23話 地獄のフィールドワーク・終了
「ふう、木材集めもなかなか大変じゃねーか。だが、もはや理解可能だぜ」
終わった。
ユータたちは、木がいっぱいあるところにいた。
途中で猿みたいなモンスターとも戦ったけど、ミカヅキがモンスターを見かけるとものすごい速さで倒してしまうので、ユータはほんとにモンスターを見ただけで、倒したり、触れ合ったり、そういう感じじゃ、なかった。
ちょっと残念。
でも、生徒たちは誰も戦いを習ってないから、モンスターとか、いきなり出されても、困る。
何人か、青白い光に包まれて、脱落していく人も、いた。
かわいそう。
でも、防衛戦の時みたいに、みんなケガとかなくって、転送装置に戻されただけだと思う。
説明はなかったから、ひょっとしたら違うのかもしれないけど、ユータはなにせ知力が1000000もあるので、前に防衛戦で起こったことと、さっきそのへんでモンスターにいっぱい攻撃された生徒の身に起こったことを比べて、おんなじだって、判断できるのだ。
昔に起こったことと、今起こったことを比べて考えられるなんて、異能だ。
木材はフィールドにある木の根元に光ってる場所があって、そこを蹴ると出てくる。
出てきた木材は使い魔に放り込むと、回収できる。
途中、回収する数の『5』は、パーティ全員で『5』なのか、それとも一人一人で『5』なのか迷った。
説明はなかった。
だからユータたちは、一人『5』で、パーティ全員だと、『5』を四人分やったことになる。
ものすごい数だ。
両手の指じゃあ、数え切れない。
「むう……モンスターが弱くてつまらない……私の活躍を見せる機会があんまりなかった」
ミカヅキは不満そうだったけれど、無事に終わったのはいいことなので、みんなで仲良くテレポーターのある場所まで帰る。
いい景色だ。
木とか、草とか、いっぱいある。
空は青くて、雲が、あんまり、ない。
上ばっかり見てるとまぶしいから、雲の数までは数え切れなかった。だから、実際のところ、空にどのぐらい雲があるのかはわからない。たまたま見た場所に少なかっただけかもしれないし、見えないところに、いっぱいあった可能性も、ユータは知力1000000だから、もちろん、考慮している。
でも、いい天気だった。
緑とか茶色とかがいっぱいの、そのへんに盛り上がった高台とかがある、あんまり平坦じゃない道を進んでいく。
帰り道は使い魔に言えば案内してくれるんだけれど、行きと違って、モンスターの姿がないから、別な道みたいだなあと、ユータは思った。
モンスターは、みんな、ミカヅキに倒されてしまったのだ。
生態系が乱れる。
「ところでアラン、ミカヅキさんの名前は覚えたの?」
フィールドワークの目標は、木材集めじゃない。
名前を覚えることだ。
『じゃあ木材は集めなくてもよかったんじゃないか? そもそも、学園の施設は妖精とかいう存在が勝手に直すとかだし、修理のための材料集めは本当に必要だったのか?』
そんなことをユータはずっとそう思っていたけれど、ここにいるみんなに聞いても答えが出ないことは、学習していたから、口には出していない。
だから、名前を覚えるのは、すごい大事なんだ。
でも、ユータは知っている。
Fクラスのみんなは、あまり長い名前を覚えられない。
ミカヅキの名前は、ナナの倍ぐらいあるから、覚えるのが大変なのだ。
「ああ、ばっちり覚えたぜ。オレだってそこそこ長い名前だからな。まあ、オレより長い名前にはちょっとビビッたが、もはや理解完了だぜ」
「じゃあ、言ってみてよ」
「ミカヅ……」
「…………」
「ミカヅチ」
「おしい」
「いや、覚えてるんだ。でも、具体的な名前を言うのは、避けたかった」
「なんで?」
「理解不能だろ?」
「うん」
「だからだ」
それぞれに事情があるのだ。
うん。
仲良くみんなで歩いていたら、突然、空が暗くなった。
これが、ほんと、いきなり暗くなって、すごく不自然。
思わず空を見上げるぐらい、すっごい、いきなりだった。
ユータたちはみんなで上を見る。
そしたら、なんか、いた。
なんだろう、よくわかんない。
でっかい、鳥?
青白くて、でっかい、鳥だ。
鳥が、バサバサ飛びながら、ユータたちの目の前に降りてくる。
ずしん、って音がした。
すごく重そう。
そのわりに翼が小さいようにユータからは見えた。あの翼の大きさで、そばに降りただけで『ずしん』と地面が揺れるような重さの生き物が飛べるのか、ユータの1000000ある知力をもってしても、わからない。
飛び上がるあの力が足りなさそう。
「うむ? ワイバーンだな? このあたりには出ないはずなのだが」
ミカヅキが首をかしげながら抜刀していた。
そのまま、不思議そうにつぶやきながら、ワイバーンに斬りかかる。
「まさか、神さまが、あんまり活躍できなかった私に気遣って、強めのモンスターを出してくれたのだろうか? ……うーん。でも、ワイバーンは、最初は飛ぶし大きいし怖いけど、慣れるとそうでもない雑魚な感じの敵だからなあ。よくわからない。神さまも、出してくれるなら、もっと強くて、私がかっこうよく戦える相手がよかったんだけど……」
首をかしげながら、ワイバーンを倒した。
ワイバーンはだんだん薄れて、消えていく。
「なんだったんだろう?」
最後までよくわかんない顔(無表情)で、ミカヅキはワイバーンを倒しきった。
アランが震えている。
「り、理解不能だぜ……なんでそんな、ご飯の途中で漬け物をつまむみたいな気軽さで、あんなデカイのを倒せるんだ……? 一つの命を消し去った自覚がないんじゃねーの?」
「しかしモンスターだ。いっぱい殺してるから、君たちも、いずれ慣れる」
「なんでアンタは先輩みたいな態度なんだ? オレたちと同じ一年生なんじゃねえのか?」
「私は三年Sクラスだったんだけど、友達がいるから、一年Fクラスからやり直しているのだ」
「なんだと……」
その情報はさっきもアランにあたえたはずなのだけれど、アランはさっきと同じようにおどろいていた。
でも、アランだから、本当はわかっていたのに、おどろいた感じを出したのかもしれない。
わかっている情報を、初めて聞いたみたいに聞くのは、理解不能だ。
アランの行動には、『理解不能』という軸が一本、しっかり通っている。
「む? ワイバーンがなにか落としているぞ」
ミカヅキが言ったので、今まで空を見ていたユータも、ワイバーンのいたあたりを見た。
そこにはキラキラしたカードみたいなものが落ちていた。
死ぬ間際に産んだ?
「ワイバーンがカードを落とすのは見たことないな。レアアイテムかもしれない。私はレアなのたくさん持ってるし、誰か、もらっていいよ。武器じゃないし」
「レアか。普通ならほしがるところだな。だが、オレは理解不能。誰もがほしがるレアをほしがらないなんて、とても理解できないだろうな」
「……」
みんないらない感じだったので、ユータがもらうことにした。
ユータが進めばメイもくっついてくる。
ユータがワイバーンのいた位置にしゃがみこむと、それは、キラキラしたカードみたいに見えた。
遠くで見た時と印象が全然変わらないけど、遠くって言っても、走って三秒もない距離だから、遠くだった時だって、そんなには遠くじゃなかったのだ。
手を伸ばす。
すると――
――あまりにも唐突に。
ユータの脳内に、映像が流れ始めた。