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『知力1000000』のマジヤベー超超大天才がパネェ大活躍の神的最強無双英雄日常伝説  作者: 稲荷竜
三章 木材回収! 名前を覚えるまで帰ることのできない地獄のフィールドワーク
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21話 一年Fクラス集合

「はい、みなさん。おしゃべりをやめて、先生の話を聞いてください。……ふう、やれやれね。『データ』の通りだわ。おしゃべりをやめてと言われて、おしゃべりをやめる新入生はいない……仕方ないわね」



 担任のマルギット先生の手から放たれた風の弾丸が、Fクラス宿舎の屋根を吹き飛ばした。

 いい天気だ。

 空は真っ青で、とっても、明るい。


 シラギ・ユータは、たいそう座りをしたまま、空を見上げていた。

 あんまり賢そうな見上げかたじゃない。


 ユータの知力は1000000もある。

 そんだけあったら、空を見上げる姿にだって、ものすごい賢さがにじみそうなものだけれど、ユータが空を見上げる姿には、あんまり、賢いっぽい感じがなかった。


 なんか、薄い。

 ユータはあんまり、特徴がない少年なのだ。

 ひと目見て、目を閉じたら、もう忘れそうな顔をしている。


 そんな顔、なかなかない。

 そんな顔はなかなかないけど、世間の人はみんな記憶力がないので、だいたい、人の顔を、ひと目で覚えようというほうが、けっこう、無理くさい。


 ユータは知力1000000だ。

 でも、世間のみんなは20ぐらいだ。


 この学園には知力エリートが集まってるけれど、それでも学園の平均で40~60ぐらい。

 ユータはなんかアレで知力1000000はヤベーから、そういう感じで配慮されて、今、知力30っていうことで、学園最低のFクラスにいる。


 Fクラスは今、すっごい、にぎやかだ。

 入学式があった。


 入学式があったということは、クラスのみんなが集まったということだ。

 クラスのみんなが集まれば、人が多い。

 人は、うるさい。

 だから、人がいっぱいいると、にぎやかになるのだ。――『にぎやか』っていうのはもちろん、『うるさい』と同じ意味だけれど、ユータはうるさいのが嫌いじゃないので、うるさいって思わないで、にぎやかって思うほうだ。


 けっこう嬉しい。

 いい天気だし。


 でも、にぎやかじゃなくなった。

 担任のマルギットが、宿舎の屋根を吹き飛ばしたからだ。


 あ、ここ、Fクラス宿舎です。

 Fクラスはエリートが集う学園では、もっとも頭の悪いクラスだ。

 頭が悪いと、扱いが悪い。

 だから、教室とかも、ない。

 宿舎はオンボロで、建物の中には仕切りみたいなのも全然ないのだ。

 今は屋根もない。

 担任と化したマルギットがいきなり吹き飛ばしたからだ。


 屋根を吹き飛ばすと、みんな静かになるのだ。

 この一見まったく意味のわからない、因果関係の不明なできごとだけれど、ユータは知力1000000もあるし、マルギットとはちょっとした知り合いだったから、『屋根を吹き飛ばすとみんな静かになる』の意味がわかった。


 普通、屋根は吹き飛ばすものじゃない。

 たぶん、あんまりこうやってまじめに屋根のことを考えたことがある人はあんまりいないっぽいんだけど、屋根って、吹き飛ばさないのだ。


 もしも、『屋根って吹き飛ばすものですよね?』と聞いたら、どう返事されるだろう?

『屋根? ああ、あの、家の頭にある? 吹き飛ばす? どうして?』って、不思議そうな顔をされるに違いない。


 これは、質問をされたほうに知力がないからじゃなくて、知力があっても、屋根は吹き飛ばすものじゃないというのがわかる。

 そう、これは知力とかじゃなくて、常識なのだ。


 ところで担任になったマルギットは大人である。

 メガネをかけて、白衣を着た、とても賢そうで、おっぱいの大きな、女の人だ。


 メガネと白衣という組み合わせは、そんじょそこらの人が身につけておけるものじゃない。

 だって、頭がいいと一目でわかるから。


 頭がいいと思われるような格好をしておいて、頭が悪かったら、とても恥ずかしい。

 だから、本当の知力を持っていないと、なかなかできない格好だ。


 そして、マルギットは、本当の知力を持っている。

 ユータも彼女と何度か会話をしたので、わかるのだ。

 だって『データ』とか、ものすっごい知ってる。

 データなんて、日常的に口にする機会さえない言葉だ。

 データという言葉を発するには、覚悟がいる。そんな頭のよさそうな言葉を使っておいて、発言が頭悪そうだったら、やっぱりこれも、恥ずかしいからだ。


 そんな頭のいい人がいきなり屋根を吹き飛ばすなんて、そんな行動、とるはずない。

 頭のいい人は、常識だって、知っている確率が高いのだ。


 では、マルギットは、なぜ屋根を吹き飛ばしたのか?

