69話 王国武芸大会 5
-武芸大会会場 観覧席-
予選第二試合、ブラックロータスでの初試合だ。やはりあの恰好は遠目に見ても特徴的な姿をしている。とても抽選会場と同一人物には見えない。
「あの人って最後に来てた女の人だよね?印象が全然違って見えるね」
「お嬢の鎧姿と少し似てる感じがするから、イシュマルの人なのかな」
「あぁ、だからマリーナの鎧ってあの形なんですね。見覚えが有るのも納得」
割と人気の有る神様らしい。信仰は別として、見た目は恰好良いものな。
さてと、もうすぐ始まる。そろそろ準備するとしよう。俺はブラックロータスに意識を集中する。
-闘技場 ブラックロータス-
五メートル程度の距離を空け、俺の前では剣と盾を構えた男が立ってこちらを見ている。
やや緊張した面持ち、こうした場に出るのは慣れていないのだろう。腕の程度は分からないが装備から判断するにそこそこの戦闘経験は有りそうかな。まぁ、怪我させるのも嫌なんで早めに済ませよう。
開始の合図と共に一気に間合いを詰めて突く。相手は急に来ると予想していなかったらしく、慌てて盾を構える。が、少し遅かったな。穂先を少し撥ね上げて逸らし、盾の内側に引っ掛けてこちら側に引き倒す。バランスを崩して前のめりによろめいた隙に右へと回り込み相手の左膝を裏側から蹴りつける。
完全に動きが止まったので首筋を狙って振り降ろす。一閃、とやってもいいんだが槍先の斧刃が首筋に乗ったところで止める。これは武術の試合で殺し合いじゃないしな。
少し間が空いたが審判員が俺の勝利を宣言したので態勢を戻す。相手の男は困惑気味だ。何が起きたか良く分かっていないんだろう。まずは一勝。次はこうは行くまいな。出来れば楽に済ませたいものだ。
-武芸大会会場 観覧席-
「何だ今の・・・瞬殺って・・・こんなのが居たなんてな」
「マリーナ大丈夫?あの人凄く強いんじゃないの?」
試合が済んだので意識を戻すとメリッサが心配そうな目で俺を見ている。こちら側の反応を薄くし過ぎたか。俺が驚いて固まったと思ったらしい。
「ん・・・そうですね。あれだけでは何とも言えないところです」
「始まってすぐに勝負が着いてたからねぇ。他にもあんなのが居るとは思わないが」
そりゃそうだ、全身鎧であの動きが出来る奴が沢山いてたまるか。
「とりあえず今日の試合は全部見て行こうよ。少し心配になってきたし」
ちょっとやり過ぎたか?まぁ、他の試合も見れば安心してくれるかな。
「分かりました。時間も有りますし、最後まで観戦していきましょう」
やることも無かったので今日の分の予選を全て観戦した。変に心配を掛けてしまったので、止むを得まい。明日以降も有るので何とも言えないところだが、全体的な質は大した事は無さそうだ。新人戦だから仕方の無い事かも知れないが、明日以降の二日で少しはマシな面子が居るかも知れない。
「う~ん、皆それなりに強かったけど差が無い感じだったね」
「そうだな、一人だけ飛び抜けて強そうなのが居たが」
「明日と明後日に低倍率の方々が集中していましたね」
なるほど、賭け率表を見れば凡その見当は付くのか。気が付かなかったな。
「今回の本命と見られているのはどんな方なんですか?」
賭け率の倍率が最も低い者が今回の本命のはずだ。誰だったかは覚えていないが。
「明日の予選に入っているベルモンドって人だね。名前しか分からないけど」
「その次が明後日の予選に出て来るアーガスって人。その二人は極端に倍率が低い」
「前評判も含めて本命視されてるのはその二人ということだな」
つまり今日の予選には元々大した奴が居なかったわけか。
「一先ずは宿に戻りましょう。ここに居てもすることが有りませんからね」
「そうだな。明日も朝から観に来るとしよう。思っていたよりは面白いからな」
タニア達には良い暇つぶしになるだろう。宿屋で飲んだくれているよりはマシだ。
予選二日目。昨日と同じく、俺からすれば退屈極まりない試合が続く。不意に周囲の観客が増えた。どうやら次が例のベルモンドの試合らしい。
会場には斧と丸盾を構えた戦士が一人、もう一人は大振りの両手剣を持った大男。190cmぐらいは有るか。あれがベルモンドだろう。これは勝負になるか怪しいな。体格が二回り違う時点で戦闘技術に相当な差が無ければ相手が出来まい。
そういや賭け率表には本人の体格や来歴が載せてあったな。新人だから参考になる資料が少ないということか。本命扱いも頷ける話だ。
大柄な相手を制するには速度が肝心だが、さてどうなるかな。
試合が始まると動いたのはベルモンドから。大きさに反して機敏だな。剣を振り回さずに槍の様な使い方をしている。
斧戦士は上手く防いでいる。体格差に潰されない様に常に軸をずらしての受け流し、機会を窺っているな。ベルモンドの剣の戻り動作に合わせて斧戦士が間合いを詰めた。合わせて待っていたかの様に踏み出すと剣の石突でのカウンター、そのまま浮かせて身体ごと捻っての横薙ぎ。武器と盾で防御はしていたがアレを食らってはもう立ち上がれないだろう。
数メートル吹き飛んだ斧戦士は倒れたまま起き上がらなかった。あれは死んだかも知れんな。力だけではなく技術も有るか。なるほど、本命になるはずだ。時間にすれば二分も経過していない。体力も消耗していないから次戦も元気なままの状態で臨める。厄介な奴が居たものだ。




