24話 追憶・1
戦争があった。
散発的な戦いは数知れず。
計画的な戦闘さえも、もはやナンバリングすることに飽きがくるほどの数、繰り返されていた。
市街地は炎に包まれ、高い建物は崩れ落ち、内部の鉄骨をむき出しにしている。
戦火で黒くけぶった青空には、いくつもの魔導艇が――二枚の翼と魔力を動力にして空を自在に舞う戦闘機が駆け回っている。
まぎれもない戦争だった。
戦いは、人と魔物とのあいだでおこなわれている。
だが、妙な話だ。
魔物は本来、ナワバリを離れぬもの。
また、群れを形成することはあっても、異なる種の魔物同士で連携めいたことはしないもの。
だというのに、その魔物たちの動きには、明らかな連携、連合が見受けられた。
――わたしは。
わたしは、戦火の中を駆けている。
救える命があるはずだと己に言い聞かせながら、倒れ伏す人々の横を通り過ぎる。
自分の力を活かす場がこの先にあるのだと確信して、上空でおこなわれている戦闘から目を背けていく。
舗装された道はそこここが崩れ落ちていた。
地面から吹き上がる臭気を帯びたガスを吸わないよう、大きな袖で口と鼻を覆う。
周囲にはたくさんの市民がいた。
本来戦いに巻きこまれてはならぬはずの命。
……散っていく。
『前方500メートル先、巨大敵性反応を確認しました』
使い魔の無機質な声に、使命を思い出す。
わたしは特別製の人類だ。
自分にしかできないことがあって、自分には求められていないことがある。
自分にしかできないことは、強敵を屠ること。
自分に求められていないことは、倒れ伏す市民たちを助けること。
わたしの役割は空を舞う魔導艇と同じだった。
わたしを操る誰かがいて、その誰かの操縦通りに力を奮うだけ。
……でも。
心がないわけじゃ、ないんだよ。
『巨大敵性反応、急速接近中。――警告! 敵性反応、空中へ飛び上がりました』
「……空!?」
空には、たくさんの魔導艇があった。
パイロットである魔導士も、乗っている。
……ああ、散っていく。
わたしは視線を上げたとほとんど同時に、魔導艇を蹴散らしながら、こちらに迫ってくる大きな大きな魔物の姿を捉えた。
両腕の代わりに翼を生やした、黒い生き物。
血走った目でこちらを見上げる、首の長い、二足歩行の巨大なソレは――
『レイドボス ブラックドラグーンを確認しました。戦闘状態に移行します』
使い魔の声がソレの名を告げる。
わたしの中で、そいつのデータが勝手に呼び起こされていく。
――こうしてわたしの自我は消える。
戦闘状態に移行。
解除条件:敵性存在の殲滅。




