思い出すのが遅い!
酉ゐ(とりい)です!
完結済み作品「乙女ゲーのキャラがお爺ちゃんになって落ちていたので拾いました」もよろしくお願い致します。
「好きです! 結婚して下さい!」
「ええと、それって恋人からでも良い?」
告白するつもりが勢い余って求婚してしまった相手と恋人になれることが決まった瞬間に、前世の記憶が蘇った。
同時に思い出した、死ぬ直前に遊んでいた乙女ゲーム。
その中で「昔、大切な人を亡くしたことがあるんだ」と言っていたのは、ついさっき恋人になった相手、騎士ニルス。
なかったことにして下さい!
そう叫ぼうとした瞬間、急に顔が近づいてきて、唇に温かいものが触れた。
「嬉しい。ずっと好きだったんだ」
嬉しそうに囁かれてしまえば、紡ごうと思っていた言葉も出てこない。
蜂蜜色の瞳は前からこんなに甘ったるい色だったっけ?
そもそも前世の記憶が蘇ったからって、好きなのは変わらない。
か細い声で「よ、よろしくお願いします……」と呟くのが精一杯だった。
結局なかったことにも別れるとも言えずに帰ってきてしまったけど、もしかして私、別れないと死ぬのでは?
傷ついている描写は覚えているけど、どうやって死んだか、どうしても思い出せない……!
ヒロインと出会う前の悲しくも美しい過去だなんて、前座にも程が有る。
何とかして別れなければ!