様という事で」
「だね!」
そう言ってお互いに笑みを浮かべる。佐久穂さんとはいつもこんな感じだ。
僕の背中をバシバシと叩き、喝を入れる佐久穂さん。少しだけ先に進み、こちらへ振り返る。
「ほら、早く行こう! 遅刻しちゃうよ!」
「はい、急ぎましょう」
僕達は学園を目指して駆け出す。