 知力1000000のユータには、その行動の理由がよくわかった。

 クラスのみんなを静かにさせるために、屋根を吹き飛ばしたのだ。


 マルギットが宿舎内の前の方に立っても、みんなおしゃべりをやめないから、静かにさせたかった。

 そこで、マルギットは静かにさせるためにどんな方法が有用か、『データ』を思い出したに違いない。

 その結果、『屋根を吹き飛ばす』という行動に出たのだ。


 さすが、白衣とメガネを身にまとうだけあって、頭がいい。

 普通、常識ある大人が、効果があるとわかっていたって、なかなか、屋根を吹き飛ばせるものじゃない。

 屋根は吹き飛ばすものじゃないという、固定観念があるからだ。


 固定観念を打ち破った行動で、実際に、効果が出た。

 ほんとすごい。



「はい、みなさん、聞いてください。私は、君たちFクラスの担任になった、マルギット先生です。あなたたちとこれから、三年ぐらい、一緒にお勉強していくことになります」



 みんな、あっけにとられてて、反応できない。

 屋根を吹き飛ばしただけで、さっきまでうるさいクソガキしかいなかった教室が、みんな、行儀のいい子になってる。

 屋根って、すごい。



「自己紹介もまだだし、いきなり屋根が飛ぶし、みなさん混乱しているところだと思いますが、これだけは覚えておいてくださいね。――Fクラスの宿舎の屋根は、強い風とかでけっこう簡単に飛びます」



 みんな、空を見上げて、それからまた、マルギットのほうへ視線をさげた。

 屋根は飛ぶ――屋根とはなんだったか、飛ぶものだったか、そんなことをみんな考えたけど、答えがわからなかったのかもしれない。



「さて、では『データ』にある手順に従って、みなさんに、転校生を紹介します。……お二人とも、入ってきてください」



 マルギットが呼びかけたら、宿舎の外から誰かが入って来た。

 でも、屋根が吹き飛んだ時に比べたら『宿舎の外から誰かが入って来た』なんて、あんまりびっくりじゃない。


 ユータも正直、あんまり転校生に興味はなかった。

 そんなことよりも、『入学式の日に転校してくるんなら、わざわざ転校生扱いしなくってもいいんじゃないかな』とか考えていた。

 もっとも、ユータの知力は1000000あるので、『きっとなにか事情があったんだろうな』とすぐに察することができた。

 おかげで、転校生より吹き飛んだ屋根と青空に興味があったぐらいなのだけれど……


 転校生の姿を見て、ユータはハッとした。

 知ってる人だった。


 いや、知ってる『人』とかいうと、その人間性とか、性格とかを熟知して、さも深くて長い付き合いがあったみたいに思われてしまうかもしれない。

 だから、正しくはこうだ。

 知ってるおっぱいだった。


 片方は、すっごい大きくて、上のほうに、こわいぐらい美人な顔がある。

 ミカヅキ先輩だ。


 もう一人は、まあまあのものの上に、かわいいけど、ぼんやりした顔がある。

 こないだ拾ったメイだ。


 ミカヅキは目も髪も黒い。

 メイは目は赤くて、髪は白い。

 二人並んでるとリバーシの駒みたいだ。


 リバーシっていうのは、白と黒の駒でおこなう、高度な知的遊戯だ。

 神さまがやっていた遊びらしく、ほかにも、似たようなボードゲームはあったのだけれど、駒の動かしかたとか意味わからないから、リバーシ以外すたれた。


 駒のかたちが同じなのに違う動きかたをするとか、考えた人の不親切さがにじみでている『ショウギ』とかいうボードゲームがあったり、あと駒がかっこいいからアクセサリーにするためにみんな持ち出してしまってゲームどころじゃなくなった『チェス』とかが過去にはあったようだ。


 もう一人、黒か白がいたら、たぶん、メイかミカヅキも、黒か白になる。

 それか逆立ちする。


 なんか色々考えたけど――知力が1000000あると知能に余裕があって、色んなことを考えてしまうのだ――メイについては、一緒の教室で勉強することになっていたので、教室に来たのは、まあなんか納得。

 わざわざ転校生扱いの意味はやっぱりわからないけれど、そこは大人の事情があるのだろう。ユータは知力1000000なので、斟酌できるし、『斟酌』という言葉を噛まずに言える。


 でもミカヅキのほうが、ほんと、よくわからない。

 あの人今日から三年生で、おまけにSクラスに通ってるSランク生徒のはずなのに、なんで転校生みたいな感じで一年生Fクラスに来たのか、まったくわからない。


 もしかして、本当はミカヅキの着ている制服を着るはずだった本物の新入生がいて、ミカヅキがその子を倒して制服をもらったのかもしれない。カードゲームとかで勝ったら相手のカードもらえるみたいなアレなら、もらえる可能性はある。

 しかし、ユータはそう考えたうえで、首をかしげる。


 ミカヅキのおっぱいは相当なものだ。

 マルギットもかなりのものなのだけれど、大きさ、形状、すべてにおいて、ミカヅキのほうがものすっごい。


 そのミカヅキが着て、乳袋がきちんとしている制服。

 もとの持ち主も、相当なものをお持ちなのではないか?



