25話 地獄のフィールドワーク・ほんとに終了
「…………今のは、なんだったんだろう?」
ユータは首をかしげた。
拾おうとしたキラキラしたアレは、いつの間にか消えている。
でも、誰かが自分より先にとったとは思えなかった。
だって、ミカヅキもアランも後ろのほうにいるし、メイも、すぐ後ろにぴったりくっついて離れてる感じじゃない。
知力1000000もあるから、この状況を見て、推理することも、できるのだ。
賢い。
でも、知力1000000あっても、今の不思議なことは、なんなのか、よくわからなかった。
理解不能だ。
「……まあいいや」
ユータは、自分にもわからないことがあるって、わかっていたから、考えてもよくわからないことを、考えやめることだって、できるのだ。
これがなかなか、できることじゃない。
わからないことを、わからないって、わかるのは、知力1000000もあってようやくってぐらい、とっても難しいことなのだった。
「ゆうたくん、どうした? 足でもつったか? おぶろうか?」
ミカヅキが、心配そうに聞いてくる。
ユータは「いえ」と首を横に振った。
ミカヅキにおぶってもらったら、間違っておっぱいを触れるかもしれないなんていうことは、知力1000000もあるから、もちろんわかっていたけれど……
ユータは紳士的な少年だったから、避けたのだ。
理解不能な行動をしてしまったかもしれない。
「……なんでもないです。それよりも、早く帰りましょう」
「そうか。けれど、なにかあったら、すぐに言うのだぞ。私は頼られるのが好きだからな。無理をすることはない」
「そうだぜ。お前がそういう理解不能な態度をとるのはオレが許さねーからな。病気だったり、ケガだったりは、すぐ言えよ。お前らの症状なんか理解可能だからな。オレがすぐ元に戻してやるぜ」
「なんでもないよ。二人とも、ありがとう」
ほほえんでお礼を言う。
お礼を言うのにほほえむ必要はないかもしれなかったけれど、ユータが今ほほえんだのはそういうアレじゃなくって、なんか、ほほえみたかったから、ほほえんだだけなのだ。
頭がいいと、行動とか表情とかそういうのがいちいち考えてやってると思われがちだけれど、ユータはそうでもない。心とか、大事にしてるのだ。
だから、計算づくじゃなくって、ユータはメイを見た。
メイはなんにもわかってないみたいな、ぼんやりした顔で、ユータを見返している。
「『さっきのは、君の記憶なの?』」
ユータは思わず口にした。
これがほんとに、自分でもなんで出てきたか、まったくわからない問いかけだった。ほんと、意味わかんない。まじ、理解不能。
台本でも読まされたみたいに。
自分ではない自分が勝手にしゃべったみたいな、そんな感じ。
「『なんの話?』」
ふだん全然しゃべらないメイも、台本でも読まされてるみたいな不自然な自然さでしゃべった。
不自然なんだからもちろん自然じゃないのだけれど、ここで言う自然はしゃべらないふだんのメイのことだから、しゃべらないメイが流ちょうにしゃべったら、それは不自然なんだろうという話だ。
自然とか不自然とかは、ふだんの様子から決める感じのアレだから、自然か不自然かは自然とか不自然とか思う人によってことなる。
ユータからは自然にしゃべるメイが不自然に思えたということなのだけれど、ほかの人はそういう感じじゃないかもしれないという、客観的な見地からどう認識されるかなというところも、知力1000000あるユータは、もちろんわかっている。
「……なんでもないよ」
自分の意思っぽくない言葉だったけれど、自分の口から出たので、ユータは責任をとって、前言を撤回した。
ここで『今のは僕がしゃべりたくてしゃべったわけじゃないんだ。なんとなくポロッとこぼれただけなんだよ』とか言ったって、意味わかんない人って思われるだけだろうし、そういう理解不能なことを言ってしまうのは、アランに申し訳ない気がしたのだ。
「早く帰りましょう。……早く、帰らないと」
なんかこわかったから、早いところ宿舎に戻りたかった。
ミカヅキは「そうだな」と言った。
「ゆうたくんがなんか元気なくて心配だし、ナナのお見舞いにも行きたい。さっきそこでいいものを拾ったんだ。きっと、ナナも元気が出ると思うし、ナナは友達だし、フレンド登録もまだだから、早くナナに会いに行こう」
「そうですね。……すいません、ぼんやりして」
「おぶろうか」
「……………………いえ」
今の『いえ』には、とても強い葛藤があったのだ。
ユータにしかわからないけれど。
「……歩けます。帰りましょう」
テレポーターを目指して歩き始める。
それからの道にはモンスターも普通に出たので、生態系は壊れてなかったみたいで、ほんとよかったなあ。