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14話 動作を洗練させる

-リベスタン城塞 鍛錬場 ゼベット-


「マリーナ様にも稽古をですか?」


 アモン様が5歳になったので少しずつ体を鍛えるための指導を始めたところだ。

 まだ基礎体力が付いていないので体術や槍術は教えていない。


 世話役としてアモン様の面倒を見てはいるが、去年の一件以来マリーナ様のお世話からは外れている。外されたというよりは年齢的なものもあってジルやリナに引き継いだというのが正しい。今はマイネル司教の薫陶を受けていると聞いていたので、もう私の出番は無いと思っていた。

 何でもマリーナ様から言い出したらしい。確かに少々お転婆ではあったが、そんなことに興味があるとは見えなかった。変われば変わるものだ。

 

「承知いたしました。明日からアモン様共々、お引き受けいたしましょう」


 そもそも指南役としてこの城に居るのだ。領主様から頼まれた以上はやるしかない。

 タニアやメリッサなど、女性でも武術を修める者は少なくないが・・・。

 怪我だけはさせないように気を付けねばな。



-リベスタン城塞 鍛錬場-


 この城の外に出て更なる知識を得たい。とは言え、簡単に出してくれるはずもない。

 ただでさえ一度行方不明になっている。城を挙げての大騒ぎになったのだ。

 なので出しても大丈夫という印象を持たせなければならない。単純なところで体を鍛えるのが良いだろうと結論付けた。実際には身体の動かし方を覚えるのが目的なのだが。こればかりは見るだけでは理解出来ないのでやってみるしかない。


 人間の身体に不可能な動きも出来るが、不信感を持たれては厄介だ。どこで誰が見ているか分からんからな。獣相手なら適当でも構わんが、対人は近くで見られているので誤魔化しが利かない。いずれは必要になる技術だろう。


 睡眠欲求が無いので夜間の暇つぶしにずっと人間の身体構成を練習してきた。骨格から筋肉組織、靭帯や内臓の造りまで。血流は無理だったが呼吸や動悸についてはかなり再現出来ていると思う。気を付けたのは肌の弾力だ。こればかりは分からなかったので何度かリナに抱き着いたり触ったりして確認した。


 新陳代謝も意識して模倣している。爪や髪が伸びないのはおかしいからな。たまにリナに切らせるようにしている。身長や体型も無理のない範囲で大きくしているところだ。体組織の成分は犬型で兎や鼠を獲って補填している。

 皮膚感覚と触感は有るが痛覚が無いので演技力が必要な場面があるかも知れない。


 まだまだ考えの至らない部分は有るだろうが、少しの妥協が不審に、やがては俺の討伐に繋がる可能性が高い。この点については慎重過ぎるぐらいでいいだろう。


 身体を鍛えたいとジルに相談したらゼベットと稽古をすることになった。そりゃ領主の娘だからな。その辺の兵士には任せられんか。自分の考えの浅さにウンザリする。

 アモンは嬉しそうな様子だったが、まぁいいだろう。会話の少ない姉でスマンな。

 聞くところでは城の指南役を兼ねているそうで、人選としては順当なようだ。


 最初は走り込みとかの基礎体力を上げるものばかりだったが、そもそも俺は疲労しない。柔軟性も本気を出せば軟体動物も真っ青の可動域なのだ。

 十日も経たず、早々に体術の授業が始まった。


 思っていたより身体を動かす技術というのは難しい。手本を見せてもらい、実際に自分で動き、修正をしながら正確な再現を目指す。簡単には再現出来ないので毎回自室に戻って繰り返し復習を続けた。手だけ足だけではなく、重心まで意識してとなると上手く動けないのだ。


 寝る間も惜しんでという表現があるが、俺には睡眠時間が必要無いので文字通り夜通し練習した。おかげで普通の連中より少しだけ修得が早いようだ。

 とは言うものの自然にその動きが出来る段階まで進まないと意味が無い。しっかりと身に付けないと有り得ない軌道で身体が動くことになってしまう。あくまでも動きは人体に可能な範囲で留めておかねばならない。


 ゼベットの意図が良く分からんが、先週から槍術も授業が加わった。毎回、消化するので大変なことになっている。教え方が上手いんで理解に苦しむことは無いけれども。

 稽古中のアモンの視線がすごく痛い。とんでもなく尊敬されている気がするんだが、こっちはそもそもがインチキな土台が有るんだよなぁ。真似したりしなけりゃいいんだけど・・・。大丈夫だよな?



-リベスタン城塞 領主の部屋 ゼベット-


「ほう・・・それほどか。分からんものだな」


「はい、まだ二か月ほどですが上達には目を見張るものが有ります」


 アモン様と一緒に稽古を始めたがマリーナ様の才能は相当なものだ。基礎体力も見かけに寄らず充分に高い。体術・槍術を教え始めると二日も経てば概ね修得してくる。

 若干の粗は有るものの短期間にあれほど動けるようになる者は見たことが無い。

 あと数年も修行すればこの城でも相手出来る者が何人いるか。

 

「だがまだ子供だ。身体が出来ていない。じっくり面倒をみてやってくれ」


「畏まりました。私のお教え出来得る技術の全てをお伝えいたします」


 領主様は直接見ておられないので想像出来ていないのだろう。それも当然か。

 どこの誰があの光景を予想出来るというのだ。一方でこのままアモン様と一緒に稽古させるのは不安が残る。素質に差が有り過ぎる。変な影響を受けてしまわないだろうか。もうしばらく様子を見て、別の時間を設けた方が良いだろう。



