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才能の裏側  作者: んやな
11/11

かっこつかねぇ


 俺たちはいつも通り控室で、準決勝の準備をしていると、扉をノックする音が聞こえてくる。


「ん? 誰だろう?」

 

 俺が扉に近づき扉を開けると、一人の女性がずかずかと入り込んできた。


「いや、すみませんね……」


「急にごめんね、お邪魔します」


 俺があっけにとられていると、その女性の後を追うように気まずそうな表情を浮かべた男性達が、入ってくる。


「あんた! どういうつもりよ!!」


 先に入ってきた女性は、すごい剣幕でニアの前に立つと、指を差しながら叫び始める。

 状況が掴めない俺とアルビンは、呆然と立っていることしか出来ない。


「何のことかしら?」


 ニアは、状況が理解できているのか、冷静に言葉を返すが、それが気に食わなかったのか女性の口調はさらにヒートアップする。


「あの時……あの日、次は全力で戦おうって言ったのに、あんたが言ったのに! それなのに何よ! 去年と何も変わって無いじゃない!!」


 そう叫んだ瞬間に、女性が俺の方に視線を向ける。


「また、去年みたいにお荷物抱えて……今日のために頑張ってた私が、馬鹿みたいじゃない」


 一瞬だけ俺を見た女性は、すぐにニアに視線を戻すと怒りながら少し悲しげな表情を浮かべていた。


「お荷物ね、それはどうかしら? 私はあの時の約束を破ったつもりは無いわよ」


「そんな減らず口を……いいわよ! 試合で負けて後悔しても知らないんだから!」


 嵐のように来た女性は、その言葉だけ残すと、また嵐のように去っていった。


「ちょ……オリオン待てよ、なんかすみません」


「ごめんね、二人とも僕を置いて行かないでよ」


 残された男性達は、俺たちに頭を下げると、足早に去って行ってしまった。


「あー、なんだ……ニアなにあれ?」


「私たちの次の対戦相手よ」


 ニアを問いただすが、何も無かったかのように返事を返してくる。


「そっか、じゃなくて、なんであんなに怒ってたんだよ? どうせニアのことだから、また高飛車なこと言って怒らせたんだろ? ホラ、俺も一緒に行ってやるから謝りに行こう、なっ?」


「子供扱いしてんじゃないわよ! それに、またって何よ! またって! あんたには、私がそんなこという人間だと思ってるの?」


「え……うん、なぁ、アルビン?」


「まぁ、そうだな」


「いいわよ、そこになおりなさい、次の試合は二人とも棄権で良いのよね?」


 そう言いながら、ニアが魔力を高め始めた。


「嘘だよ! 嘘、冗談だよ、なっなぁアルビン?」


「あぁ、俺は冗談のつもりだったぞ? 気分を害したのなら済まないな、俺はそんなつもりは無かったんだ」


 こいつ……真顔で俺を生贄に助かろうとしてやがる。


「ま、まてニア、取り合えあえず状況を教えてくれよ。 さっき言ったことは謝るからさ」


「まぁ、それもそうね、今二人をやっても試合に影響しちゃうしね」


 俺とアルビンはホッと胸をなでおろす。


「試合が終わったら、私の可憐さと、愛らしさを体に教えてあげるから、そのつもりでね……二人とも」


 俺の背中に冷たい汗が流れ、ニアの表情を見て軽率な言動を後悔する。

 今日生きて帰れるかな俺……


「とりあえずさ、ニアの可憐さと愛らしさは、俺たち二人ともよく知っているから、何があったか教えてくれよ」


「何があったかね、まぁよくある話よ。 アルビンも経験あるんじゃない? 魔剣祭でチーム組もうって寄ってくる人たち?」


「それはあるが、それがどうしたんだ?」


「ホラこの学園って、実力があると人が寄ってこなくなるじゃない? 実技の授業で痛い目見たくないとかで、それで私も例に漏れず孤立したわけだけど、去年一緒にチーム組もうって誘われて、私はそれに飛びついて一緒にチームを組んだの……でも、それが失敗だったわ」


