ポニーテールと短冊
生徒たちが雑談に花を咲かている教室。私は小さくため息をつく。今、この教室には、友だちで好きな人の麻里がいない。好きな人、というのは麻里には秘密にしている。
時計を見る。ホームルームギリギリの時間を時計の針は示していた。
教室の後ろのドアが開き、私は振り返る。そこには麻里がいて、眠そうな目を擦りながらトコトコと教室に入ってきた。
「おはよ~……あいちゃん……」
「おはー、眠そうだね。いつものことだけど」
「ま~ね~」
麻里の席は私の隣だ。けれど、席をスルーして私のところにやってきた。いつもの日課をするのだろうと、私は正面を向いた。
「ん~、モフモフ」
麻里が私のポニーテールに触れる。彼女は私のポニーテールが好きらしい。いつからかは覚えていないけれど、時間が許す限り触り続けるのが、気づけば当たり前になっていた。
「もっと早く来れば、もっとモフれるよ」
「……魅力的。でも、ギリギリまで寝てたい」
「そっか」
睡眠に負けたことを残念に感じながら、時計に視線を移す。ささやかで幸福な時間は、残り一分となっていた。けれど、今日はどうしてか麻里はモフモフするのを切り上げていた。
「どったの、麻里?」
いつもならギリギリになるまで堪能するのに。疑問に思い、振り返ろうとする。
「待って、そのまま」
「はーい」
よく分からないが、正面に向き直っておとなしく待つことにした。
耳をそばだてると、がさごそ音がする。リュックサックから何かを探しているらしい。すぐに、あったあった、と呟く麻里の声がした。
「えー、なーにー?」
「プレゼント」
ポニーテールをまとめているヘアゴムの辺りをいじっている。麻里は何かをつけているらしい。
「ん、できた」
「ねー、何つけたの?」
「秘密」
「取っていい?」
「ダメ」
麻里は満足げな声で言って、自身の席に座り、そのまま机にうつ伏せた。
秘密と言われたけれど、気になってしまう。それに、取ってはダメと言われれば、取りたくなるのが人というものだ。麻里には悪いが、外させてもらうことにした。
取り外して手にしたものは、短冊だった。
「そういや昨日、七夕だったか」
何も書かれていないから、こっちは裏面だろうと考え、反対側を見る。そこには麻里の綺麗な字でお願いごとがかかれていた。
『君から告白してくれますように 麻里』
「……なんだ。ばれてたんだ」
いつからばれていたのだろうと思いながら、自然と頬が緩んでいた。
教室の前のドアが開く。私はホームルームの間、なんと言って告白しようか思考を巡らせた。