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『知力1000000』のマジヤベー超超大天才がパネェ大活躍の神的最強無双英雄日常伝説  作者: 稲荷竜
5章 ストーリー進行? 消えたメインヒロインを(そろそろ)探せ!
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36話 ストーリーブレイク

 あてどのない捜索にしては意外と早くに成果が出たのではなかろうか?


 夕暮れ時の学園。

 人のよりつかぬ、監視の目が――使い魔がデータを収集しているなんらかの手段の『目』がなるべくとどかなさそうな場所を選んでユータは走り回っていた。


 行方不明もまた個人の意思なら、捜索もまた個人の意思である。

 人がどのような意思をもとに行動しようが自由だ。

 ……が、二者の自由がぶつかり合うならば、そこで初めて能力による闘争が起こりうる。


 能力とは知力ではない。

 それより大事なものがたくさんあることを知っている。

 社会性、好感度、それから、運勢。


 だからきっと。

 この出会いは運勢が、あるいは運命がもたらしてくれたものなのだろう。



「見つけた」



 学園を囲む森にはうっそうと木々が生い茂っている。

 行けども行けども果ての見えないその森は、歩いているうちにいつしか入って来たところに戻ってしまうというなぞの性質を持っているらしい。


 その森の中に、一箇所だけぽっかり拓けた空間があった。


 西日が差しこんで赤々と照らされた腐葉土の上。

 一本だけひときわ太く大きい樹の根元にもたれかかって座る白い髪の少女を彼はついに発見する。



「『――エピソード――をクリア――』『主人公格のキャラクターが所定のマスに到達』『次のエピソードをアンロックします』」

「メイ?」

「『違うの。ワタシは殺傷のための機械、だからあなたたちと一緒にいる資格なんかない』『海に行った時に見た夕焼けは綺麗だった』――海? 『一緒にドラゴンを退治した時のあなたは格好よかった』――ドラゴン? 『ワタシには使命がある。それはきっとあなたたちとは相容れない』――使命?」

「メイ?」

「『不達成フラグが膨大でここにいたるまでのストーリーイベントがスキップされています。イベントを正常に開始できません』――だけど、もう、いい加減に、わたしは役割をこなしたい。かみさまが、わたしたちを捨てたせいで、わたしは、もう長く、長く――」



 メイはよくわからないことをつぶやき続けていた。

 彼女の表情は先ほどからころころと変わり続けている。


 もともと無表情でなにを考えているかわからない彼女だ。

 その表情がころころ変わる様子は――恐ろしい。

 二つの違った意思が肉体の操作権を争っているようで、恐ろしい。



「メイ、とにかく帰ろう」

「帰る? 『権限――権限によりストーリーをスキップします』『エピソード23を開始』『これまでのあらすじを再生――いいえ』わたしは早急な進行を求めます。『ねえ、あなたは世界を敵に回しても、わたしと一緒に来てくれる?』」

「なにを言っているの?」

「『はい か いいえ で応じてください』」

「でも、なにを言っているかわからないから、返事はできないよ。君の言いたいことが僕にはよくわからないんだ。それより、なんで急にいなくなって、今までずっと行方不明だったの?」

