想いが届くまで・・・
初めて書きました。非常に短い小説です。
始業式からの帰り道。僕とすみかちゃんは、いつも通り公園に向かっていた。
すみかちゃんは、僕の幼馴染だ。住んでいるところも近いので、昔から一緒に帰っている。
「待って!走るの早すぎ!」
「せいちゃん遅いよ〜〜」
学年1足の速い彼女は、僕を置いて、どんどん先に行ってしまう。
やっと公園に着くと、僕たちはお気に入りのベンチに座る。
その周りには、満開の桜が元気いっぱいにお日さまの光を浴びている。
「また違うクラスになっちゃったね。」
「小学校に入ってまだ一度も一緒になれないよね・・・でも大丈夫!私は・・・絶対せいちゃんから離れないから・・・」
「・・・ありがとう」
少しの間、僕たちは黙りこくった。
「あ!もうこんな時間!私これからピアノがあるんだ!」
ぼーーと桜の木を眺めていたら、いきなりすみかちゃんが、公園の時計を見てあわてた。
「じゃあ、悪いけどもう行くね。今日は何にも話せなかったね・・・ごめんね。」
「全然平気だよ。いつでも会えるじゃん。」
「そうだね」
その時だった。風が吹いて、淡いピンクの花びらが僕たちを包み込んだ。
思わずキャンバスに描きたくなるような風景だった。
「きれいだね」
「うん」
僕はうなずいた。
でも、きれいなのは桜だけじゃないんだ。
花びらに祝福されて、まるでお姫様のようなすみかちゃんが、
すごく美しかった。
* * *
「・・・・て、・・・・て、・・起きて、早く起きて!」
「ふぁ!?」
妹に布団を剥がれ、身体を叩きまくられ、最終的に背中に氷を入れられて僕は目覚めた。
「あ、おはよう、灯・・・」
「お兄ちゃんやっと起きた!ご飯冷めちゃうよ〜」
「今行くよ・・・・・・」
僕は、身支度を済ませ、一階のキッチンへ向かった。
あの夢は久しぶりに見た。
二人で帰ってた小学校時代。読書という共通の趣味もあって、お気に入りの本を紹介しあったっけ。
結局、今まで澄花とは一度もクラスメイトになったことはない。さらに、中学に上がってからは、僕はテニス部の練習、澄花は吹部の活動で忙しくなってしまい、2人で帰ることが無くなった。話す時も無くなった。
* * *
教室に着いて自分の机に座ると、僕は本を読みふける。ほとんどクラスメイトとは、必要なこと以外は話さない。単純に話題が合わないし、人間として好きになれなかった。だから、運動部ながらも、学校の中で陰キャラの位置づけとなっているらしい。
何故か今日の教室は、男子達がいつもより騒いでいた
「ねぇ、知ってるか?高橋の最近の噂。」
「恭子のか?どうせまた告白されて振った話なんだろ?」
高橋恭子は、僕と同じテニス部で、学校1の美人で有名だった。僕はあまり彼女に興味は無い。しかし、彼女の虜にされている男子は山ほどいて、未だに告白に成功した男子はいなかった。
「いや、それが違うんだわ。」
「じゃあ何なんだよ。」
「ついに、あいつ好きな人ができちゃったらしいぞ。」
「え!!!」
「うわ、マジかよ!相手は誰だ?」
「そんなのわかってたら、すぐさまそいつに押しかけに行くに決まってるだろ。俺らの彼女を奪うなってな。」
「やっぱりそうだよな〜〜」
何だそれ。人を好きになるのも、人に好かれるのも、人の自由のはずなのに。だから僕は、そういう自分勝手な奴しかいないクラスメイトが嫌いなんだろうな・・・。
授業が終わり、教室から出る。部活に遅れないように、急ぎ足で階段を降りていた。けれども、次の瞬間、僕の足は止まった。
澄花が吹部の男子部員と話していた。
僕はすぐさま陰に隠れて、様子を見ていた。どうやら、今度の定期演奏会の話をしているらしい。彼女が持っているのは、曲のリストなのかな?
