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夏祭り1/3

「文香ちゃんは8月の夏祭り行く予定とかあるの?」


 夏休みに入って最初の授業。休憩時間に健からそんな話を振られた。ちなみにあの体育祭以降特に変わったことはない。私はやはり玲奈に対して怒らないし、久川くんも玲奈と私の間に入るようなことはしない。


「いえ、特に行くつもりはないです」


 小学生くらいまでは親と行ったりもしていたが、この歳になると面倒さが勝る。何を好き好んでこの暑いのに人混みに出掛けなければならないのか。


「よかったら、僕たちと一緒に行く?」

「えっ、菜津さんと行かないんですか‥‥‥?」


 夏祭りといえばリア充にとっては定番のデートイベントだろう。


「ナツとは2日目にも行けるから。1日目にどう?」


 ここの夏祭りは1日目の夕方から2日目の夜まで行われる。両日とも夜には花火が上がるし、出店も多く出るが日中のイベントがある分どちらかといえばメインは2日目だ。2日目には花火も少し豪華になっているらしい。違いはよくわからないが。


「そういうことなら‥‥‥」


 久しぶりの夏祭りも悪くないかもしれない。あと、樹さんにまた会えるかもという期待も少しだけあった。遊園地で楽しかったと健伝いにだが言われたのを今だに思い出して喜んでいるのは内緒だ。


「来る?」

「邪魔にならなければ‥‥‥」

「全然。文香ちゃんが来るならイツキも誘ってみよっと」


 その言葉に少し期待しつつ、迎えた夏祭り当日。結局直前の授業まで樹さんが来れるかはわからなかった。もともとバイトが入っていたらしい。夏祭り当日ともなれば、客入りもいいのだろうし、休むのは難しいんじゃないだろうかと思っていたのだが、待ち合わせ場所に着くと既に樹さんがいた。ラフなTシャツに短パン姿だ。私もそうだったので少しホッとする。私だけ浴衣を着ていなかったらどうしようかと思っていたのだ。


「樹さん、こんばんは」

「ん、こんばんは。浴衣じゃないんだ」

「はい‥‥‥持ってなくて」


 買う気もなくて、と心の中で付け加える。


「樹さん、バイトは大丈夫だったんですか?」

「うん、代わってもらえたから」

「イツキ、すごい頑張って代わりに入ってくれる人探してたんだよ」


 振り返ると健がいた。紺色の浴衣姿だ。


「こんばんは」

「こんばんは。2人とも早いねー、まだ45分だよ」


 待ち合わせは17時だったので15分前だ。これでも私としては早く来すぎないように頑張った方なのだが。


「別に頑張ってない。たまたま代わってくれるって奴がいたから」


 樹さんが否定するが、健はそれをスルーしてさらに続ける。


「文香ちゃんが来るって言ったら、イツキ絶対バイトなんとかするって言ってたんだよ」

「絶対なんて言ってない。捏造するな」

「なんか‥‥‥すみません」


 私が来るならと気を遣ってくれたのだろうか、と申し訳なさを覚えつつも嬉しくなる。私のため、私のために‥‥‥落ち着け。落ち着け私。はしゃぐな。


「謝らなくていい。本当にたまたまだし。山江さんにこの2人任せるのも可哀想だっただけで」


 その言葉にいよいよ口元の緩みを抑えられなくなってくる私は必死で口元を隠しつつお礼を言った。


「ありがとうございます」

「こんばんは、ごめんね待たせちゃった?」


 菜津さんの声だ。口元の緩みを無理やり整えて顔を上げると、菜津さんは綺麗な白地に花柄の浴衣を着ていた。思わず、ほぅとため息を吐く。いいものを見た。これを見れただけで来た甲斐があったというものだ。


「ううん、僕も今来たとこ。浴衣似合ってるね。かわいい」

「ふふ、ありがとう」


 菜津さんが頬を少し赤らめる。かわいい。そして、サラリと褒める健もさすがだ。


「それよりイツキ、可哀想ってどういう意味だよ」

「そのままの意味だよ」


 会話に置いていかれた菜津さんは不思議そうな顔で微笑んでいる。


「イツキがさ、文香ちゃんが僕とナツと3人になるのは可哀想って言うんだよ。酷くない?」

「あー‥‥‥それは‥‥‥」


 菜津さんが否定しきれずにいる。まぁ普通にカップルと3人というのは気まずいかもしれない。


「あれ、今日も4人だけなんですか?」


 樹さんが来れないなら別の誰かを誘ったのかと思っていたが、3人きりになるという話からしてそうでもないらしい。


「うん‥‥‥一応僕が受け持ってるもう1人の子も誘ったんだけどね。その日は友達と行くからって振られちゃった」

「え、でも」


 大学の人は‥‥‥と言いかけたところで樹さんに意味深に目配せされる。それ以上言うな、ということらしい。よく気づいた私と自画自賛しつつ無理矢理話題を変えることにする。


「そうなんですね! じゃあ、行きましょうか」

「そうだね、とりあえず屋台まわろっか。ナツもいい?」

「うん」


 聞きながら菜津さんの腕をさりげなく取る。歩きにくさを考えてのことだろう。またほんの少し胸がモヤっとした私は目を逸らすと先に立って歩き出したのだった。

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