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作戦一、別れようと言ってみる

 会う約束をするたびに、次こそは「なかったことにしてください」と言おうと思っていたけど、その一言がどうしても言うことができない。

 もうすでに「なかったことに」という時期でも無いということは、次の作戦を考えなければいけない……と考えながら今日着ていく服について思い悩んでいた。


「どうしても気合を入れた格好をしてしまう。馬鹿なのか、私は」


 思ったのと違ったな、と思わせれば向こうから振ってくれるかもしれない。

 そうは言っても私はニルスのことを嫌いになったわけでもなくて。

 別れた後に「ダサイ格好をしてた女」として記憶に残りたくも無いし、そんな格好で彼の横に並ぶのは申し訳なさすぎる。


 やっぱり別れようと伝えるしかないな……と私はため息をついた。

 前世について話すことなんてできないから、直球で勝負するしかない。

 別れましょう、その一言で良い。まだ交際一ヶ月なんだし、傷は浅いはず。だらだら続けてたらお互い情が残っちゃうかもしれないし、さっさとスパン!って切るのが一番良い。


 そう気合いを入れて、ついでにいつも通り気合いの入った可愛い服を着て、髪もちょっと弄ったりなんかして。

 めちゃくちゃデート楽しみにしてる女じゃん。恋は人を愚かにするって本当だな……。もう時間もないから今さらどうにもできないし、家を出ないと遅刻してしまう。



 辿り着いた待ち合わせ場所で淡い茶髪の後ろ姿を見つけた。すらりと背が高くて、鍛えられてるから体格も良いし、シンプルな格好をしていても格好いい。

 近づいてくる足音に気づいたようで、振り返って、私を見つけた。


「サラ!」

「お待たせしました」


 機嫌が良さそうで、会ってすぐ別れ話をするのにはちょっと、と尻込みする。

 それもそう、ニルスは私を「ずっと好きだったんだ」と言っていた。いや、なんで私なんかを好きだったのか皆目見当もつかないんだけど、この様子を見る限り嘘ではない……と思う。

 だからこそ、傷が浅いうちに……って思うんだけどね。お互いに。


「あの……」


 とニルスに向けて口を開いたものの、にっこりと笑いかけられてひゅっと喉が詰まった。そのままでいると、小さな小箱を手の中に押し付けられていた。


「今日で一ヶ月になるから、プレゼント」


 マメ! こういうのすごく嬉しいけど、このタイミングでもらいたくはなかった、と思いつつ、自分の手の中の物を確認する。


「ゆ、指輪ですか?」

「……うん、ダメ?」


 ……いや待って重っ! 下世話な話だけど、いくらするんだろうって思うくらいには細工が美しいけど、どう考えても重い。

 私が困惑したことを、プレゼントが気に入らなかったんだと思ったらしく、ニルスはすごくしょんぼりした表情になった。


 待って、これはチャンスじゃない?

 センスがないとか気に入らないとか、好みじゃないとか、とにかく何でも良いから批判すれば嫌われることができるかも。


 ゴクリ、と生唾を飲み込んで、恐る恐る口を開く。

 ニルスの顔を見ていると、言うべき言葉が脳内でとっ散らかっていく。


「わ、私達にはまだ早いんじゃないかなー……なーんて」


 かろうじて出てきた言葉がこれだった。もっと頑張れよ! 他に言い様があるでしょ!


「そう。君が好きなものを買い直してくるよ。何が良い?」


 相手を気遣った言葉のせいか、ニルスは全然へこたれた様子もなく聞いてきた。

 何が良い、と言われても。この様子だと本当になんでも好きなものを買ってくれそうで、流石に罪悪感が半端無い。


「あの、ええと、じゃあスイーツとか」

「そんなもので良いの?」


 ニルスの驚いた様子を見て思い出した。

 そういえば、この世界で今時の男女関係って男性の方がよくお金を出すというか、女性に尽くすのが普通の感覚だった。恋愛観って時代の影響もあると思うけど、日本だと一昔前の感覚になる。いや、それでも指輪は重いですけどね。


 やめて! 慎ましやかな人だなって目で見ないで!


 どちらにせよ、あとあと別れる相手に貢いでもらうのは精神衛生上よろしくない。ならこのまま貫いた方がまだマシのはず。


「ですので、こちらはお返しさせて頂きまして……」

「なんで? 気に入らなかった?」


 妙に畏まった言葉遣いで小箱を返そうとすると、受け取りもせずニルスは首を傾げた。


「さっきも言ったようにまだ早いと言いますかですね」

「気に入っていないわけではない?」

「そう、ですね。ええ、はい。素敵な、意匠だと……思います。はい」


 実際のところ、本当に素敵なデザインだった。今世の自分が買うとしても、お値段的に今のお給料では届かないと思う。


「なら、それは持っていて」

「でもこんな高価そうなもの、付き合って一ヶ月で渡すものじゃ……。続くとも限らないのに」


 続くとも限らないと口にすると、ニルスはへにゃりと眉を下げた。


「……もう俺に飽きちゃった?」

「そ、そそそんなことは!」


 つい慌てて否定すると、ニルスはホッとしたように息を吐き出した。

 ここで肯定すれば良かったんだろうけど、捨て犬みたいな瞳で見つめられるとどうにも難しい。

 前途多難すぎる……!

作戦一、別れようと言ってみる。失敗!



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