「私はこの1番目の曲が好きで、ぜひ演奏したいなって思ってるんだけど。」
「あーそれはわかるよ。一応俺は4番目の曲が推しなんだけど、1番目も、最後の感傷的な響きが心に染みるんだよね〜〜。」
「そうなんだよね〜〜」
僕の心が灰色一色になっていくのがわかった。ただただ呆然としていた。
僕の彼女が・・・
彼女は、そんな僕にも気づかずに、その場を去って行った。
僕は訳がわからなくなり、同時に、クラスメイトと同じ考えを持っていた自分が恥ずかしくて、一気に一階まで駆け下りた。
* * *
テンションをどうにかしようと、帰りに図書室に寄り、本を読みあさり、また新しい本を借りた。
「よし、帰って早速読むぞ!今日はテニスもオフだったし、塾もまさかの休講!そして、ずっと欲しかった本が図書室に入荷された!こんなに素晴らしい日はない!」
「与生君。」
馬鹿みたいにはしゃいでいたら、聞き覚えのある声がした。まさか、この声は・・・
心臓の鼓動がいきなり早くなる。どうしよう、心の準備がまだ・・・
「な、な、な、なんか用か?」
振り返ると、そこにいたのは・・・
「少し話があるんだけど、ちょっと良いかな?」
クラスメイトの高橋恭子だった。
「・・・」
このショックは一生忘れまい。あまりの絶望で口をぽかーんと開けてしまった。
「大丈夫?」
「あ、は、はい!大丈夫です!」
「ははは、与生君、言葉使いが敬語になってるよ〜〜」
自分の動揺が隠しきれず、目を合わせることが出来なかった。すると、
「じゃあ、こっち来て。」
と言って、彼女は僕の手首を掴んで、僕を屋上に連れていった。
こんな時に、僕なんかに何の用があるのか・・・
「高橋、話ってどれくらいかかる?僕は早く本が読みたいんだけど。」
「それは君次第だよ。」
「??なんか訳がわからないけど、なるべく早めにね。」
ふと空を見上げると、いつの間にか曇っていた。
「与生君。」
改めて僕の名前を呼んで単刀直入に言った。
「ずっと好きでした!つきあってください!!」
え?どういうこと?
「教室にいるときは本ばっか読んでるし、部活にいるときも一人で壁打ちばっかしてるし・・・いつも一人で行動してた。みんなは、ぼっちとか言ってからかってたけど、私はそうは思わなかった。まるで別次元の世界で、情熱を持ち続けて生きているように感じた・・・そんな与生君がすごく憧れて、かっこよかった!」
待て待て、こいつ僕を誇張しすぎだろ。
「他の男子達は、人の目ばっか気にして、自分のことしか考えない臆病な人ばっかり!」
高橋の頭の中ががヒートアップしている。
「だから、他の人とは違う君のそばにいたい!お願い!」
彼女は、顔を真っ赤にして、目を潤ませて、返事を待つ表情をしていた。並の男だったら、一発KOだろう。
確かに、僕は八方美人なクラスメイトが嫌いで、そんな奴らとは一緒になりたくなかった。その点を好きだと言ってくるのはとても嬉しい。
ただ、僕に承諾などできるわけがなかった。僕には、もうすでに昔から心に住み着いている人がいる・・・はずだ。
「高橋」
「はい」
「良いよ」
「!!!」
え?え?ちょっと待って、何で僕は今オッケーを出したんだ?
