大魔王の勇者攻略ギミック
友達だと思っていた相手から突然、ゲームの攻略本を受け取った。攻略本目当ての電話が今日も鳴る。
「リキ君、勇者に人参をやったら横から馬が奪っていったわ!そのせいで好感度下がったんじゃがどうすればよい?」
彼女は主人公になりきって攻略を聞いてくる。対立する国の生徒が集まる学園で大魔王は様々な立場の攻略相手と絆を結ぶRPGゲームで、彼女はよりにもよって敵国のヒーローを攻略しようとしている。難しいのか行き詰まると一日一回、決まった時間に電話がかかってくる。
僕も限られた時間で沢山教えられる様に起きている時は攻略本を読み込んでいる。今日は「馬の好感度もあげてね」とすぐに答えられた。
「勇者の攻略は難しいな。竜に乗っての散歩も高い所が苦手だと断られたし。話しかけようとすれば取り巻きが邪魔してくるしの」
電話越しに彼女は深くため息を吐いた。初心者がいきなり高難易度キャラに挑む理由とはなんだろうか。一度、聞いてみたことがある。すると彼女は「勇者なぞ一番簡単であろう」と言っていた。
「む、時間じゃな。感謝するぞリキ君!また明日な」
「うん、またね大魔王様」
向こうが切るまで電話に耳を傾ける。そんな毎日を楽しみにしていた。この日までは。
「処刑台の上でも笑っていられるとは、この反逆者め!」
無理矢理ギロチンの下に頭を置かれると民衆の歓声がより聞こえてきた。
大魔王を倒せなかった勇者は粛清される。処刑という形で。
ただ世界を変えたかったんだ。いがみあう事なく一緒に過ごせる世界に。ああ、思い出したよ。学園でそれを実感したんだ。
天使によってこの世界に召喚され勇者として大魔王を殺すために同じ学園へと通え、と無理難題を言われていた。勇者と魔王が同じ学校に通うだなんてと思いながら迎えた入学式の日、魔族代表としてスピーチをした彼女に目を奪われた。堂々と皆の前で話す姿はとてもかっこよかった。かつて外国の偉人のスピーチを見せられた時と同じだった。外国語のスピーチなんて分からないのに話し方、立ち振る舞い、そして見ただけですごい人が話していると分からせる圧倒的存在感。彼女にはそれがあった。強者の風格というものをはじめて目の当たりにした。
その時に思った。僕は彼女を殺せない。でも、仲良くなりたい。
勇者と大魔王。戦争をしていた国同士の代表が仲良くなれるとは思わなかった。だから僕は嘘をついた。
「争わないで平和的解決をしよう」
いきなり殺しをさせる国の未来なんて正直どうでも良かった。だがこうでも言わないと彼女に警戒され戦いになってしまう。
僕の嘘は大魔王を惑わせた。最初は不審な目で見られた。だが学園生活を送る中で少しずつ変わっていくのが分かった。その時から僕も勇者としてこの国のためを考えるようになった。
大魔王、君に出会い意見を交わしたあの日々。変えられると実感した記憶の数々。まわりを巻き込み平和を築けることを大魔王と共に説いた。
だがその方法は否定された。否定された後、僕を監禁した奴は言った。
「勇者が魔王を殺さないとは何事か」と。
そして勇者は塔に閉じ込められた。脱出を試みたが上手くいかず見つかり失敗してしまう。脱走するたびに増える監視の目。更に少量の食事以外何も与えられず精神を消耗していく日々の中に天使が現れた。
その天使を僕は知っていた。僕より先に大魔王と友達になっていた男の天使だった。彼は他の天使とは違い中立ではなく大魔王に好意的で変わり者の天使。魔法も使えないはずのこの塔で彼は突然目の前に現れてとある物をくれた。
それはゲームの攻略本だった。大魔王を中心に学園の生徒が描かれた表紙は元いた世界で見たことあるような攻略本そのものだった。どうして天使がこんなものを持っているのか疑問に思った。だが、彼は聞く暇すら与えず、急ぎ足で説明していく。
「夜になるばその攻略本が光る。そしたら本を開き召喚される電話をとり、質問に答えろ。その本はまわりには見えない。攻略本を読み込んで彼女の助けになってくれ」
そう言って天使は消えた。それ以来、彼は現れなかった。
「見つけた!!」
声と共に太陽が隠れた。現れたのは竜。その上にはゲームの主人公と同じ姿をした少女――大魔王がいた。勇者の処刑を見に来た広場の人々を薙ぎ払って僕の前に来た大魔王は手を差し伸べた。
「現実はゲームよりも上手く行っていたのにな。同じ学校、同じ制服、同じ土地で歪み合いながらも次第に良き関係を作るなんて夢のまた夢――と思っておった。じゃが違うと気付かせてくれたのは其方じゃ。こんな所でくたばるのは許さん。
リキ君……、いや勇者よ!友人の手を取ってはくれないか?」
僕は友人の手を取り空へと飛び出した。
「大魔王は俺が高いところ苦手だと知ったとき、空の楽しさを知らんとはもったいないって言って無理矢理ドラゴンの背中に乗せて空を飛んだ。しばらくして本気で怯える僕を見た彼女は人目につかないところで下ろしてくれて謝るんだ。
『すまないことをした。無理強いする事ではなかった』って言って本気で謝る。それからピンチになっても僕を助けるときは空は使わない。地上を駆け抜けてくれる。
それににんじんを奪ったって君がいう馬は大魔王からのプレゼントだ。馬の好感度は最初から高い。横から奪うだなんてわざと好感度を下げなきゃおきないはずだ」
「ど、どうしたのだリキくん?」
彼女は不安そうな顔をした。
「わざと僕に間違った攻略本を送りつけたね。勇者が処刑されるルートに辿り着くように書き換えられた攻略本を」
睨みつけると観念したのか相手は下品に笑った。
「ふっ、ふふ、気がついたところで丸腰の勇者に何が出来る?大魔王が勇者を助けた所は大勢がみていた。勇者は敵国に魂を売った。それで十分。
勇者の証があるだけの平民のお前ではなく勇者の証を授かるはずだった王子が勇者となる。
大魔王を殺さない勇者はここで死ぬがいい」
彼女の姿をした悪魔は空から僕を突き落とした。険しい山へと真っ逆さまに落ちていく。そこは恐ろしい怪物が住む山。高い空から見下す相手に僕は笑ってやった。
「解放してくれてありがとなーー!!」