第2話 〜空気使い vs 時止め〜
「さあああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 最終ラウンドが始まり、第5次世界大戦もここに終結するぞおぉぉぉ!」
日本代表、アメリカ代表達が死闘を繰り返してきた。戦うこと約2日。勝敗は2対2。次の1戦で世界大戦が終わる。
「やっと……これで…………戦争が終わるのか......!」
「長かったわね。でも、まさか通常戦争では死人が多数出て、妥協点という形で2つの国の能力者たちを、戦わせることになるなんてね」
「………………俺が勝ってたら、この戦いは終わってたのに」
「馬鹿言いなさい。あんたのせいじゃないわ。だから、生きてこの試合を……見なさい」
金髪の瀕死の男。青髪の女。日本代表5人の内の2人。残り2人は試合中で命を落とした。それは向こう側も一緒。
アメリカ代表チームは3人が絶命した。能力者たちの戦いは熾烈を極めたが、この勝負で勝敗が決まる。
全人類が注目する試合。
アメリカ代表者は——
「アメリカの象徴と言ったらこいつ! アメリカの核といったらこいつ! 世界の生命線といったらこいつ! 空気を操り、その技は1億を超える! アメリカ代表おおおおぉぉぅぅぅぅぅ! レーーーーーーーニーーーーーーーーンーーーーーーーーーーーー!」
「にゃひひひひ」
平べったく、白い土台に乗った人物。白い髪の毛が地面につきそう程に長く、それでいて高身長。顔は髪の毛で見えず、肌は色白。
彼がワールドクラス級の能力を持つ男。レーニンだ。
「日本を代表する世の理から外れた、唯一無二の存在! 彼を止められる人はいるのか!? いや、居ない! 彼自身が止めるからだ! 時間を操り、時間を支配する最早、絶対神! 日本代表おおおおぉぉぅぅぅぅぅ! カーーーーーゲーーーーールーーーーーーーー!」
「……ふん」
対してこちらも高身長でイケメンの男。黒い服を身に纏い、メガネを付けている。
彼が日本で最強の能力者。カゲルだ。
「カゲルさんと戦える日が来るなんて、嬉しいな」
「…………俺はちっとも嬉しくないがな」
「にゃひひひひ。何でそんなふてぶてしいんで......。あっ......そういえば僕、貴方の恋人を殺してましたね」
「……………………」
「あ〜〜〜! 図星だ〜! カゲルさんは愛してたもんね。花火さんのこと」
両者が火花をバチバチと散らす中。大会のゴングが鳴り響く。
「試合の開始だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
カゲル、レーニンはその場に留まり、動く気配はない。
いや、動いている。
「にゃひひ。やっぱり、カゲルさんの周りの酸素無くしても意味ないか」
レーニンの能力は空気を操れる。酸素や二酸化炭素炭素を増やしたり、空気の斬撃すらも繰り出せる。
摩擦もなくすことも出来るため、神速をも超える攻撃もある。動作無しで来る攻撃を、どうやって対処をするか。
それが問題であったが、カゲルには意味は無い。自分の周りの時間を止めているからである。
「…………さっきの回答をしよう。私はお前を憎んでいるのではない。私自身を憎んでいる。あそこに立ち会えなかった私が悪い。花火を信じた私が悪い。私は私自身を、憎んでいるにすぎない」
「カゲルさんって、そういうところあるよね。自分が悪いとか。天才なんだから、一人一人にそんな気にしちゃあダメだよ。これが僕とカゲルさんの違いだよね」
「ならば……その違いはこの戦いで分かるな」
カゲルは指を鳴らしたら——
————パチンッッッッッ
世界が止まる。
これがカゲルの最強の技。『時止め』である。有効時間は無限ではあるが、解除した後のクールタイムが1分と長い。
云わば一撃必殺の技。カゲルはレーニンに近寄る。
「…………いつも気分が悪いな。この世界は」
時間が止まっている世界は静かで、とても心地よい。
なのに、生きづらさを感じる。誰も見てない。全員が死んでいる。近くに深淵並みの怖さがある。カゲルはこの技が嫌いだった。時間を止められのに、好きな女の1人も守れないんなんてと。
「………………やはりか」
カゲルはレーニンに近づくと、違和感を感じた。カゲルは手を遅く動かすと、人差し指の腹に紙で切った時のような、切り傷ができる。レーニンから半径10メートルには、空気の刃のドームが貼られいた。
