15話 天才、学習する
『なるほどのう。いや、助かったわい。ワシもな、歳じゃからのう。プラント防衛戦は、走り回るし、腰が痛いから、やだなと思っておったんじゃ。……む? 前にも言ったかのう?』
「そうかもしれません」
『では、三人でがんばりなさい。君の……ああいや、君たちの活躍に、期待しておるぞ』
ウィスパーの魔法で、そのように話が決まった。
ユータはすきま風吹きすさぶFクラス宿舎に意識を戻す。
真ん中あたりには、ナナと、ミカヅキがいる。
二人は座って、話していた。
「うむ。やはり、後輩はいいな。ちっちゃくてかわいい」
「そうよ! わたし、背の順に並んでも一番なんだから!」
「そうか、そうか。よし、フレンド登録をしよう。……む? 君の使い魔はどこだ?」
「そんなのいないわ!」
「……そうか、入学前だからな。では、入学式が終わって、使い魔を手に入れたら、絶対にフレンド登録をするんだぞ。忘れたら悲しいからな」
「だいじょうぶよ! だって、わたし、あなたの親分ですもの。親分は、子分を悲しませることはしないわ!」
「そうか。では、私は頼れる子分として、君たちの前で格好よく『モンスター襲来』をクリアしてみせよう。子分だろうが、親分だろうが、君は後輩だ。後輩に格好つけるのは、私の夢だったんだ」
「子分が強かったら、親分としてもいい感じだものね。あなたの活躍、期待してるわ! ミ……ミ……ミ……ミカ!」
「あだ名か!? 君、今、私のことを、あだ名で呼んだか!?」
「だってあなたの名前、長いんだもの!」
「そうか。だけれど、あだ名で呼ばれるのは、いいものだ……仲良し感、ある。私も君のことをあだ名で呼ぼう」
「親分って呼んでいいわよ!」
「では親分、これからよろしくな」
「ええ。よろしくしてあげるわ!」
仲がよさそうだった。
二人の会話は、横で聞いていて、すごくかみ合っている感じがする。
ユータはちょっとうらやましい。
ナナと会話しても、ミカヅキと会話しても、かみ合わない感じがしているからだ。
「ナナ、ミカヅキ先輩、学園長先生との話、終わりましたよ」
「よくやったわ手下一号! ……あら、子分一号だったかしら?」
「ユータだよ」
「そうね。ユーだわ! ……なんにせよよくやったわね!」
「ありがとう」
「ゆうたくん、学園長はなんだって? モンスター襲来には参加するのか?」
「三人でがんばりなさい、とのことです」
「よおし! ……ああ、君たちはがんばらなくていいぞ。がんばる私を、見ていてくれ」
「だめよ! 子分にだけがんばらせるわけにはいかないわ!」
「君たちは、がんばって、格好よく活躍する私を見ていてくれ」
「なるほど、そういうがんばりもあるのね」
「うむ」
「じゃあわたし、がんばるわ!」
「そうだ親分、それがいい。君は君でがんばってくれ。私から目を逸らさずに……」
ミカヅキがすごく嬉しそうで、ユータはなぜか危機感を覚えた。
こんなにいい先輩で、あんなに美人で、おっぱいも大きいのに、なぜだろう、こわい。
ミカヅキはこわいと言われたくない――ユータは1000000の知力でそういう様子を読み取れたので、口には出さないように気をつけるけれど。
「後輩たちよ、明日の『モンスター襲来』まで、私もこの宿舎で寝泊まりしてもいいか?」
ミカヅキが提案する。
ナナがすぐに答えた。
「いいわよ!」
「そうか、そうか。じゃあ、一緒に夕ご飯食べたり、枕を並べて眠ったり、好きな人の話をしたりしような」
「好きな人……ママの話かしら?」
「私は、親分と、ゆうたくんの話をするぞ」
「わたしのこと好きなの? 困ったわ。やっぱりわたし、人から好かれやすいところも、一番なのね……」
「そうだとも。君はちっちゃくてかわいい……見ろ! 手とか、ものすごいぞ! ほんとに、子供みたいだ! ぷくぷくしてて、ちっちゃくて、触ると、ちょっとしめった感じがした温かさがある……かわいすぎて、食べてしまいたい」
「わたしの手は食べ物じゃないわ」
「知っている。今のは、そう……『比喩』というやつだ」
「……さすがSクラスの先輩ね。難しい言葉を、知っているみたい……わたしの故郷では、そんな言葉、わたししか知らなかったわ」
「ふふ。Sクラスだからな。どうだ、頼れるだろう?」
「ええ。悔しいけど、Sクラスは、はんぱないわ……でも、わたしが一番だからね」
「ああ。一番だ。一番だから、抱っこして、いいか? きっと、抱っこしごこちも、一番に違いない」
「いいわよ!」
ナナがミカヅキの膝の上に座る。
ミカヅキはナナのお腹あたりに腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
二人は幸せそうだ。
なるほど、ああすればいいのか、とユータは勉強した。
ここで『どういう点で一番なのか?』と聞かない方がいい。
疑問点をあげずに、根拠もなく認めたら、こんなにうまく会話ができるのか――知力1000000のユータは、二人の会話から、学んでいった。