-リベスタン城塞 鍛錬場-


「では本日から、私、メリッサがご教授いたしますね。一緒に励みましょう!」


 今日からゼベット以外の奴が来ることになった。俺の稽古は既にアモンと別枠だ。

 弓術を覚えたいとゼベットに言ったらこの女が来た。髭は弓が苦手らしい。

 確かに教えに来るだけの腕は有る。実際に見せてもらったが大したものだ。


 以前から疑問だったのだが、この領地には騎士に該当する奴らは居ない。代わりに城付きの自警団としてこいつらが治安維持をしている。実態としての役割に大差は無さそうだが、騎士は一応貴族だからな。そもそもサマリード家は下級の底辺貴族なので騎士なんぞいない。だから寒冷地帯の辺境域に領地が割当られているのだ。


 治安はそれほど悪くはないが、腕自慢の連中を収めておく入れ物としても自警団は機能しているのだろう。俺が持っている印象は地元の消防団だな。そこそこ強い奴らが集まっているが、本格的な組織だった戦闘は無理だろう。


 自警団長はタニアって女がやってる。このメリッサが副団長らしい。

 何でボスが女?って思うだろ?よくよく聞いたら野郎どもが皆嫌がったらしい。要は男共は面倒くさかったんだろう。体よくまとめ役をこの二人に押し付けたってことだな。まぁ、学校でも学級委員長ってやりたがる奴はあんまおらんわな。アレと同じ理屈だ。理解は出来る。

 とは言え、それぞれに皆腕は良いとの話。治安維持の要として充分機能している様だ。



 弓術と言っても大きく短弓と長弓で要素が異なる。

 短弓は自分が動きつつ撃つ。長弓は自分は動かず遠くを狙う。大きな違いはここだな。

 小物狩りには短弓が、大物狩りには長弓が向いている。城塞の防衛戦などは長弓、野外での機動戦などは短弓だろう。弩も有るにはあるが普及はしていないらしい。個人技としては無視していいそうだ。バリスタと勘違いしてそうだな?


 とりあえず基本からという流れで長弓を教わる。メリッサはどれでも扱えるようだ。

 元々は麓の村の医者だったらしい。正確には医者の娘だな。幼い頃から親と一緒に診療に立ち会っていたとのこと。弓は子供の頃から得意分野だったそうな。何故に弓に習熟しているのか聞いたら『近づくと怖いでしょう?』とのこと。ごもっともです。

 


 この世界では未だ火薬が発展途上だ。鉄砲や大砲といった武器が誕生していない。

鋼鉄精錬技術や鍛冶技術も関係するのでどれが原因とも分からない。

 遠隔距離攻撃としては現状、弓が最強なのは確かだ。実は現代戦闘でも個人用なら十分強かったりするけどな。要求される技術が高めなだけで。そういや【ランボー】でも弓使ってたな。そのうちコンポジットボウぐらいは手に入れたいところだ。



 弓術はなかなか難しい。根本的に体術などと違うのだ。ただし、俺なりに要点は理解した。自分が戦車だと思えばいい。そこに気付いたらそこそこやれるようになった。

 砲塔と土台で役割を分けて考える。それぞれに上半身と下半身を割当て、別に動かせれば狙ったところに当たる。射角、強度、射撃位置と判断材料は多い。風向き、気候、材質も加味する必要が有る。回数をこなして結果を身体で覚える。これで速度が出せれば使い物になりそうだな。ある程度出来るようになったら動く的に挑戦しよう。

 

 メリッサは城の警備兵達に人気が有る。元医者ということもあって愛想が良く、会話上手だ。警備兵はそもそも村の出身者がほとんど。面倒見てもらった者も多くいるのだろう。そのせいか、俺の稽古の時は無駄に野次馬が多い。皆の目当てはメリッサだな。まぁ、若い女が少ない城内で目の保養をしたい気持ちは分からんでもない。


 なるべく俺の露出は避けたいところなんだが、来るなとも言いにくい。

 一度、『集中したいので配慮して欲しい』と言ったら少し距離は空いたがそれだけだった。

 これ以上言っても変わらんだろう。諦めて稽古に専念することにしよう。



-リベスタン城塞 鍛錬場 メリッサ-


 ゼベットから紹介を受けて領主の娘の弓術指導をすることになった。

 城から別途手当てが支給されるというのも有って、二つ返事で引き受けた。

 彼が言うにはかなりの素質が在るとのことだったが、確かにまだ9歳の子供とは思えない。最初こそ要領を得なかったものの、途中から何かしらのコツを掴んだようで一気に修得が早くなった。体力と集中力だけでも大したものだと思う。


 興味本位ですぐお役御免だろうとタカを括っていたが、今は彼女の上達を見ているのが非常に面白い。既に大人が使う的の距離まで離れて練習している。弓なら自警団でも上位に入るんじゃないかな。でも強くなって何がしたいのだろう?


-リベスタン城塞 鍛錬場 守備兵長-


 近頃、俺たちが使っている鍛錬場に良く利用制限が掛かる。今まで無かったことだ。

 不思議に思って調べたら原因は領主の娘だった。急に弓の鍛錬を始めたとかで、鍛錬場の利用制限が掛かるようになったのだ。子供の我儘に付き合ってられるかという気持ちも有って様子を覗きに行くと、これが大したモンだった。

 まだ9歳の子供だってのに練習内容は大人顔負け。俺でもバテるだろう量を淡々とこなしている。俺達大人でも難しい距離なのにそこそこ的に当てられるのは才能だろう。


 ずっと真顔で集中しているのが分かる。声は掛けにくい雰囲気なのでただ見ていた。

 最初は『エラそうにガキが』とか思っていたんだが、今では応援するような気持ちで見守っている。一緒に周りで見てる奴らもそうだ。いやぁ、ここの姫さんはなかなかどうして、大した娘のようだ。俺んとこのクソ生意気な娘にも見習って欲しいもんだ。

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