「時止め中は、時を動かせない。時を戻せば、ジリ貧か」
カゲルは指を鳴らす。
「ぐふっっっっっ!?」
「おおおっとおおおお!? レーニンに1発食らわしたぞーーー!?」
カゲルは時間を動かし、自分の周りの時を逆行させる。カゲルには空気の刃物が効かなくなり、レーニンを殴る。お腹に3発喰らわせた。レーニンは時間を止められ、接近されたと認識。
レーニンは空気を操り、上空へと飛ぶ。
「あっぶなー! あともうちょっとで内蔵破損してた〜」
「チッ! 空を飛んだか」
「にゃひひひひひひひ。殺せるもんなら殺してみろ〜」
幼稚な煽りにカゲルも反撃したい所だが、空中の相手をどうやっても倒せるはずがない。
対して、空気や何もかもの攻撃を時戻しで、無効化するカゲルに、レーニンも攻めあぐねている。
「無駄だとは思うけど……。一応僕も最強必殺技使うか」
レーニンは両手をカゲルに向ける。
「空気操術『空斬』!」
突如、カゲルに何万もの空気の斬撃が降り渡る。地面がえぐれ、砂埃が舞いカゲルがどうなったか誰も視認できる人はいない。
「これがレーニンの力がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? カゲルはどうなったんだああああぁぁ!?」
「カゲルさんがこんなので......死ぬわけないよね?」
「カゲル......さん?」
誰もがカゲルが死んだと思うほどの、レーニンの必殺技。だが、砂埃が晴れたらそこには当たり前のように、カゲルが無傷で立っている。
「あはは......はは......これが……ワールドクラスの戦いかよ」
「拮抗どころ......じゃないわね。両者が強すぎて、試合にもならない」
今のところほぼ無傷の2人。これがワールドクラス達の戦いかと。
「やーーーーめた。やっぱり、カゲルさんは強いや」
レーニンは地上におり、審判の方を向く。
「ミョルさーーん! ルール変更いいですかー?」
「………………話を聞こう」
この試合の審判である、ワールドクラス級能力者。試合会場に全ての攻撃を無にする、バリアを貼っている人物。
ミョル。年齢は68歳と、ワールドクラス級では最年長である実力者。
「ミョルさんも、カゲルさんも思うでしょ? もう、この戦い意味無いって。だから、能力無しの肉弾戦にしようよ。カゲルさんいい?」
「......いいだろう」
「…………ふむ。ならば許可しよう」
「うおおおおっっっっとおおおおぉぉぉ!? 最後の頂上決戦がまさか!? 能力無しの肉弾戦になったぞおおおおぉぉぉぉぉ!?」
日本とアメリカの存亡を決める戦いが、まさかの能力無しの戦闘で決まる。両者が能力を一斉に解き、会場内の妙な圧迫が無くなる。
「レーニン。お前……肉弾戦なら、負けるぞ」
「にゃひひひひ! そう思うじゃん? そっれが、違うんだな〜」
レーニンはジリジリと距離を詰める。
「でも、カゲルさん的には嬉しいでしょ? 花火さんを殺した、僕を殴れるなんて」
「…………嬉しかもな。だが、私怨で殴る拳ほど弱いものはない」
「にゃひひひ。カゲルさんらしいや」
会話が終わり、後は自分達自身の肉体にかかっている。カゲルはジャブを常に行い、相手との距離を取り、視界を遮る。
カゲルは基本能力と並行し、肉弾戦をする戦法を取っている。
対してレーニンは、空気を操り戦場に立つ。経験の差は歴然。
————ドォンッッッッッ!
最初の攻撃を喰らったのは、もちろんレーニンだ。
カゲルは先程の攻防でパンチをした箇所を狙い、当てた。
そして———
重いカウンターを顎に食らう。カゲルは脳が揺れ、後ろによろめく。レーニンは更に飛び蹴りをし、相手の顎をまた狙う。
「くっっっっっっ!?」
顎にヒビがはいり、脳が揺れに揺れまくる。視界がぼやけ、平衡感覚を失い普通なら倒れてもいいはず。それを執念で抑えつける。
「にゃひ! 今日の日のために肉弾戦すごーーーく、練習したんだ。僕って天才だからさ。経験の差とか関係ないんだ」
よろけているカゲルに更に、パンチ、キックとどんどんと攻撃を入れていく。傍から見れば、圧倒的な無慈悲な光景。
勝敗は決まったも同然。
なのに、カゲルは倒れない。
幾度も殴れても倒れない。
彼には日本が背負っている。倒れる訳にはいかない。
————ガシッッッッッ!
