表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/37

9話 少年、罰を受ける

 購買部は消えてなくなった。

 ついでに学園も半壊した。



「入学式までに、どうにか、直ってくれるといいのう」



 学園長室の、立派な椅子の上。

 学園長は、窓の外で『施設管理妖精』たちが必死に土木工事をしているのを見ながら、笑った。


 普通、自分の管理する学園を半壊させられたんだから、怒るところだろう。

 でも学園長は、機嫌がよさそうだった。

 頭のいい人の頭の中は、普通の人から見れば、よくわからないものなのだ。



「すいません、学園長先生……なんだか、ものすごく、強い魔法が出ちゃったんです」



 学園長の前では、ユータがしゅんとしていた。

 出ちゃったものはしかたないが、責任を感じているようだった。



「なに、気にすることはないぞい。それよりも、君の魔法威力に早めに気付けて、よかったとワシは思っておるんじゃ。他の生徒のいる場所であんな威力の魔法を撃たれては、やばかったからのう」

「でも……」

「学園の設備は、妖精どもが、勝手に直すし、心配しなくとも、よい。いや、ほんとよかったのう。困らされていた購買部も壊れてくれたしのう。あやつ、女の子だけでなく、男の子も脱がすから、困っておったところじゃ」

「でも、購買部は大事なものだったんでしょう? 聖遺物とかいう……」

「神さまは我々の世界をお見捨てになった」

「……」

「我々は、我々のみで、生きていかねばならん。……そもそも購買部で服を買うには、神さまの通貨が必要じゃからのう。あやつに服を持って行かれて、困るばかりじゃった。君は自分のしたことを、誇ってよいぞ」

「……お気遣い、ありがとうございます」

「ワシは、思ったことをそのまま言っておるだけじゃよ。知力1000000の君に、ワシなんかが気を遣ったところで、全部見通されてしまうだけじゃろうからの」



 学園長は笑った。

 ユータも、ようやく、ちょっとだけ笑った。



「……学園長先生、やっぱり僕は、『知力』の数値だけが、賢さじゃないと思うんです」

「前にも言ったが、その言葉は、信仰心を疑われる。ステータスは、神さまの割り振った数値じゃからのう。それを疑っているようなことを言えば、とやかく言うものも、いる」

「……はい」

「だから、こっそり、ワシや、信頼できる相手の前でだけ、そういう本音を、言うといい。この世界をお見捨てになった神さまを、まだ信仰してる者も、少なくないからのう」

「……はい」

「それで、賢い君の意見を、聞こうか」

「僕はやっぱり、賢くないですよ」

「ふむ?」

「……この学園に入って、ナナやマルギット先生と会ってからも、ずっと、どうやって友達になってもらおうか、考えてたんです。とりあえずいい子にして、悩みを聞いたり、困ってれば手伝ったりして……そういうことを」

「……」

「でも、『友達のためにがんばっていいかな?』って聞いた時、二人とも、『がんばって』って言ってくれて……だから僕はきっと、無意味なことを、色々考えすぎてたんだと思います。考えなくていいことを考えるのは、賢くないと、思いました」

「『賢さ』は、人それぞれじゃ」

「……」

「マルギット先生のように、すぐ『データ』をスラスラしゃべるのも、すごく頭よさそうじゃし、君のように、難しいことを思いついて、疑問を投げかけるのだって、賢く見える。それとは別に、うまく言えない、『生きる知恵』みたいな賢さだって、あるじゃろう」

「……はい」

「古い話をしよう――ワシら人類の祖先は、『NPC』と呼ばれ、神さまに奉仕する種族だと言われていたことは、知っておるか?」

「なんとなく」

「この世のすべては神さまが整え、産みだし、我らの祖先は、ただ与えられた役割をこなせばよかった。……『考えて』『生きる』必要がなかったのじゃ」

「……」

「そんな中で、最初に『考える』ことを覚えたものは、周囲のものからすれば、異質な存在だったじゃろう。理解されず、差別されたかもしれん」

「……」

「けれど今、『考える』ものが、世の中にはいっぱいおる。……君の悩みはきっと、そういうものではないかと、ワシは思っておるよ」

「……僕にはよくわからない、難しい話です」

「ワシにもわからん。ワシは頭がよさそうに思えるような話しぶりが好きなだけで、実は、たいして意味をこめてはおらんのじゃ」

「……」

「けれど、君がワシの話からなにかを感じ、なにかを考えるきっかけとしてくれたならば、中身のない話を、さも中身があるぶって話したかいがあるというものじゃ。……そういう賢さもある」

「なるほど」



 ユータは深くうなずいた。

 学園長は額を人差し指でコンコンと小突き――



「さて、ワシは全然気にしておらんが、いちおう、『せけんてい』もあるので、学園を半壊させた君への処分を言い渡さねばならん」

「……はい」

「友達をたくさん作りなさい」

「…………処分、ですか? それが?」

「知力1000000の君に、なにをさせても、処分にならなかろう。なにをしても、うまいことやりそうじゃ。しかし、友達作りは苦手だと、君自身が言っておる」

「……」

「苦手なことをするのは、つらく、苦しかろう。知力120程度のワシでは、このぐらいしか思いつかんが、知力1000000の君には、他になにか思いつくことがあるかね?」

「……いえ」

「ならば、君への処分は決まった」



 学園長は白いヒゲを揺らして笑う。

 それから。



「天才よ――いや、少年よ。青春をすごしなさい。思う存分。バカみたいに、のう」



 きっと、深い意味はないのだろう。

 けれど、彼はそこに、なにか大事な意味を、見出せそうな気がした。

 だから『それでいいや』と思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