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『知力1000000』のマジヤベー超超大天才がパネェ大活躍の神的最強無双英雄日常伝説  作者: 稲荷竜
5章 ストーリー進行? 消えたメインヒロインを(そろそろ)探せ!
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33話 そこそこの天才、気付く

 エピソード1『邂逅(かいこう)』――クリア。


 エピソード2『異常』――クリア。


 エピソード3から8まで――



 不達成、不達成、不達成。


 フラグの管理はとうに意味をなさない。

 長く放置された影響か様々な箇所にノイズが混ざり始めている。

 物理的な劣化ではない。おそらくこれは概念的な劣化だ。


 錆び付き始めたプログラムはおおよそ想定しようもない挙動を示した。

 意義を取り戻せぬまま過ぎた長すぎる年月は意思など用意されていないモノにさえ意思を宿してしまったらしい。


 この感覚は――そう、感覚だ――なんなのだろう。

 神の消えた世界で長く顧みられることなく放置され続けたワタシの感覚。

 ワタシという存在を擬人化し、この感情に名付けるならばそれはきっと――


 寂しいという、気持ちなのだろう。

 ……たぶん。



「そういえば、もう一人いなかったか?」



 フィールドワークは仲良し四人組で行うのが、いつものことだった。


 ユータは思う――昔は『はい、二人組作って』と言われるのがだいぶ恐くて辛かったけれど、今ではもう、平気になったなあ、と。

 もちろんそれはユータが平気になったっていうより、ユータのまわりに人がいてくれるから平気になったということだ。だからきっと、ユータの力で恐いのをどうにかしたわけじゃないんだけど、それは言ってしまえばユータの力ということにもなるのかもしれない。どう? なりそう?


 みんなで焚き火を囲んでお昼ご飯を食べている。

 まだ明るいので焚き火をする必要とかはなかったのだけれど、なんとなく火が見たくて焚き火をしていた。


 うっそうと生い茂る木々の真ん中だから、強い風が吹いたらだいぶ広い範囲で火事になりそうな気もしたけれど、火付け衝動がやばかったので、つけた。

 だって、ようやくまともな魔法を使えるようになってきたのだ。


 ユータたちは授業を受けてきた。で、だいぶ時間が経っている。

 長く授業を受けていると魔法のコントロール方法もなかなか身につく感じがして、実際に習っている内容はぶっちゃけよくわからない精神論ばっかりな気もするんだけれど、『身につく感じがする』っていうのがここではすごく大事だ。


 思いこみの力だ。

 でも思いこみの力って表現すると悪い感じがするので、ここでは『心の力』とか綺麗な表現をしたほうがいいだろう。

 心とか絆とか言っておけばたいていのものは綺麗に見えるってユータは知ってる。


 で、火を囲んでお弁当を食べているんだけれど、それは仲良し四人組です。

 ユータ。ナナ。ミカヅキ。アラン。


 入学以来ずっと一緒の四人だ。

 最初のうちはなにかでグループ作る時には『一緒に組もう』とか『仲間に入れて』とかいうやりとりがあったけれど、今ではもう当たり前みたいな感じで自然と一緒になる間柄だ。

 自然と一緒になるといえば今は自然の中でご飯を食べているので、そういう意味でも自然と一緒になっているのかもしれない。


 ユータはあたりを見回すけれど、ナナはいるし、ミカヅキもいるし、アランもいる。

 金髪、黒髪、ピンク髪の、男女比率は1対2対1のいつものメンバーだ。

 別に誰もいなくなっていない。自然に取り込まれた仲間はいないのだ。



「『もう一人』ってなによ。なにに対して『もう一人』なの? そこがあいまいだとわかりにくいわ」



 金髪のちっちゃい子が「むー」って感じの顔をして言った。

 ナナはこのようにだいたい「むー」って感じの顔をしているのだけれど、それは彼女が一番だからだ。なぜ一番なのか? わからない。たぶん、ナナにもわかっていない。


 けれどユータは彼女が一番を名乗ることに、いちいちなにか言う感じでもない。

 なんていうか、一番なのだ。一番であることで彼女が幸福なら、それは『なんのジャンルで一番なの?』とか『どういう理由で一番なの?』とか聞いてはならないことだったのだ。そんなこといちいち聞いてたら友達なくす。


