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マリアの魔法  作者: 天使聖
第一章『迷って辿り着いたのは、異世界でした』
2/2

『うさぎの案内人』

 私の名前は岡茉莉愛おかまりあ。16歳の立派な高校二年生です。小さい頃に事故で両親を亡くし、今は祖父母の家で育てられています。


 両親のことは、今はもうほとんど覚えていないけれど、お爺ちゃんやお婆ちゃんが、いつも私を大事に育ててくれたことを私は知っている。だから二人は、私にとって大切な家族なのです。


 お爺ちゃんとお婆ちゃん、そして私の三人で過ごす日々は、決して裕福ではないけれど、とても温かくて幸せなもの。私にとって掛け替えのない、宝物のような時間です。


 

 学校では、本を読むのが昔から好きな私は、一緒に本の話が出来る友達が欲しいと思って文芸部に所属しているんですが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。


 元々、田舎にある小さな学校の上、最近は少子化で生徒数も少なくなっているせいで、現在の文芸部員は私一人。廃部寸前です。


 中学の時に仲の良かった友達も、高校に上がるときにほとんどが都会に出て行ってしまい。

 それでも、今日もだ見ぬ新入部員を歓迎するために、私は文芸部の部室に向かいます!!



「――って、あれ? 鍵空いてる?」



 ドアを開けてもそこには誰もおらず、私は先生が鍵を掛け忘れたのだろうと思い、部室に入っていった。


 部室には、入り口の正面に大きな机が置いてあるのですが、その机の上にぽつんと一冊の本が置かれてあるのを見つけた。その本は、あまりに古いせいか、タイトルが読めなくなっていた。


 部室にある本にはほとんど目を通しているが、その本には全く見覚えがなかった。私は、何故なぜかその本が気になり、手に取って読み始めた。


 その内容は、とても悲しく、胸が痛くなるものだった。私がそれを読み終えた頃、頬を一筋の涙がつぅっと流れていた。それは自然と出たもので、自分自身全く意識はしていなかった。


 気付けば日も暮れていて、その本を置いて私は慌てて教室をあとにした。



 ――――その日以来、私は頻繁に夢を見るようになった。


 大切なものをなくし、とても辛くて泣き崩れる少女。どこか昔の自分を見ているようだった。


 暗く、寒い部屋の中で、ずっと泣き続けている少女。そして誰かが名前を呼ぶのだ。



『マリア⋅⋅⋅⋅⋅⋅』



 その暖かい声で名前を呼ばれ、彼女マリアは振り向く。名前を呼ぶ人の顔は見えないけれど、とても懐かしくて、どこか心安らぐような感覚に包まれる。


 ――――そして、いつもそこで私の目が覚める。


 目が覚めれば夢のことはほとんど覚えていないけど、とても胸が温かくなっていて。まるで、とても大切な人に会っていたような⋅⋅⋅⋅⋅⋅そんな気がして堪らなくなる。


 そんな夢を見る日が数日続いたある日のこと。私はいつも通り、誰もいない(・・・・・)だろう文芸部室へと足を運んだ。



「――あれ? また鍵が開いたまま⋅⋅⋅⋅⋅⋅」



 そしてそのドアを開いた先にいたのは、一匹のウサギ(?)でした。



「うさぎ? ⋅⋅⋅⋅⋅⋅のぬいぐるみ?」



 つぎはぎだらけのぬいぐるみ。そのぬいぐるみは、あの本(・・・)を読んでいた。



「えっと⋅⋅⋅⋅⋅⋅」



 ぬいぐるみが動いているというだけでも異様な光景だが、そのぬいぐるみは本を読んでいるうちに涙を流し始めたのだ。


 しばらくすると、ぬいぐるみはひょっこりと立ち上がって、本を背負ってピョンピョンと跳ねて教室を出て行ってしまった。


 私は、慌てて教室をあとにし、そのぬいぐるみを追いかけた。意外と足の早いそのぬいぐるみに追いつくのは容易ではなく、気付けば校舎裏にある森の奥まで入り込んでしまっていた。


 追いかけているうちに、私はあることに気がついた。そのぬいぐるみは、まるで私がついてきているかを確認するようにときどきこちらを振り向いているのだ。


 私は少しの間木の影に身を隠し、ぬいぐるみが振り向いて私がいないことに気付き、戻って来るのを待った。そして、作戦通りぬいぐるみが戻ってきたところを、背後から捕まえた。「やった⋅⋅⋅⋅⋅⋅!!」と、喜びから思わず声が漏れるが、喜んでいられるのも束の間だった。



