17話『モンスター襲来』!
なんか、すっごい光ってる魔法陣に乗ったら、声が聞こえた。
『難易度を選択してください』
「私はここで、普段、イージーを選択するのだが……今日は二人の後輩が見ててくれるので、無理をしてノーマルを一人攻略してみようかなって、思う」
「やめてください。イージーで行きましょう。イージーで!」
ユータは、知力が1000000もあるから、なんかやばそうだと思って、止めた。
ミカヅキは残念そうだったけど、どうしてもノーマルって感じじゃなかったから、無理はよくないって思ったのかもしれない。
ユータと、ミカヅキと、ナナを乗せた魔法陣が、超光る。
すごいまぶしいから、目とかぜんぜん開けてらんなくて、みんな、閉じた。
しばらくして、『お、まぶしくなくなったかな?』って感じになった。
だから目を開けたら、そこは、なんか知らない場所だった。
すっごい、砂煙。
あと、でっかい塔みたいなのが、左と、真ん中と、右に、一個ずつあった。
めっちゃ広い。
すごい遠くの方に、いっぱい影みたいなのが見えたけど、砂煙ものすごくて、影ってことしかわからない。
「ここが魔力エネルギープラントだ」
ミカヅキが言う。
彼女の手には、いつのまにか、大きな刀があった。
もう抜いてあるし、鞘とかもないので、危ない。
ナナはなんにも持ってない。
ユータも、武器とかはなかった。
「……そういえば、君たちはまだ使い魔がいなかったな」
「使い魔がいないと、どうなるんですか?」
「武器は、使い魔の中に入ってるんだ。私の持ってるこの刀も、使い魔の中から出したんだ」
「へえ、大きいですね」
「うん。使い魔は大きいのも入るし、いっぱい入るんだ」
ミカヅキの顔の横には、手のひらサイズの球体が浮いている。
この黒くて小さい球体に、ミカヅキの身長より長い刀が入るっていうのは、神秘的だ。
「なんでも、『データ化』してるらしい。詳しいことは、よくわからないが……」
「データならマルギット先生が強そうですね。今度聞いてみます」
「いや、調べておくから、私に聞いてくれ。頼るなら、私を頼るんだ」
「わかりました」
「まあ、とにかく、使い魔がいないから、君たちは武器がないんだ」
「そういえば、ないです」
「うん。だから君たちは、へたに戦おうとしないで、私の活躍を後ろで見ててくれ」
「わかりました」
「わからないわ!」
と、声をあげたのは、ナナだった。
強い風にマントとかスカートとか金髪とかをなびかせて、強そうに腕組みして、足を肩幅に広げて立っていて、強そうにしてるので、強そうだ。
でも、強くない。
「わたしは武器がなくっても戦うわよ! そう、言葉で!」
「ナナ……私の知る限り、言葉は、相手を倒せないぞ。言葉でできるのは、私の応援ぐらいだ。つまり、そういうことか?」
「どういうこと?」
「私の応援をしてくれるのか?」
「応援もするけど、でも、わたし、モンスターと話し合うのよ! モンスターとか、強そうだし、子分にできたら素敵でしょ?」
「でも、私はモンスターを倒すからな……君が話し合いの最中でも、容赦なく、倒すぞ。いちいち考えてたら、頭がこんがらがるんだ」
「いいわよ! じゃあ、わたしとミカで、勝負ね! どっちが多くのモンスターを手下にできるか!」
「なるほど。じゃあ、君が手下にするモンスターを全部斬れば、ひきわけだな」
「そういう感じね。負けないわ!」
「うむ」
二人の会話を聞いて、知力1000000のユータは「なるほど」とうなった。
そうだ、ナナの手下を全部倒したら、こっちが手下をつくれなくても、引き分けなのだ。
さすが三年Sクラスは、頭のできが、とても、やばい。『経験』を感じる。
仲良くしてると――
急に、音楽が流れ始めた。
どこから聞こえてくるのか、ぜんぜんわかんない。
でも、魔力プラント中にまんべんなく聞こえるような音量だ。
なんか不安になる、ドコドコドコドコって感じの、音楽だった。
「BGMが鳴ったから、そろそろ来るぞ」
「このBGMはモンスターが鳴らしてるんですか?」
「いや、知らない。でも、BGMが始まったら、モンスターが来るんだ。経験から、知ってる」
「なるほど」
「私はそろそろ行くけど、君たちは、好きにしてくれ。でも、前には出ない方がいい。間違って斬るから」
「はい。僕はナナを抑えます」
「うむ。ではな」
ミカヅキがすごい勢いで右側のプラント施設へ走っていった。
走ってるっていうか、もう、そういう段階じゃなく、速い。
ほんと速い。あっというまに見えなくなる。
砂煙の向こうで、ジャキンジャキンっていう音がすごくたくさんした。
悲鳴だかなんだかよくわからない声とかもして、それで、静かになった。
ものすごい速度でミカヅキが戻ってくる。
「どうだ二人とも、今、モンスターの第一ウェーブを倒してきたぞ」
