091話 技術水準向上の試み 5
-リベスタン城塞 マリーナの部屋-
領地に鍛冶師が居る事がここまでの差を生むとは思っていなかった。ノーマが優秀という事も有るが、俺が考えていたよりも鍛冶技術というのはいろいろな部分で要となる役割を果たしていた。単純に釘すら商人を待って購入せねばならない状態と自前で作成出来る状態、どちらが有利かを考えれば自明な話だ。
鍛冶場が完成するとノーマ達は俺が作成した道具の分析と再現に着手。既存の道具についても協力して強度不足な箇所の改良に取り組んでいる。彼女は余程専用の工房が持てた事が嬉しかったらしく、ずっと入り浸っている。
一時、心配になって適度に休む様に言ったのだが『やっと念願の環境が手に入ったのに使わないのは勿体ない』と耳を貸す様子が無かったのでそのままにしている。まぁ、そのうち落ち着くだろう。今のところ良い方向に作用しているので、敢えて諫める真似は控えている。
-自警団詰所 倉庫-
「どうかな、これでほぼ同じ物が造れたと思うんだが」
「良く再現出来ています。このまま複製出来れば充分用途を満たすと思います」
ボンデ達で作成した伐採機は充分な性能が有った。これが量産出来ると開拓速度が一気に上がる。今後も改良は必要だが、一足飛びに出来るものでもない。使った上での改善点を纏めて次に生かせばより便利な物が出来上がるだろう。
「マリーナ、言われた通りに作ってみたけど、こんな感じでいいのかい?」
「はい、流石ですね。これでかなり効率が良くなると思います」
ノーマに頼んでいたのは『犂』だ。牛や馬に牽かせて使う。人の手で耕していては時間が掛かり過ぎる。今後は作付け面積の拡大と共に畑が増える。
カシムーン領では家畜を農業利用するのが一般的だ。効率面からサマリード領でも導入は必須、前もって必要な道具は用意しておくべきだろう。トリスタンで見た物は木製犂だったので、耐久性や強度を考慮して一部を金属製に改良してある。家畜に固定する鞍の部分はトリスタンからの購入でも賄える。
トーラスに頼んで家畜小屋を村の端に建設中だ。フォートの牧場整備も並行して進めているので、完成すれば領内の生産性はかなりの上昇が見込める。水車小屋のおかげで手の空いた村人を作業に当てられるのも大きい。予想以上に進捗が早まるだろう。
「お嬢、アモットが来たよ。とりあえず応接室で待たせてある」
「分かりました。すぐに向かいます」
家畜の買い付けは出入り商人のアモットに頼むことにした。俺達では目利きが出来ないからだ。数を揃えるにも時間が掛かるし、荷車用の馬も増やす必要が有る。幸いにも資金は潤沢、知見の有る彼に任せた方が安心というものだ。
しかし、こう何でも俺が正面に出て対応していては埒が明かないな。何とかせねば。




