遊園地2/3
「あれ‥‥‥?」
園内のレストランで空腹を満たした後、私たちは食休みも兼ねてのんびりしたアトラクションをまわっていた。そして、その途中私はお手洗いに行くために一度別れたのだが。
「皆さん‥‥‥どこ‥‥‥?」
私は確かにこの場所で別れたはずだ。そして当然3人はここで待ってくれているものと思っていた。思っていたのだが。キョロキョロと辺りを見回してみるがやはり見当たらない。
しばし呆然と立ち尽くした後、携帯で連絡を取ろうとして、はたと気がつく。お手洗いに行くときに荷物を預けたのだ。当然、財布も携帯もその中に入っている。彼らに限って持ち逃げなんてことはないだろうが、それにしてもどこへ行ってしまったのか。
ふーーっと息を吐く。
「待つか」
どこへ行ったにしろここで待っていればいずれ来るだろう。私が今日健と出かけたことは親も知っている。さすがに置いて帰りはしないだろうし、迷子は動かないのが鉄則だ。
手近にあった花壇の囲いに座って賑やかな往来をなんともなしに眺めていると、なんだかほっとした。思えば一日はぐれないように気を張り詰めていた気もする。興奮していて気づかなかったが、普段部屋に引きこもっているだけに慣れない遊園地に疲れてしまってもいた。
腕時計を見ると針は14時50分を指している。
視線を往来に戻すと、ふと違和感を覚えた。何かが足りない気がするのだ。しばし考えてあっと気がつく。朝見たときのようなキラキラがないのだ。ふふっと笑う。今日ずっとキラキラして見えていたのは遊園地じゃなかった。あの3人だったのだ。声が聞こえたのは、今更な事実に気づいて笑みに自嘲が混じったときだった。
「あっ‥‥‥! ごめん!」
息を切らして私の前に現れたのはイツキさんだった。
「はーーーっ‥‥‥ごめんね、1人にして。ケンが‥‥‥荷物持ってちゃって」
はい、と差し出したのは私の荷物だ。
「あっ、ありがとうございます‥‥‥あの、それで健さんと菜津さんは‥‥‥」
「2人でまわりたそうだったから、行ってもらったんだ。だからここからは俺とまわるか‥‥‥別々に別れてもいいけど‥‥‥」
言外にどっちがいい? と聞いてくる。どちらでもいいけれど、イツキさんは私とまわりたくないのかもしれない。でも私から別々にまわりましょうというのも失礼な気がする。なんと答えたものかと迷っているとイツキさんが口を開いた。
「とりあえず、走って疲れちゃった。そこで一休みしない?」
そう言ってイツキさんが指差したのは小さな休憩スペースだった。ファンタジックな馬車を象ったような外観の店ではジュースやデザートを売っていて、その周囲にはパラソルがついた白いテーブルと椅子が並んでいる。
「はい。私も歩き疲れちゃいました」
ジュースの購入にあたっては奢る奢らないで一悶着あったが結局私が押し負け、私がいちご味のドリンク、イツキさんがマンゴー味のドリンクを無事入手して席についた。
「いただきます」
言って、ストローに口をつける。甘すぎず酸っぱすぎない程よい味のジュースが喉に流れ込む。
「美味しい」
「うまい」
同時に言って、思わず笑い合う。
「ほんとにありがとうございます」
「気にしないでよ、ケンもどうせ明戸さんに奢ってるだろうし。朝奢るって言っちゃったしね」
「‥‥‥ケンって呼んでるんですね」
「ん、ああ。うん。健の字、ケンとも読めるだろ。ふざけて呼んでたら癖になっちゃってさ」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
何とも言えない沈黙が流れ、手持ち無沙汰にジュースを飲む。どうして私が会話をしようとするとこうも停滞するのか。
「そういえば、結局自己紹介してなかったね」
「えっ、ああ、そうですね」
「今更だけど、改めて守谷樹です。よろしく」
「山江文香です。よろしくお願いします、えーっと‥‥‥守谷さん」
「樹でいいよ。ケンと明戸さんのことも下の名前で呼んでるでしょ」
「はい。じゃあ、樹さん」
「うん」
「樹さんは明戸さんのことは名字なんですね」
「ああ、うん。一応先輩だしさ」
「‥‥‥えっ!」
「あっ、知らなかった? 俺やケンの1個上だよ」
「そうだったんですね‥‥‥」
そうして、私たちは当たり障りのない話をして過ごした。沈黙が流れることもあったけれど、それは不快なものではなくて、少しずつ減っていく飲み物が残り時間を示しているようで少し寂しかった。
「どうして、私だったんでしょうか」
お互いの飲み物も底をつきかけたとき、私はポツリと呟いた。
「ん、なにが?」
「誘っていただいたのが、です。健さんなら、もっと友達いそうなのに」
あの日からずっと不思議だったのだ。でも本人に直接は聞きにくい。
「あー、そうだね。ケンは友達多いよ。でも山江さんだったのは、一緒に行くのが俺らだったからじゃないかなぁ」
意味がわからなくて、視線で続きを促す。
「俺とか、明戸さんもだけど、あんまり積極的に人とつるむ方じゃないからさ。大して仲良くもない顔見知りと行くよりは初対面の方がやりやすいっていうか」
「‥‥‥なるほど」
確かに微妙な関係のクラスメイトと行くよりはまったく知らない相手の方がいいかもしれない。それに私もあまりつるむ方ではない。距離の取り方を弁えている相手だとやりやすいものだ。それにしても
「なんか、意外です。樹さん、もっと社交的なタイプかと思ってました」
「まぁ、ね。人当たりが悪いとは思わないけど。なんていうか、あんまり深い仲にはならないんだよな」
それも感じていたことだった。こうして話していても、どこか上辺なのだ。例えるなら、今日別れればもう連絡を取ることはないような。それどころか、街中で会っても他人のふりをするような。でも、その希薄さが心地よさでもあるのだった。
きっと今日ここに集まった面々は皆健の友人なのだろう。そして同時に健以外とはそんなに親しい関係ではないのだろう。それでも、それなりに楽しい時間を過ごして盛り上がれたのは真ん中に健がいたからだ。
「この後、行きたいとことかある?」
「いえ、特には‥‥‥」
「ならさ、パレード見に行かない? 少し遠いけどよく見える場所があるらしいんだよね」
私は空になったドリンクのカップを握りしめて答えた。
「行きます!」