「えっ、もうですか!?」
「そうだ。すごかっただろう。かっこよかっただろう。私を褒めていいんだぞ」
「すごいですけど、砂煙でよく見えませんでした。ナナなんて、始まったこともわからなくて、動く素振りさえ見せませんでしたよ」
「なんだと……」
ミカヅキはすごくショックって感じだ。
かっこいいって褒めてもらいたかったのに、全然見えなかったって言われたら、それはすごく寂しいし、ショックだろう。
「……うーむ。わかった。では、ゆうたくん、ナナ、もうちょっと前、中央のプラント施設の前あたりに来てくれ。……あ、第二ウェーブが始まっちゃう……わ、私は行くけど、中央来てくれたら、絶対、一回は私の活躍見えるから……! 見てて! 見てて!」
「わかりました」
「じゃあ、行くけど、中央だぞ! でも、あんまり前に出ちゃだめだからな!?」
「わかりました」
「では!」
ミカヅキが超速くどっか行った。
ユータは、隣でぽかんとしているナナに話しかける。
「ナナ、行こう。ミカヅキさんが中央プラントに来いって」
「まあ、もう? ミカったらずいぶんあわてんぼうなのね」
「もう始まってるんだよ」
「なにが?」
「『モンスター襲来』が」
「ええ、もう!? だって、わたし、まだモンスターの姿も見てないわ」
「ここからじゃよく見えないけど、遠くの方にはもういるみたいだよ。ミカヅキさんは、とっくに戦いを始めてるんだ」
「待って。わたし、まだ、モンスターになんて声かけるか決めてないのよ」
「僕は待てるけど、モンスターは待ってくれないよ」
「ユー、そういうの、よくないわ。『僕は待てるけどモンスターは待てない』だなんて。たしかにあなたは我慢強いかもしれないけど、モンスターだって同じぐらい我慢強いかもしれないじゃない。人のことを知りもしないで勝手に決めつけるのは、よくないのよ」
「人じゃないよ。モンスターだよ」
「『人』ってなによ?」
「モンスターじゃない生き物だよ」
「だったら、猫さんだって人じゃない。猫さんがよくて、モンスターがだめっていうのは、だめよ。モンスターに知られたら、きっと傷つくわ」
「うーん、たしかに、言われてみたら、そんな気がする……」
理論的に、ナナの方が正しい感じがしたのだ。
モンスターだから傷つかない、なんてことがないのは、ユータにもわかる。
だって、今まさに、ミカヅキがモンスターを傷つけている最中なのだ。
傷つかない相手は殺せない。知力が1000000もなくたって、誰でもわかることだ。
「だいじょうぶ、わたし、一番なの。だからモンスターにかける言葉だって、すぐに思いつくわ」
「どうして昨日のうちに考えなかったの?」
「だって、モンスターにかける言葉は、すごくたくさん文字数があるのよ? そんなの、昨日考えたって、忘れちゃうわ」
「なるほど」
「それに、現場の空気が大事なのよ。実際にモンスターを見てみて、そうしたらきっと、説得の言葉だって見ないで考えたのとは違うような感じになるわ」
「なるほど。じゃあ、とりあえずモンスターを見に行こう」
「そうね。行きましょう。……どこへ?」
「前に出て、真ん中のおっきいののところで待ってるといいみたいだよ」
「物知りなのね、ユー。さすが、手下一号だわ。子分一号だったかしら?」
「ユータだよ」
「そうね。じゃあ――」
ナナが歩き出そうとする。
それより早く、ミカヅキが戻ってきた。
「どうして来てくれないんだ! 活躍したのに!」
「おかえりなさいミカヅキさん。今、ナナと話し終わって、前に行く感じの雰囲気になったところです」
「そ、そうか……もう第三ウェーブまで終わってしまったからな。あとはもう、最後の第六ウェーブまで、ちょっとしかないぞ」
「まだ半分ありますよ」
「半分はそんなにない。『今日の夕ご飯はパンが半分』って言われたら、お腹が寂しい感じがするだろう?」
「たしかにそうかもしれません」
「だから、早くな。……そうだ、第五ウェーブあたりが、いっぱいわーっと来るから、すごく活躍できるんだ。私のかっこいいとこ見るためには、今から走って、中央のアレに向かってくれ」
「わかりました」
「早くな? ああ、第四ウェーブ始まっちゃう……! 来てね! 約束だからな!」
「はい」
ミカヅキがすごく速い。
ユータはナナの腕をつかんだ。
「ナナ、行こう。ミカヅキさんが怒っちゃうよ」
「行こうと思ってたところよ。行こうと思ってたのに、行けって言われると、ちょっといらいらするわ」
「ごめんね。じゃあ、どうする?」
「行きましょう。モンスターさんの姿を見ないと」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「走って」
「うん」
二人は走って行った。
ナナはすごい遅かったので、到着は第六ウェーブになった。