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妹が追放してくれました

作者: かぐや

「━━……以上の罪により、フェシリア・ミシュリーヌを国外追放とするっ!」


 屋敷で仕事を片付けていたらいきなり王城に呼ばれ、その城の主たる国王にそんなことを言われてしまった。

 ……けれど、待って欲しい。わたしはそんな罪を犯していない。所謂濡れ衣というやつだろう。


「ふん。反論もしないということは事実だと認めるのだな」

「………」


 反論したところで、この処遇は変わらないのだろう。ならば、言うだけ無駄である。まぁそもそも、わたしが反論することは許されない。自分はそういう立場の存在だからだ。


「おいっ!連れて行けっ!」

「「はっ!」」


 2人の兵士から両腕を固定され、そのまま謁見の間から連れ出される。


 正直この国に未練はないが、仕事を残してきたことは少し罪悪感がある。だが、優秀な妹がいるので、そちらはおそらく問題ではないだろう。


 ここでわたしについて話をしよう。

 わたしの名前はフェシリア・ミシュリーヌ。ミシュリーヌ公爵家の令嬢である。だが、本来はそうではない。ミシュリーヌ公爵家の分家出身だ。

 だが今は本家に籍がある。それは何故か。理由は簡単。子供ができなかったからである。故に跡継ぎとしてわたしは連れていかれた。

 もっとも、わたしが籍を移して2年後には戸籍上は妹となる存在が本家に産まれたのだが。


 それでもわたしは分家に戻されることは無かった。いや、出来なかった(・・・・・・)と言った方がいいかもしれない。


 その理由としては、わたしの国のあり方に問題があったからだ。

 わたしが住む国は人間至上主義であり、獣人……所謂、亜人を排斥する。

 わたしも産まれた時は人間だった。だが……10歳くらいだっただろうか? 獣人としての特徴が現れてしまったのだ。

 調べたところ、どうやら隔世遺伝というものらしかった。けれど、それはつまり祖先に獣人がいたということを示す。それにより、わたしの本来の家は潰された。

 本来であればわたしも貴族では居られないのだが、妹が必死に庇ってくれたおかげで残ることが出来た。名目上は妹の侍女で、だが実際には自由が認められた。

 ……もっとも、良い目では見られなかったが。


 一応成人とされる15歳まではなんとか生き、学園へ通い、仕事を貰っていた。主に経理の仕事だ。その他には外交とか……まぁ、良い目では見られなくとも、結構な仕事を与えられた。……押し付けられたとも言うが。

 そのせいで日々仕事に追われ、基本屋敷に引き篭る、もしくは国にいなかった。それが原因で今回のようなことになったのだろうとは想像に容易い。アリバイが無いのだ。まぁ、もしあったとしても、わたしの味方は妹しかいない。ただ一人だけの証言は、多数の証言に埋められる。


「はぁ…」


 思わずため息が出る。それを追放されることに対する不満だと思ったのか、兵士が歩みを早める。

 ……だが、問題は無い。獣人の身体能力を舐めないでもらいたいものだ。

 そもそも今の兵士さえも振りほどくことは容易であるが、さらに面倒事になりそうなのでやらない。


「これに乗れ」


 兵士にそう言われ乗せられたのは、粗末な馬車。装飾品などは無い、正に唯の木の箱だ。

 わたしを連れてきた兵士はそのまま踵を返して去っていった。……けれど少し歩いてから1人の兵士が引き返して来た。


「なにか?」

「…これを」


 周りの目を気にしながら、1枚のカードを差し出してきた。それが何か分からないほど、わたしは世間知らずではない。


「何故、個人カードを…」


 個人カード。それは身元を証明する為のもので、それさえあれば何処出身で現在の住んでいる場所。そして本名まで分かる。取り扱いには気を付けなければならない代物だ。


「これが貴方様の新しい戸籍になります」

「新しい、戸籍?」


 どういうことかと問い詰めようと思ったが、それよりも先に兵士は足早に去ってしまった。まぁ、こんなものを渡しているところを見られれば大問題であるので、その対応は間違っていない。間違ってないけどさ……せめて誰からとか教えて欲しかった。


「はぁ…」

「出しても宜しいでしょうか?」


 ため息をついていると、馬車の御者さんからそう声をかけられた。


「あ、お願いします」

「かしこまりました」


 ……さっきから色々とおかしい。そもそもわたしは罪人で、御者さんがこうも丁寧な対応をする訳が無い。


「……ん?」


 貰った個人カードを触っていると、後ろに小さな紙が引っ付いていることに気が付いた。破かないように慎重に剥がし、開く。


『わたしもすぐ行くから』


 たったそれだけの文。けれど、それだけでわたしには分かった。分かって、しまった。


「…………はぁぁぁ…」


 思わず深いため息をついてしまう。


「……後で文句……言えないなぁ…」


 一連の行為は、叱るに叱れない。あの子(・・・)がこの行為に及んだのは、全てわたしの為であり、その行為をさせてしまったのはわたしのせいでもあるからだ。


 ガタゴトと馬車に揺られながら、わたしは後から来るであろう自分の()へどう対応すべきかをうんうんと唸り続けるのだった。






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