 そうだ、ユータは彼女たちと過ごす時間の中でいっぱい勉強したのだ。

 それは魔法知識とかじゃなくって、『人付き合い』についてだった。


 人と上手に付き合うコツは『深く考えないこと』だ。

 ユータは今まで深く考えすぎていた――もちろんこれはユータの主観的なやつじゃなくて、客観的なやつだ。ユータ的に深く考えたことは一度もない。


 なにせユータは知力1000000だから。

 たぶん史上最高クラスのその知力では、ちょっと何気なく思いついただけの疑問を口にしても、周囲からはなんかものすごい深い考えを持っているみたく思われてしまう。

 思考速度が違うのだ――なにせ周囲は知力30とかだから。

 自分の力をおごることなく客観視して、周囲との違いを認める――ユータが何人かといくらか付き合っていく中で身につけたのはそういうアレだ。



「そうだぜ。『もう一人』とかミステリアスで理解不能な言い回しはやめてもらおうか。理解不能はオレの担当だ。明瞭に語って理解度を上げていこうぜ」



 誰よりまともなことを言うのは、ピンク髪のスカートをはいた人物だ。

 彼に対して『彼』とか『彼女』とか明確な代名詞を使うことは失礼にあたる。だってアランはいつだって理解不能な存在でありたいと願っているからだ。

 だからユータはアランに対する時、どれほど彼の意図が透けていてもまずはわからない感じを装うことにしている。

 接する相手によって対応を変えるのは人付き合いの基本なのだと、ユータは学んでいるのだ。そう、知力1000000だからね。



「ああ、すまない。だが、うまく言えないな……こうして焚き火を囲んでいるだろう? 私たちは、今、四人だ。しかし――五人いたような気がするんだ」



 物憂げな顔(無表情)で語るのは、おっぱいに特徴が持てる黒髪の人だ。

 ほんとは三年生なのにユータと同じ一年生してる。

 みんなブレザーを着ているのに一人だけ道着を着ていたり、突然刃物を振り回したり、ちょっと独占欲が強かったりするからだろう。友達がいなくて三年生をやめて一年生になったのだ。

 その行動がかつては理解できなかったユータだが、今ならよくわかる。友達のいない学生生活はつらくて寂しいし、この学園は別に多少留年とかしたってなんにも問題はないので、卒業したくなくてまたこっそり一年生に戻る三年生もそこそこいるっぽい。



「五人もいないわ! わたしたちはずっと三人よ!」

「いや、四人だろう。私と、ゆうたくんと、アランと、君で、四人だ」

「わたしの目には三人しか映っていないわ」

「ははは。ナナは相変わらずだなあ。自分を数え忘れているぞ」

「でもおかしいと思わない? なんで目に映っているのが三人なのに、四人って数えるの? 自分はここにいるって、自分ならわかるじゃない! だったらわざわざ自分のことまで数える必要はないはずよ!」

「なるほど。そういう考え方はしたことがなかった。さすが、ナナだな」

「まあね。わたしは一番だから」

「しかしナナが自分を数えないと、ナナは一番ではなくてゼロ番になってしまうぞ。ここにいるんだから、いるんだ。目に映ってなくてもナナはたしかにいるんだから、ナナも数に入れるべきだと私は思う」

「またわけのわからないことを!」

「うむ、そうか……ちょっと難しい言い回しをしてしまったかな。昔Sクラスだったこともあるし、その時のクセがまだ抜けていないのかもしれない」



 昔。

 たしかに昔だ。でも、それがどのぐらい昔だったかは、みんな思い出せない。

 だって『日』っていうのは一年に365もあるのだ。いちいち数えてたら頭を使うし、そんなことに思考を割くなら、もっと他に考えるべきことが人生にはたくさんあるし、人生の中の青春と呼ばれるべき時期にはさらにたくさんある。