「『はい か いいえ で応じてください』」

「……君がなにを言いたいのかはわからないけど、とにかくみんなに、君は実在したって見せに行くよ。僕はそのために君を探してたんだ」



 ユータはメイに近付いて、その腕をとった。

 メイは抵抗する。

 その力は強くて、まるで地面に根を張っているようだった。


 だからユータは頭を使うことにした。

 頭を――知力を――魔法威力を使って、


 メイの座る地面を消し飛ばした。


 微細なコントロールはできるようになっていたのだ。

 だって、授業で習ったから。


 地面が蒸発し、その上にいたユータとメイも吹き飛ばされる。

 しばらく二人は空を漂ってから――

 柔らかく弾力のある腐葉土の上に、どさりと落ちた。



「さ、帰ろう」

「……ばかじゃないの」



 地面に倒れこんだ姿勢のまま、メイがあっけにとられた顔で言った。

 ユータは笑う。

 だって――



「馬鹿って言われたの、初めてだ」

「……」

「わけがわからないとか、意味がわからないとかは、よく言われたけど――そういえばなんでだろう。僕は『馬鹿』と言われたことだけはなかったな」

「……」

「『わけがわからない』より『馬鹿』のほうが文字数少ないのに、不思議だ」

「…………」

「なんでだろう」

「……」

「また無口に戻っちゃったのか。さっきまではよくしゃべってたのに」

「…………あなたは『わけがわからない』。馬鹿はもっと明瞭でわかりやすい」

「じゃあ、君もわけがわからない」

「わたしは、わたしは――ストーリーを進行しないといけない。それが役割だから。でも、神様はもういなくて、わたしは主人公がいないと、それで……」

「わけがわからないよ……」

「……」

「君はどうしたいの? 探されたくなかったの?」

「探されたかった。だって、わたしが探されることが、ストーリーに組み込まれているから」

「僕は君を見つけたかったし、君は誰かに探されたかった。じゃあ、いいじゃない。戻ろうよみんなのところへ」

「でも、ストーリーを進めるのが役割だから」

「ストーリーがなにかはわからないけど、そんなの誰も求めてないよ」

「……神様が求めている」

「神様はもういない」

「……」

「君はなんか、購買部みたいな人だったんだね。ああ、そうか。『村の入口で村を紹介する役割の人』か。神様からの役割をこなし続けて人気者になった人の話を思い出すよ」

「……」

「『やりたいことを、やったもん勝ち』っていう意味の話なんだって、父さんは言ってた。でも、僕は違うと思ったんだ。その人、別に勝ってないし、そもそも本当に『村の入口で村の紹介をし続ける』なんてことしたかったのか疑問だよ。だってそれ、神様から与えられたただの役割だろう? その人の意思じゃないじゃない」

「……」

「もう古いよね、神様の意思を守るのは。だって僕らはもうNPCじゃない。神様に奉仕するだけの種族じゃないんだ。自分で考えて、自分で生きていけるんだから」

「……」

「君もそうしたら?」

「……どう、したらって?」

「好きに生きたらいいじゃない。ストーリーとか知らないよ。そんなのいきなり言われても困る。今まで全然なかったじゃないか」

「でも、あなたと出会ったのは、あなたが主人公だから。つまりストーリーの導きで……」

「知らないよ。ストーリーさんが導いたっていうなら、僕にもわかるように導いてよ。いきなり出てきて『今まで私が導いていた』みたいな顔されても困らない? 僕は困るよ」

「…………」

「君だって探してほしかったなら、置き手紙とか残してよ。いきなりいなくなって帰ってこないから、『ああ、行方不明になりたかったのか』って思って、君の意思を尊重してたんだよ」

「……普通、自分から行方不明になりたがる人はいない。その考えが正しいかどうかはともかく、わたしはそういう意思を持った人に綴られたストーリーの中にいる」

「その『普通』はもう古いんだよ。だって神代の普通でしょ?」

「でも」

「あと『普通』とか気にするとキリないよ。なにが普通かはみんなで勝手に決めたらいいじゃない。少なくとも、僕のまわりの人は、みんなそうやってるっぽいよ」

「……でも、ストーリーに沿わなかったら、わたしはどうしたらいいの?」

「自我があるじゃない。君がなにかは知らないけど、ストーリーさんと縁を切れば?」

「縁を切ってどうしたら?」

「学園生活があるじゃない」

「……」

「クラスメイトだし、一緒に遊ぼうよ」

「あなたは、世界の命運を左右するストーリーの主人公になりたくないの?」

「別に。平和が一番だと思うよ」

「……」

「それに、主人公って友達少なそうじゃない。僕はやだよ。脇役でも友達が多そうなほうがいい」

「――選定ミス」

「……」

「あなたを主人公に選んだ、神様の――神様のシステムの、フラグ管理の、設定の――とにかく全部は間違いだった。あなたは主人公的行動をとれないし、とろうとも思っていない。ヒーロー願望というものが欠如している」

「そうかもね」

「神様はみんな、ストーリーに沿って動いてくれたのに」

「じゃあ神様こそ自我がなかったんじゃない?」

「そうかもしれない」

「それで、どうする?」

「……帰る。もう野宿はイヤ」



 メイは心底イヤそうな顔で言った。

 それを見てユータは笑う。


 だってその顔は、彼女が初めて見せた、彼女の個性のうかがえる表情だったから。

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