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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

首をぎゅうっと絞めてくれる女の子

作者: 葉山 灯

 首をね、こうぎゅっと絞めてくるんですよ。


 夜にあの子がやって来てね、そう小さい……小学生ぐらいかな。顔もどんな服を着てるのかも曖昧で、ただぼんやりとした影が私のお腹に座ってます。


 うん、でも分かるんです。女の子だって。知らない子。


 その子は夜にそこにいます。


 毎晩では無いですけど眠れない深夜とかによく見ますね。


 たんたん、と屋根に雨が当たる音を聞いているとお腹に圧迫感があって瞼を開けるとそこにあの子がいるんです。


 私は、ああ今日もいるなあと彼女の姿を半目で見つめては口をパクパク開けます。


 声が何故かその時出ないんですよ。


 だから少しでも伝えようと頑張って口を動かします。


「今日もやって、と」


 そしたらですね。ずりずりと身体に乗ったまま近づいて、こうたくし上げる仕草をするんです。


 暑い時、荷物を運ぶ時長袖を捲るじゃないですか。多分着物を着てるんでしょうね。紐を結んで捲る仕草をします。


 顔も分からない女の子です。


 でもその細い腕はとても白いのです。私は眼鏡を外すと何も見えなくなるのですが、不思議な事にその腕だけははっきりと見えるんです。


 耳鳴りが聞こえる程の暗闇にその白さはとても綺麗なんです。とっても。


 その腕が私の首をね、優しく撫でてきます。指の腹でちょんちょん、と軽く触れるとそのまま円を描いて首筋をゆっくりと当てていきます。


 その手はぞっとする程冷たい。けれど、その手つきは軽く、雨音に合わせて小刻みに揺れます。


 どこか楽しげな様子に私はため息をつきます。


 息ってちゃんと吐くと一つ一つの神経が緩んで、暗闇に身体に溶けてゆくんです。


 すると、ね。彼女が両手で包み込むように首を押さえてきます。脇の辺りに固いものに触れてそれがあの子の膝だと気付きます。


 今、あの子は膝を立てようとしてるんだ、と。体重をしっかり掛けようと頑張って。


 初めて彼女にそうされた時、不思議と恐怖はありませんでした。


 だって怖がったら可哀想じゃありませんか。頑張ってるのにね。


 真っ暗闇に溶け切った私を見下ろす彼女の視線がはっきりと感じます。


 小さいその手が段々と重くなって息が苦しくなり始めました。


 本当なら両腕をピンと立てて重力をしっかり掛けないといけないのですが、あの子は腕を曲げて顔を私の頬に擦り付けます。


 猫みたいですよね。私の上に覆い被さって彼女達はゆっくりと全身を動かします。


 ……ふふ。そんな顔しないでください。あなたが考えている行為じゃないですよ。


 多分、違うかもしれません。もしかしたら別の理由があるかも知れない。


 でも何となく慰めてくれてるんだろうなぁと思うんです。


 雨が降る夜は頭痛が酷くなって眠れないんです。その時に彼女は現れて、精一杯慰めた後に首を絞めてくれるんだと思ってます。


 間違っても私は最後までそう信じたいですね。


 私は右手で彼女の背中をトン、と触れると静かに離れていってそのまま首を強く絞めます。


 ぎゅうって強く、彼女の細い腕にたくさん力を込めて私を絞めようとします。


 私の意識はすぐにぼやけていって、必死に息を吸おうとしても出来なくなって身体が抵抗してきます。


 死にたくない、と身体が叫ぶのが聞こえるようです。


 でも私の手は絞めあげる彼女の両手の上に重ねて、そのまま続けてと促します。


「もうすぐだよ」


 勝手に涙が流れてしまうので、無理に笑みを浮かべていると更に腕に力が入っていきます。


 その時、スイッチが切れるんですね。


 もう終わってしまったスイッチ。あれ程痙攣していたのに、フッと身体から全て抜けていく感覚。


 後はただ真っ暗な闇が延々と続いていました。


 天国も地獄も無く、あるのは一つだけでした。


 白い腕です。ほっそりとしたあの透き通るような白さだけが瞼の裏に焼き付いています。


 彼女の両手は私の背中と頭を支えて持ち上げると、ずるりと私を覆っていた泥のような暗さから浮上していきます。


 気付いたら咳き込んでいました。意識が戻る前にいつの間にか息を大きく吸ってるんですね。


 鼻水と涙で顔がぐちゃぐちゃになって、えづいているとようやく音が聞こえてきました。


 雨音、雨音です。


 水滴が空から落ちるだけなのにその音は非常に心地よく、私は枕を抱き締めて泣きました。


 彼女はもういませんでした。


 静かな暗い部屋で私はあの子がいた場所をいつまでも見つめていました。


 お水を一杯飲んでその日はぐっすりと眠りました。これで私の話は終わります。


 多分、明日か明後日ぐらいだと思います。


 彼女の顔が見えるようになって来たのでそろそろかな、と。


 だから仕事を辞めてこうして最後にあなたとお話ししています。


 昔、一緒にカレー食べたじゃないですか。あれすっごく嬉しかったんです。


 誘ってくれてありがとうございました。


 じゃあ、帰ります。もしかしたら又会えるかもしれません。


 でも、私はこれで終わりたいと思います。


 あの子に最後は抱きしめられたいなぁ。夜ってあんなにも綺麗な時間だとは知らなかったんです。


 ……雨が降ってきましたね。


 それでは、お元気で。


 


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