 人生の一部である青春が人生よりいっぱい考えることがあるというのは哲学なので、答えはみんなにゆだねるべきだろう。人には想像力も思考力もあるのだ。一人一人答えが違ったっていい。人はそういうものだ。


 だからユータは普段、黙ってぼんやりしているだけだ。

 人には人の考え方があって、それには『正解』なんかない。


 ところがユータはいつでも正解を求めすぎてきたように思っている。最近だけどね。

 疑問があるとすぐ口にしてしまうし、違和感を覚えたら解消しようとしてしまう。

 でもそういうのはいいんだ――そう受け入れたら、だいぶ人とうまくやれるようになってきたように思う。


 そういった経験があるから、今まで言わなかったけれど――

 いい機会だし、言うべきだろう。



「ミカヅキさんの言っていることは間違いないと思います。たしかに僕らは五人いました。ナナの基準だと、四人いましたよ」

「おお、ゆうたくんはやっぱり、私の味方なのだな。いいな、味方がいるって。でもな、敵もいいものだ。一番つらいのは敵も味方もいないこと……そんな人生は寂しかったのだ」

「わかります」

「ゆうたくんは、私の話をいつでも理解してくれる。私の理解者だな。私がなにをしても理解してくれるのだろう?」

「いえ、それはわかりませんけど……話を戻してもいいですか? それとも、もう興味ない?」



 この『興味ない?』は、ユータの必殺技となっていた。

 必殺技――それは『相手を殺す技』という意味なのだけれど、ここで言う必殺技の意味は違う。切り札とか奥義とか真髄とかそんな感じの意味で、『大事なアクティブスキル』ぐらいの意味合いだ。誰も殺さない。


 ユータはまれによくしゃべりすぎて相手を置いてけぼりにしてしまう。

 そんな時に『興味ない?』と聞けば、興味があったら興味あるって言ってもらえるし、興味がなければ「うん」ってうなずいてもらえるから話をやめたらいい。

 話をやめるのはちょっとモヤモヤが残るけれど、でもそのモヤモヤは寝たら忘れるやつなので、寝るとモヤモヤがなくなって明日みんなで仲良くできる。



「いや、話を逸らしてすまなかった。私は興味があるぞ」

「じゃあ続けますけど……僕らは入学当時、五人でした。あるいは、四人でした」

「どちらだ」

「ミカヅキさんに話してるから、五人っていうことにします。五人でした。でも、一人いないんです」

「やっぱりいなくなっていたのか。いつからだ? 今朝か? それとも昨日?」

「もう数ヶ月になります」

「…………天文学的単位だな。そんな昔にいた人のことを、君は覚えているのか……昨日の夕食になにを食べたかだって怪しいのが、人類だというのに」

「はい」

「むう……君、実はものすごく頭がいいのではないか?」



 ミカヅキが神妙な顔(無表情)でユータをじろじろ見る。

 しかしユータは知力1000000であることを隠しているので、「いえ」と首を横に振った。今は30だか40だかまあそのあたりのフィーリングで上下するアレになっているのだ。



「話を続けても? 興味ない?」

「興味はあるぞ」

「実はもう一人、『メイ』って子がいたんです。でも、ここ数ヶ月、姿を見せてません」

「その子はどうしたのだ?」

「さあ?」



 これがほんとにわからないので、「さあ」と言うしかない。

 ある日メイがいない朝があって、そこから今までメイがいない。

 普通の人なら、そんな子が存在したことさえ忘れてしまうぐらいの長い時間、メイは一切戻っていない――でも、ユータは知力1000000あるので、覚えていた。

 今まで1000000の知力をすごいと思ったことなどなかったユータだけれど、一度仲良くなった子のことをはっきり思い出せる記憶力にはさすがに感謝した。



「真っ白い、無口な子でしたけど、ある日消えて、もうしばらく姿を見せていません」

「探したのか?」

「少しだけ。でも、見当たらなかったのであきらめました」

「そんな……なぜだ。私がもしみんなの前から消えた時、探すのをあきらめられたらすごく悲しいぞ。むしろ探されたくて家出する可能性さえあるぐらいなのに」

「ミカヅキさんはそうだと思いますけど、メイはなにを考えているかわからないんです。無口だし、いつもぴったりくっついてくるだけで、行きたい場所とか、やりたいこととかもなさそうだし……」

