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作戦五、避けてみる(1)

前編です。

 嫌われるためのアレコレをいくつか頑張ってみたものの、好かれてる実感が湧くばかりで……普通なら喜べるのに、なんでこんな状況なんだろう……。

 私がわかりやす過ぎるのか、ニルスも好かれている自信があるようで、別れるための雰囲気作りが全く出来なくて困っていた。


 私の気持ちの方も掻き乱され続けていて、距離を置きたい気持ちもあって。 私の気持ちが落ち着くまで、出来るだけ接触を避けてみようか。

 流石に「避けられている」とわかれば、嫌われてるかも、と普通は思うはずなんだけど、正直どうなるか予測がつかない。




 朝から目が冴えてしまって、色々と考え込んでしまった。


「朝は私の方が出るのが遅いからこのまま部屋に篭ればいいとして、夕方は一緒に帰らざるを得ない……」


 自室にいるときは邪魔をしないというのがルールだった。

 出勤まで時間があるから、いつもなら部屋から出て朝の時間を一緒に過ごすんだけど……。起きてる気配を消したいし、もう一回眠れないかな。

 目はバッチリ冴えてるけど眠気もあるっていうこの中途半端な状態だから、日中眠くなってしまいそうだし。

 ベッドにゴロンと横になると、コンコンと扉が叩かれた。


『起きてる?』


 扉越しのくぐもった声が響く。

 珍しく出てこないからと、確認に来たのかもしれない。

 返事をしないでいると、そのうち足音が離れていって、胸をなでおろした。


 ニルスが家を出て行くまで、私はなるべく動かないように、ベッドの上で過ごした。

 起きてるってバレてて、無視をする勇気が私にはない。あと何か良い感じの言い訳を捻り出す知恵もない。


「せっかく部屋にいても、全然気が休まらない……!」


 ニルスが居なくなったのを耳をすませて確認してから、こそこそと部屋を出た。

 






 接触を減らしていくにせよ、あまり急にやると拗れそうで怖いから、徐々に。それでいて相手が察するように……って自分の注文が面倒臭すぎる。


 いっそもっと遅くまで、仕事場に残れたら良いのに。


「……今日、残業とかってないですよね?」

「残業代目当て? じゃあ、薬品庫の仕分けでもする?」

「仕分けですか?」


 頭皮が禿げかけて後退している上司に向けて聞くと、何やら薬品の調合をしながら答えた。私は切り傷や口内炎を治すくらいの回復魔法しか使えないけど、まともに高給をもらっている回復術師はもっと深手の傷も治せるし、ポーションの調合もできる。

 彼らがそういう専門仕事をしている間、私は軽症の怪我人を治療したり、雑務をしたり。薬品庫の仕分けも多分それ。


「今の収納庫も劣化してきたでしょ。そろそろ新調するから、整理しといて欲しいんだよ」

「あの量を?」


 あそこに入れておけば劣化しないからと、とにかくポンポン放り込んでは整理もせずにずっと置きっ放しの……薬品庫を?

 いい鴨を見つけた、そんな笑顔で上司が私を見やった。


「ウンウン。何日かけても良いよ。ちゃんと色もつけるし」


 正直めちゃくちゃやりたくないけど、これをすれば……一週間くらいは帰りに一緒にならなくて済むかも。

 上司のイイ笑顔を前に、私は頷いた。


「わかりました! やります!」





 量は多いと言っても単に小物の整理でしょ。そんなことを思っていた時期が私にもありました。


 いざやってみると、なかなかに大変だった。

 たまにラベルも何にもない薬瓶がポンと入っていて、どうしろと? という気持ちになる。不明はここに置こう、と隔離した棚が満杯になって、頭を抱えた。


「も〜〜!!」


 イライラする!

 ムシャクシャして棚を蹴飛ばしてやりたくなったけど、我慢する。私の給料で弁償はできまい。今日はもういいかな? 一日に一気に進めるよりは、一日二時間とかでゆっくり進めた方が良い。いろんな意味で。


 帰ろう、と薬品庫を出て家路に着こうとしたら、いつもの待ち合わせ場所に見慣れた淡い茶髪が見えた。

 待ってたの? 私が残って仕事をしている間、ずっと?

 嘘でしょ……もしかしたら人違いかも、と近づくとやっぱりニルスだった。私が来たことに気が付いて、パッと笑みを向けてきた。


「サラ、お疲れ様」

「遅くなるって、伝えましたよね?」

「あまり遅くなると心配で」

「私が前に住んでいたところより近いし、治安も良いのに?」


 私が住んでいた場所と違って、ニルスが住んでいる区域は王城に出仕している人々が住む場所で、貴族街ではないけど、身元が確かな人ばかり。問題なんて早々起きない。彼自身は、祖父が一代貴族だったらしい。家族は城下町の方に家を借りてる、と前に聞いた。


「理屈ではわかってるんだけどね」

「そ、そうですか」


 まあ、迎えに来てしまったのなら仕方がないけど、これでは避けている意味がない。

 いつ来るのかわからない恋人を待つにしても、気長すぎる。


「明日は何時になるのかわからないので、先に帰っていてもらって大丈夫ですよ」

「別に何時でも待ってる、と言いたいところだけど……この時間だと食事の時間も遅くなっちゃうし、先に帰ったほうが良さそうだ」

「あっ。そういえば今日の当番、私ですね」


 すっかり忘れていたし、何に用意もしていない。帰ってから用意するのでは、遅くなってしまう。


「今日はどこかで食べて帰ろう。しばらく遅くなるようなら、俺が作るよ」

「ああ、ええと……私が当番の日はいつも通りに帰りますね」

「了解」


 普通に考えてたら、私よりニルスの方が疲れているはずで。彼より家を出る時間も遅いし、いつもより遅くなったとはいえ、勤務時間でいうと前世ほどブラックじゃない。

 彼を避けたいのも私の都合だし、その上ご飯まで任せていたら申し訳ない。

 

「ねえ、疲れてない? 今日は遅かったし、最近朝起きるのも遅くなったでしょ」


 朝、ニルスを避けるために寝たフリをするのも続けているせいで、心配そうに眉を下げていた。

 避けていることにまだ気づいていないのか、気づいてない振りをしているのかはわからないけど、「繁忙期でもないですし、大丈夫です」とだけ答えておいた。

いつになくブクマが増えていて驚きました。ありがとうございます!

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