76話 王国武芸大会 10
-闘技場 入口-
武術大会とは言えやはり本戦と新人戦では扱いが全然違う。基本的に本戦のおまけ程度の重みしかない。それは出場選手の強さからも明らかだし、本戦の二回戦の後に決勝戦が実施されるところを見れば歴然だ。本戦だけでは賭けとして面白味が足りなかったという事なのだろう。
おそらくは公営賭博有りきの新人戦なのだと思われる。競馬で言うところのGⅠレースに対する新馬戦、ギャンブル性の高さ或いは読み難さを提供すべく後付けで開催された部門と見ていいだろう。一応、登竜門としての位置付けもあるには有るが。
「決勝戦ぐらい、やる前にイベントが有るかと思っていたんだがな」
ちなみに本戦では選手紹介やら王族の挨拶があってから始まるらしい。残念ながら俺は紹介も無いままの会場入りだ。煩わしいのが無くて良いが何も無いのも少し寂しいものだな。
「さてと、決勝に相応しい見世物にしましょうかね」
既にブラックロータスは会場入りしている。観客席は思っていた以上に混んでいるな。それだけこの一戦の注目度が高いということか。
-闘技場-
開始位置に立って槍を構える。ここからは普段からやっている稽古と同じだ。違うのは今回は双方で武器が異なる点。頭の中で展開を組み立てる。ブラックロータスでも武器を構える。試合開始の合図が鳴った。では始めるか、やり過ぎない様に注意しよう。
初手はブラックロータスから、一気に間合いを詰めての多段突き。やはり動作に集中出来る分だけこちらの方が鋭い刺突になるな。一部を槍で払いながら体裁きで躱す。マリーナ側はどうしても人としての動きを気にするので少しだけ遅れる。まぁ、他の奴らなら今のでカタが付いただろうがね。
やられっぱなしというのは面白くない。間合いが切れる前にマリーナからも連続で刺突を繰り出す。体裁きのみで躱せるのはリソースの差だな。加えて言うなら装備の重さだ。ブラックロータスの装備は基本的に軽い。ハルバードの柄も中空構造の金属製。一方でマリーナは槍の柄は木製だが鎧はガチガチの鉄製。全身鎧って訳じゃないが小手に脛当と兜、胸甲に加え腰回りにも鋳造の部品が使われている。この体格には結構な重量だ。これだけでも充分なハンデ戦だな。この世界の一般的な店売りの武具を使っているのだからこうなるのは避けられない。
軽やかに動き回り間断なく仕掛けるブラックロータスに対し、防御に徹して反撃の機を窺う。途切れることもなく互いの武器が撃ち合う音だけが響く。
やはり人として動作する事にリソースを使わない分、差が埋まることは無いか。時間を掛ければその分だけ表現が増えるため更に差が付いてしまう。何度か間合いを切り、その度に呼吸を荒く変える。やり過ぎれば却って不自然。適度なところで切り上げねばな。
涼しげな顔で攻勢を続けるブラックロータスに比して次第に肩で息をする程の消耗を見せるマリーナ。この辺りが潮時かな。上段からの振り下ろしを槍で受け止める。受け止めた箇所へ踏み込んでの石突の打ち上げ。槍の柄が折れて砕け散った。追い打ちで回し蹴りを叩きこんで吹き飛ばす。何とか肘で防御出来たが衝撃が強過ぎて穂先を手放してしまった。後ろへと転がって受け身を取る。猛然と迫るハルバードの斧刃がマリーナの眼前で止まる。
「・・・ここまでですね。私の負けです」
片膝をついた姿勢で両手を挙げる。既に武器も無いしな。
攻撃姿勢を解いて踵を返すブラックロータス。審判の宣言を受け、勝者が確定する。
緊張が解けたら周囲の歓声に気が付いた。観客席を見るとなかなかの混み具合。思いの外盛り上がった様子。俺としては頑張った方だ。イシュマルの人達に文句を言われないと良いんだけどな。後は気にしてもどうにもなるまい。
-王都マハル 特別区-
宿に戻ってタニア達と合流する。まずは一息吐きたいところだ。
「お嬢お疲れ。残念だけどあそこで槍が折れたんじゃ仕方無いさ」
槍は分かり易く『折った』だけだ。あの展開なら観戦者の大半が納得出来るだろう。
それにブラックロータスは既に人間離れした動きだったからな。マリーナはやり過ぎない程度に抑えていたので終始押され気味に見えていたはずだ。
「いや、結果としては負けたが大した腕だよ。次は本戦に出るのかい?」
「面倒なのでもうしませんよ。こういうのは好きではありませんから」
「どうかなぁ、周りが放っておかないと思うけどねぇ」
その懸念は有るが、断れば済むことだろう。二度と関わりたくないものだな。