「失敗? なんで? 仲良くなるチャンスじゃんか」


「向こうにその気があればね……結局一緒にチームを組んだ彼女たち二人は、私と仲良くしたかったわけじゃなくて、私の魔術の技術で魔剣祭で目立ちたかっただけ見たいなの」


「まぁ、魔剣祭ではよく見るよな。 アルビンも経験あるんじゃないのか?」


「俺の場合は断っていたからな、試合に出たことは無いが、確かにそういった人間から声を掛けられることはあったな」


「それで、ある試合で私が魔力が切れて負けた試合があったの、残りのチームメイトは私だよりだったから、魔力が切れた瞬間に棄権して、二人より先に魔力を切れた私は……その後チームメイトからね……結構きつめの言葉をもらって、へこんでたところにさっきの子とたまたま会ったのよ。 彼女も私と同じ状況だったみたいで、その時は不思議と話が合ったの、それで来年こそは全力で優勝目指して戦おうって約束したのよ」


「え……嘘だろ……まさか……」


「まぁ、あんたには悪いこと言ったわね」


「ニアが、へこんだ?」


「……何? 死にたいなら、素直に言ってくれたら手伝うわよ」


「嘘嘘、ごめん嘘だって、っで結論から言うとさっきの子は俺がいたからあんなに怒ってたってことか?」


「そうだけど、あんた結構あっさりとしてるのね」


「そりゃ、ポチだのなんだの言われてりゃこのくらいどうってことないな、それに荷物なのは事実だしな、ハハハ!」


 俺が胸を張って笑っていると、目の前にいたニアが大きなため息を吐く。


「はぁ……ポチって言われてた時はあんなに落ち込んでたのに、気を使った私がバカみたいじゃない」


「よく考えたら、当たり前のことを言われたんだなって気づいたら、気にならなくなった!」


「なんでもいいけど、見返すためにも次の試合負けるわけにはいかないわよ」


「そうだな、あの後から入って来た男のアラタって奴は、特に気を付けないとな」


「頑張れよ、二人とも」


「あんたも頑張るのよっ!」


「無理だって、ってかアルビンあのアラタって奴知ってるのか?」


「知っているていうか、昔何度か手合わせしたことがあるぐらいだな」


「へぇ、っでどうだったんだよ、勝ったのか?」


「何とも言えないな、戦績で言うと同じくらいじゃないか?」


「そうか……頑張れよ二人とも」


 俺が二人の肩にポンと手を乗せると、ニアが思いっきり手の甲をつねり上げる。


「痛いっ痛いっ!」


「だ、か、ら、あんたも頑張るのよ!」


「ぜ、善処します……」


 俺は、手の甲をさすりながら時間を見る。

 もうすぐ試合が始まる時間になっており、試合会場に向かうことにする。





 試合会場に着くと、相手選手は到着しておりその中の紅一点、オリオンと呼ばれていた子が凄い顔でニアを睨みつけていた。

 睨みつけられている当の本人は、涼しい顔のままオリオンを見つめていた。


「ってか、よく考えたら俺たちって作戦とか何も考えて無いけどいいのか?」


 試合会場のど真ん中で話すような内容じゃないが、今頃になって気づいたんだからしょうがないと思い、ニアとアルビンに小声で話しかける。


「大丈夫だろ」


「私とアルビンが戦う、あんたがそのカバーで良いんじゃない?」


「逆だろ? 俺のカバーを二人がしないと俺なんか一瞬で……」


 そこまで言ったところで、中央に集まるように審判から声がかかる。

 ヤバイ……俺が本当に二人のカバーすんの? 逆だろ。

 そう思っても、作戦を立てる時間は無いし……くっそ、もっと早めに気づけよ俺!!