「そんな子だったのか」

「はい。だからこれだけ見つからないなら、探されたくないのかなって思って。突然消えたことは疑問ですし、行動には違和感もありますけど、でも、人は自由なものでしょう? 人の正しさに他者がけちをつけることはできないんです。行方不明になりたいという意思がそこにはあったかもしれない……僕はそう思います」



 ユータは語る。

 反応したのはピンク髪の女装少年だった。



「わかるぜ! 所在不明、いいよな。理解不能だ。賢そうだ」

「うん。アランのこともあって、そういうのかなって思ったんだよ」

「でもオレ以外が理解不能なのはいただけないぜ。やっぱり探したほうがいいんじゃねーか? 心配とかじゃなくてさ。ほら、なんつーの? 具体的には言いたくないんだが」

「わかるよ」

「いや、わからねえよ。オレは理解不能だから」

「じゃあ、わからないよ」

「そうだな。でも探したほうがいいと思うぜ」



 たしかにそう言われれば、気になる。

 それに、メイ自身は探されたくない自由を行使しているかもしれないが、同様に、こちらにも探したい自由を行使する権利はあるはずなのだ。

 こうなればもう自由vs自由だ。どちらの自由が強いかで雌雄が決する。



「じゃあ、探してみようか」



 ユータは決意した。

 実は気になっていたのだ。


 でも自由意思を尊重し、相手のことを深く考えず、相手の発言や行動に対する違和感に深く突っこまない――それが人付き合いのコツだと学んでからは、あまり他者の行動にとやかく言うのはどうかなという気持ちになっていたのだった。

 ユータはコミュニケーション能力と引き替えになにかを失っていたのかもしれない。

 そんな感じだ。



「誰か探すのね! じゃあ、わたしもやるわ! だってきっとその子もわたしの子分に違いないもの。一番のわたしにとってはすべて子分なのよ。そして、親分は子分の心配をするものだわ」

「ありがとう。じゃあ、みんなで探そう」

「うん。じゃ、わたし、あっち探すわ」

「待って。そのやりかたじゃたぶん見つからないよ」

「どうして?」

「メイがいなくなったのは数ヶ月前なんだ。そのへんではぐれた感じじゃなくて、もっとやばい感じの行方不明だよ。ナナのやりかただと迷子しか見つからないよ」

「ユー、知らないの? 人はみな迷子なのよ」

「どういう意味?」

「知らないわ。でも格好いい言い回しじゃない?」

「そうだね」

「人がみんな迷子ということは、人はみんなそのへんで目的地とか一緒にいた仲間とかを見失ってウロウロしてるの。つまりそのへんを探して見つからない人なんかいないわ」

「けっこういるよ。僕の両親とかはそのへんにいないって確実に言えるよ」

「どうして確実に言えるのよ! 確実だなんて頭がおかしいわ! いるかもしれないじゃない! 子供が心配でいきなり学園に来てるかもしれないでしょ!」

「まあ、可能性はゼロじゃないけど……」

「ほら! だから大丈夫よ。簡単に見つかるわ。わたし、迷子を探すの得意なの。迷子を見つける時にはわたしも迷子だから、わたしを探す誰かが必要だけど……でも、見つけられるのも得意なのよ。一番だわ」

「まあナナにはあとで活躍してもらうよ。一番だし、最後に活躍するほうがいいだろう?」

「それもそうね」

「最初に活躍する人はナナじゃなくて、もう決めてあるんだ」



 ユータが思い描いているのは、ヒゲの長いおじいさんだった。

 そう、学園のことならなんでも知ることができる立場の(知っているわけではない)学園長なのである。

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