「ゆうたくん! 元気だったか!?」



 ミカヅキがぶんぶん手を振りながらあいさつしてくる(表情は一切変わらない)。

 ユータはたいそう座りのまま会釈した。



「ミカヅキさん、どうしたんですか? その制服は誰のものですか? もとの持ち主をどうしたんですか?」

「もとの持ち主? つまりこの制服を売ってくれた人か?」

「買ったんですか?」

「それは、制服なんだから、買うだろう。……ああ、そうか。思い出したぞ。たしか、学年のはじめには支給されるんだったな……しまった。普段から道着ですごしているせいで、制服をもらえることを忘れて、物販に買いに行ってしまった……」

「物販? 正規ルートで手に入れた制服なんですか?」

「制服を手に入れるのに、正規以外のルートがあるのか?」

「でも、ミカヅキさんは三年Sクラスじゃないですか。一年Fクラスの制服を持っているなんて、不自然です」

「ああ、なるほど。制服を見ただけでそこまで頭がまわるなんて、君はあいかわらず、頭よさそうだな。……しかしゆうたくん、私が三年Sクラスだったのは過去のことだ。私は、一回学園を辞めたんだ」

「……なぜ?」

「いったん辞めて、また入学しなおしたんだ。そして、一年Fクラスに入れてほしいと、学園長にお願いした」

「…………なぜ?」

「だって……わ、私たち、友達だろう?」

「まあ……」

「三年生になったら、友達がいない。でも、一年Fクラスなら、友達がいるんだ。なら、一年Fクラスになれば、毎日一緒にいられる。……と、説明してはみたものの、Fクラスの君には少し難しかっただろうか……?」

「そうですね、ちょっとよくわからなかったです」



 学園最高学年の最上級クラスをやめて、最低学年の最低級クラスからやりなおす。

 どうだろう、失うもののわりに、得る者が少ない気がしないでもなかったが――


 事情があるのだろう。

 人が十人いれば、百通りの事情がある。

 そういうことだ。



「とにかくこれで、私も君とナナのクラスメイトということだ。ナナはどこだ? もふもふしたいのだが」

「ナナはこのあいだの防衛戦でモンスターにやられたのがトラウマになって、医務室のポッドに入ったのですが、医務室のポッドもトラウマだったので、今は医務室のベッドで寝こんでいる最中です」

「複雑な事情があるのだな」

「はい」

「ともあれ、これでもう逃げられない。今は使い魔もある。フレンド登録しよう」

「いいですよ」



 ゆうたが立ち上がり、ズボンのポケットから(しまっておかないと、顔のまわりをウロチョロして邪魔なのだ)先ほどもらったばかりの使い魔を取り出そうとする。

 けれど、パンパン、と誰かが手を叩いた。



「二人とも、仲がいいのはいいですけれど、フレンド登録の説明はまだしていません。ミカヅキさんも、シラギくんも、自己紹介がまだでしょう。手順に従って、自己紹介から始めてください」



 マルギットだった。

 彼女は教室中を見回して――



「みなさんも、自己紹介をこれよりおこないたいと思います。でも、みんな、クラスメイトの名前を一気に言われても、覚えきれないと思いますので、オリエンテーションをしながら、今日は四人だけでも新しく名前を覚えて帰ってもらおうと思います」



 オリエンテーション――

 あまり耳慣れない難しい言葉を使われて、クラス中がざわざわする。



「そういうわけで、さっそくですが、転校生と新入生のみなさんで、これからある場所に行って木材確保のクエストをおこなってもらいます」

「先生、木材はなにに使うのだ?」



 ミカヅキが問いかけた。

 マルギットは真っ直ぐに斜め上を指さす。



「あれです」



 空しか見えない。

 だって、屋根は壊れているから。



「毎年みなさんを静かにさせるために屋根を犠牲にするので、一年Fクラスはオリエンテーションとして、それぞれ木材を『5』回収するんですよ。モンスターの出るエリアでフィールドワークになるので、五人パーティを組んで、それぞれのパーティで木材を回収し、同じパーティの人の名前だけでも覚えるのが、本日の目標です」



 木材の回収。

 みんな『モンスターの出るエリアでフィールドワーク』の意味はちょっとよくわからなかったが、木材の回収なら簡単だという顔をしていた。

 でも――



「名前を覚えるまで帰れませんからね」



 マルギットがつけくわえた言葉に、みんな、青ざめる。

 そう。

 木材の回収はなんとなくできそうでも……

 ひとの名前を覚える大変さは、みんな知っているのだ。

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