 後悔しても、時間が戻るわけでもなく、練石の登録が終わると、後は開始の合図を待つだけの状況になってしまった。


「アルビン、ちなみにアラタってどっち?」


 俺たちから少し離れた三人を見つめながらアルビンに聞く。


「トートの前にいる茶髪の奴だな」


「もしかしてだけど、俺がアラタって奴と戦うのかな?」


「まぁ並び的に相手はそのつもりだろ」


 アルビンの左側にいた俺は、素早く右側に移動するが、アラタもゆっくりと移動してまた俺の正面に立ってきた。


「おわた……」


 あまりの絶望に空を見上げた瞬間に、試合開始の合図がかかる。


「マジ!? やばっ」


 急いで木剣を構えるともう目の前に敵が迫って来ていた。

 俺めがけて振り下ろされる木剣を、受け止め、その反動で体制が崩されないように衝撃を受け流し、何とか初撃で沈むことだけは回避できた。


「へぇ、そこそこ出来るじゃん」


 アラタがそう一言だけ言うと、すぐに襲い掛かってくる。

 スピード自体はアルビンの方が早いので、何とか防ぐことだけは出来る。

 俺は最初の作戦通り、二人のカバーを何とかするべく横目で一瞬二人の戦況を確認する。

 アルビンは少し押しているような感じだが、ニアの方が均衡しているように感じる。


「僕相手に、よそ見出来る程余裕あるのかな?」


 視線は一瞬しか動かしてないはずなのだが、気づかれてしまう。

 それだけでも俺より何枚も上手だと理解させられてしまう。

 この状況で二人のカバーなんて出来るかよ!