「ここ⋅⋅⋅⋅⋅⋅どこ?」



 360度どこを見ても同じ景色が広がるばかりの森。スマホも圏外で、気づけば森の奥で、私は一人遭難してしまっていた。急に心細くなり、身動きが取れなくなった。むしろ、遭難してしまったときはあまり迂闊うかつに動かない方がいいのかもしれないが、先程から何か視線を感じるのだ。それが人のものではないということも、なんとなく分かってしまっていた。とても危険な何かに視られているような感覚、それと相まって余計に身体が動かなくなってしまう。


 すると、ぬいぐるみはジェスチャーで私に何かを伝えようと、突然ジタバタと動きだした。

 もう日も沈み始めていて、森の中は真っ暗だが、ぬいぐるみの指し示す方からは、少し明かりが漏れていた。


「あそこから森を抜けられるの?」


 ぬいぐるみに尋ねると、その問い掛けに対し、ぬいぐるみはブンブンと頭を縦に振った。

 私はそれを信じ、その明かりの漏れる先へと走った。

 そしてやっとの思いで森を抜けた先にあったのは、一つの小屋だった。


「⋅⋅⋅⋅⋅⋅家?」


 人が暮らしている⋅⋅⋅⋅⋅⋅ようにはとても見えない小屋。けれど、外観も内装もしっかり保全されていて、とても綺麗な状態に保たれている様だった。

 日が落ちて真っ暗になった森を、無闇にこれ以上歩くのは危険だということは理解していた。

 しかし、誰か人が住んでいる様子はないとは言え、しっかりと管理された家に勝手に入るのには気が引けた。


「――――マリア⋅⋅⋅⋅⋅⋅!?」


 突然、自分の名前を呼ぶ人の声に、思わず振り向いた。

 そこに立っていたのは見知らぬ男の人。その人は、燃える火のように真っ赤な髪と、海のように深い青色の瞳をしていた。

 知らないはずの男の人に名前を呼ばれたとき、聞いたことのないはずの声を私は懐かしく感じていた。


 "――――どこかで聞いたことがあるような"


「えっと⋅⋅⋅⋅⋅⋅。どうして私の名前を知っているんですか?」


「すまない⋅⋅⋅⋅⋅⋅。どうやら人違いをしてしまったようだ」


 男の人はにっこりと微笑んだ。その笑顔は、少し残念そうで、悲しげで、無理をしているようだった。


「もう暗い。山を下りるのは危険だろう? 良かったらその小屋で休みなさい」


「え? あ、ありがとうございます⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


 山になんて登ってたかなという疑問が私の頭を過ったが、身体がすっかり疲れきっていて、うまく思考がまとまらなくなっていた。


「あの⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


「どうかしたかい?」


「ここって⋅⋅⋅⋅⋅⋅あなたのおうちなんですか?」


「いや、古い知り合いの家なんだ。今はもう誰も住んでいないから、気にすることはないよ」


「古い知り合いって⋅⋅⋅⋅⋅⋅さっき言ってたマリアさんって人ですか?」


「ああ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。まあ、もうここに彼女が帰ってくるなんてことは有り得ないんだがな」


 なんとなく、解ってしまった。この人が、そのマリアという女性にどんな想いを抱いていたのか。どうしてさっき、辛いのを隠すように微笑んだのか。


「そう言えば! 私の名前も茉莉愛まりあって言うんですよ。ええっと⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


「私の名はアーサーだ」


 私の頭にふと、あの本が思い浮かんだ。


「ええと⋅⋅⋅⋅⋅⋅アーサーさんて、日本語お上手ですよね」


 私がそう言うと、アーサーさんはなんとも不思議そうな表情を浮かべた。


「日本語⋅⋅⋅⋅⋅⋅とは、何だ?」


「え?」


 色々とおかしいと思うところはあった。

 学校から森を抜けてこの小屋に来るまでの間、坂になっているような斜面はなかった。況してや、山道を登っているような感じはなかった。


 けれど、アーサーさんは⋅⋅⋅⋅⋅⋅。


「あの⋅⋅⋅⋅⋅⋅!! 私、迷ってここまで来ちゃって⋅⋅⋅⋅⋅⋅ここってどこですか?」


「ここは⋅⋅⋅⋅⋅⋅どこでもないよ。この山の麓に小さな村があったんだが、五年前に全焼してしまってね。この小屋も、そのあとに私が建て直したんだ」


「全焼?」


「魔女狩り⋅⋅⋅⋅⋅⋅そのせいで⋅⋅⋅!!」


 そう話したアーサーさんの表情かおは今までにないくらい辛そうで、物凄く悔しそうに唇を噛み締めていた。


「すまない。聞いてて気分の良いものじゃないね、こんな話」


 私は確信した。学校の近くで五年前に火事が起きたなんて聞いたことがない。況してや、あの森で囲われている学校の付近に村があったとは思えない。


 そして、『魔女狩り』という聞きなれない言葉。日本じゃまず聞くことはない。


 ここは今まで私がいた世界じゃなく、あの本の、物語の世界なのだと。

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