「捕まえたぞ」
「にゃひひひひ。そんなのすぐ離せ——」
この試合は最初から勝敗は決まっていた。
実力は両者……拮抗していた。だったら、勝敗がつく理由の1つは気持ち。レーニンはこれをゲームとしか考えてなく、カゲルには強い信念をもって戦いを挑んでいた。
視界がグラついていたら、相手の腕を掴めばいい。後は一撃に全てをかければいい。
その一撃は重く
その一撃は洗練してきた一撃
全てをかけ、全てを捧げてきた一撃
「うおおおおおおりややややややァァァァァァァァ!」
「ぐぶッッッッッ———————!?」
視界など必要ない。相手との距離は分かった。花火と一緒に洗練してきた拳が、花火の意思が俺を繋いだ。
「くそくそくそくそくそ…………!」
レーニンは体勢を戻し、カゲルの攻撃を受け止める。なのに、相手の攻撃は止まらない。
経験など関係ないと思っていた。才能で勝てばいいと思ってた。だから、最初から肉弾戦にするつもりだった。
くそっ!? なんで……なんで、今になって花火さんのことを思い出すんだ!?
『花火さんが! 花火さんが! 僕を選んでくれたなら! カゲルと僕の……何が違うんだよ!』
僕と花火さんの戦いは土地を腐らせた。誰も生きれない土地を作ってしまった。
だから、花火さんは死んだんだ。
『…………馬鹿ね。そういう……ところよ』
花火さんは、草も、花も、太陽も何も無い。雨だけが降りしきる、場所で血を流しながら倒れていた。僕は花火さんを殺したくなかった。国の命令には刃向かえない。花火さんを殺したくなかった。
『今ならまだ間に合う。こっちに来てよ花火さん! カゲルじゃなくて……俺を選んでくれれば! 死ぬことは無いんだよ!』
『あはははは。敵国の……最強さんが……なんで……泣くのよ』
雨で僕が泣いていることなんて分からないのに。なんで分かるんだよ。泣きたいのはそっちの癖に......!
『だって……だって! 僕は…………花火さんが好きだから!』
『あはは……はは……。告白…………って今する……?』
苦笑いする花火さんをどうやって助けたらいいのか。僕は手を握ることしか出来なかった。
『今じゃないと……花火さんが死ぬから。僕は貴方を……殺したくなかった…………!』
『あはははは…………あんたはさ………………良い奴なんだから…………かっこ……よく…………いき……なよ……』
花火さんは、最後まで笑ってくれて……人形のように力が抜けた。死んだんだ。苦しんでるはずなのに、最後まで笑ってく。
————僕が殺したんだ
『————くそっっっ!くそくそくそくそくそ! クソがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
かっこよく生きろってなんだよ! カゲルは! カゲルは僕よりかっこいいって事かよ!
かっこいいとか……そんなの、適当に過ごしてる奴がかっこいいだろ! だけど……なんで! カゲルの拳はこんなに!
「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
両者の本気の殴り合い。能力なんて関係ない。
能力に脅かされていた世の中だから、刺さる光景。
世界最強の能力者2人が殴り合う。血を流し、目が腫れ、骨が折れる。
血反吐を吐きながら、自分の信念を、1人の女に言われた、かっこいいを追い求め、1人の女を追い求め———
漢2人は闘う。
勝敗は……決着は決まった。
1人の漢がリングに立ち、1人は失神した。
「勝敗はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
視聴者達の1部は歓喜し、1部は絶望の縁へと落とされる。
だけど……何故か。そこには———
かっこいいがあった。
「レエエエェェェェェニイイイィィィィィィンンンンンンンンン!」
————————レーニン vs カゲル————————
レーニンの辛勝
おほほほほほ! 大分成長した気がします。カゲルではなくて、レーニンが勝ちました。
王道に囚われてないですな〜。普通はカゲルなのに。でも良かった。誰も死ななくて。