 心の中で悪態を付くが、状況が良くなるわけでもなく、何度も剣撃が俺を襲う。


「く……そっ!」


 アラタの剣を何度も受けて出来る限り受け流すが、実力の差から受け流せずに、攻撃を防いだはずの木剣から両腕に衝撃が伝わってくる。

 考えてる時間は俺にはもうない、数分もすれば俺は完全に負ける未来が決まっているだろう。

 俺は、アラタから逃げたい気持ちと、何とか二人の役に立ちたいという気持ちから、自然と転移の魔方陣を書いていた。

 しかし、ニアと互角の勝負をする相手がそうやすやすと完成させてくれるわけがなく、すぐに魔方陣が潰されてしまう。


「くそったれ」


 俺は魔方陣に魔力を注いだまま、何度も転移の魔方陣を書き続ける。

 魔方陣に気を取られて少しでもニアが楽になればと思ったが、そこまで甘い相手では無く、俺の魔方陣を防ぎながらニアの魔術の攻撃も防いでいる。


「集中力が散漫になって来てるよ」


 そう言って放たれた剣撃を躱そうとするが、完全に躱すことが出来ず二の腕を少し攻撃がかすっていく。

 アラタの細身の体からは考えられない鋭い攻撃が、少し掠り電気が走ったような痛みが体に走り、一瞬動きが止まってしまう。

 それをアラタが見逃してくれるはずもなく、次の攻撃が俺を襲う。

 何とかその攻撃を防ぐが、少しずつ浅く入る攻撃に俺の動きが若干鈍ってくる。

 万全の状況でギリギリだった攻撃に、鈍くなった俺が対応できるわけもなく、体に傷が少しずつ増えていってしまう。


「オリオンが言うほど、お荷物ってことでもなさそうだね、君」


「そりゃどうも、それより少しぐらい俺に花持たせてくれたって罰は当たんないと思うけど?」


「僕と打ち合い出来てるだけで充分花を持たせてるんじゃないかな?」


「どういう……」


 その言葉と同時に、明らかにさっきより遅い剣が俺に振るわれる。

 急に遅くなった剣にタイミングが合わず、防御できるもののリズムが崩れたのを感じてしまった。

 アラタはまた遅い剣を振るって来るが、またタイミングを外してしまう。


「くそ……」


 アルビンの全く違う剣術に、思わずそう溢してしまう。

 俺は魔方陣を作成しながら、次のアラタの攻撃を見切るように考える。

 アラタは剣を振りかぶり俺めがけて振り下ろしてくるが、今日手合わせしたアラタの剣速の中で一番早い剣が俺に振るわれる。

 アラタの剣と俺の体の間に自分の剣をギリギリ挟むが、衝撃を吸収出来るわけもなく、態勢を崩してしまう。

 攻撃を防がれたとわかったアラタは、すぐに追撃の態勢に移っている。

 何とか防ごうと防御の態勢を取るが、いつまで経っても構えている剣に攻撃の衝撃が来ない。

 早い攻撃が来ると思っていた俺は、防御のために攻撃が来るであろう方向に込めた力で体が少し流れてしまう。

 自分の予想より遅く来た衝撃を手元に感じた瞬間に、次の攻撃を防げないことを悟ってしまう。

 タイミングを外され、体のバランスも崩された俺が、アラタの最速で放たれた攻撃を防げるわけもなく、防御すら出来なかった俺は、簡単に吹き飛ばされてしまう。


「強い……」


 何とか意識だけは繋いだ状態で、手合わせした素直な感想が零れてしまう。

 態勢を崩し絶好のチャンスに、慌てること無く確実にやれる状況まで持っていくその技術に、経験に、全てにおいて剣術ではかなわないと、思い知らされてしまう。

 悔しい、へたくそな自分の剣術が、足りない技術が、経験が、努力が全てが足りない自分が悔しい。

 でも……勝てないからって、何もしないことを選ぶほど、努力してないわけじゃない。


 衝撃で吹き飛ばされた距離を、詰めて来るアラタに向けてポケットから取り出した練石を構える。

 練石を見たアラタは気にする素振りを見せもせず、かまわず突っ込んでくる。

 俺はアラタに向けて無詠唱でファイヤーの魔術を放つ。

 はったりだと思っていたのか、ファイヤーの魔術を見た瞬間に、この試合で始めてアラタの表情が変わる。

 だが、魔術がアラタの練石に吸収されることはなく、足を止め、バックステップで俺の魔術は軽々と躱されてしまう。

 しかし、この試合で始めて思い通りにいった俺はにやけてしまう。

 足を止めたアラタを見ながら、全ての意識を作っていた魔方陣に向ける。

 ここで、アラタがかまわず突っ込んできたら俺は何もできないだろう、でも今の俺にはこれしか選択肢が残っていない。

 残していた魔方陣の一つを発動するためアラタから意識を外し、魔法陣のみに意識を集中して干渉された魔力を削除していく。

 俺は魔方陣が完成した瞬間にそれを発動させ、目の前の景色が一瞬で変わり、俺の目の前にはアラタではなく、オリオンが驚いた表情で立っていた。



「シッ!」


 歯の隙間から短く息を吐き、オリオンに向け真っすぐ最速で木剣を振りぬく。

 アラタには及ばない剣術、アルビンには遠く及ばない剣速、足りない技術に振るっている自分ですら不格好に見えてしまう、そんな未熟な俺の剣術は何の抵抗もされないまま、目の前のオリオンに向かって襲い掛かる。

 オリオンは俺の木剣をまともに急所に受け、攻撃の衝撃で転がりそのまま気を失ったようだ。

 俺は急いで周りの状況を確認しようと視線をアラタに向けると、魔術師を失ったアラタはニアの魔術を防ぐ術も無く、あっけなく練石を割られていた。

呆然としているアラタを無視して、アルビンの援護に行こうかと思ったが、アルビンの対戦相手も今の戦況を理解したのか、両手を上げ降参をしていた。


「勝ったのか……?」


 一瞬前まで劣勢だった自分が、今勝者として立っていることが信じれずにニアの方に視線を向け、思わず訪ねてしまう。


「そうね、私たちの勝ちね」


 ニアに笑顔でそう言われ、じわじわと頭が理解し始める。












「いってぇぇぇええ!」


 勝利の喜びを味わう暇すらなく、アラタに受けた攻撃の痛みが体中を襲いかかってくる。

 結局、ニアとアルビンに支えられ勝者には見えない不格好な態勢で、会場を後にした。

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