「やった!ありがとう、与生君!本当に嬉しい!認めてくれたってことは、君も私のこと好きなんだよね?」
「あ、あぁ・・・」
こんな状況で否定できる訳がなかった。
「じゃあ、今日からよろしく!本当は今日一緒に帰りたいんだけど、これから親の用事があって、校門まで迎えにきてくれてるんだよね。だから、残念だけど、先帰るね。またね〜〜」
高橋は、そう言って、先に帰ってしまった。
今、屋上には僕独りきりだ。なんだか急に寂しく感じた。
この寂しさが原因なんだ。僕は、1人でも平気なふりをしていたけど、実は、そんな僕を認めてくれる人が欲しかったんだ。
その認めてくれる人が、澄花ならとずっと願っていた。だけど、彼女の代わりに高橋だった・・・その一瞬だけで僕は心変わりしてしまったんだ。
急に涙がこみ上げてきた。そして、
「うわーーーーーーーー!!!!!!」
と、自分の本当の気持ちが神様に伝わるように、曇りの空に泣き叫んだ。
* * *
帰宅途中、ふと僕は、小学校時代によく行った公園に立ち寄ろうと思った。今はどうなっているのか知りたかった。
さっきまで曇っていたのが嘘みたいに晴れ、清々しい春風が僕の髪を揺らす。
分かれ道で、いつもは右に行くのを左に進む。
公園に着いた時、1人の少女がブランコで座っていた。
もちろん、その子が澄花だという展開は起きず、昔から気に入ってたベンチに座り、桜を眺めた。
「昔から変わらないね、君は。」
僕は桜にそう言ってやった。桜は、自ら誇るように、花びらの色をピンクに染めていた。
変わらないのは、桜だけじゃない。滑り台、二台のブランコ、小さな砂場、そして今僕がくつろいでいる木製のベンチ。
「でも、僕は変わった!澄花とも、夢の中でしか話せなくなった!
そして今日、ついに僕は澄花を裏切った!」
また、涙声になった。
「何で、何で、こうなるんだよ!僕はずっと・・・・・」
ずっと思い続けて、言いたかったこと・・・しかし、
「せいちゃん」
いきなり、別の人の声が聞こえた。
「澄花・・・何でお前がここに・・・」
見上げると、さっきの少女はいなくなり、代わりに澄花がいた。
「・・・・・私、さっきの見てたの。」
「さっきのってまさか・・・」
「うん、高橋さんに告白されてたでしょ。」
1番見られたくない人に見られてたのか。
「部活が終わって帰ろうとしたら、図書室にいるせいちゃんを見つけたの。やっと、2人だけで話す機会を見つけたって思ったら、何故かそこに高橋さんもいた・・・そしたら2人でいきなり屋上に行っちゃったから、気になってついてったら、会話が聞こえてね・・・・・。」
澄花は天を仰ぎながら言った。
「もう、手の届かない人になっちゃったんだよね。おめでとう。」
「違う。本当は・・・」
「本当は?」
あぁ、何で言葉が出てこない?自分の想いを伝えなきゃいけないのに、裏切りの罪悪感が僕を邪魔してくる。僕は自分の勇気の無さにイライラした。
「もういいよ。別に私はせいちゃんを取り返しに来たわけじゃ無いし。お祝いを言いにきただけだよ。誰もが欲しがる高橋さんの心を掴んだんだから。」
そう言って、澄花は公園を出て行こうとした。
ダメだ、これじゃダメだ!ここで終わらせなんかしない!
「澄花!!!」
「え?」
僕は、思いっきり彼女に後ろから抱きついた。
「お前のことを、昔からずっと愛していた!お前の顔、性格、匂い、その他全てだ!だけど、伝えるタイミングがわからなかったし、作れなかった・・・ごめん、許してくれ!だから、これからは、忙しくても、ずっと一緒にいよう!ずっとだぞ!」
「せいちゃん・・・」
いつの間にか、彼女も僕も、大粒の涙を流していた。そして僕は、彼女の唇に優しくキスをしてあげた。
* * *
昼休み、僕たちは屋上にいた。
「せいちゃん!昨日貸してくれた本、すごく面白いよ!」
「だろ?ラストシーンの時、僕思わず号泣しちゃったもん。」
「うんうん、わかる〜〜」
早々に高橋と別れ、澄花と付き合い始めてから、日に日に僕は男子から、澄花は女子からの嫉妬が激しくなり始めた。だから、担任に適当な理由を言って屋上の鍵を借り、 2人だけで話すことにしたのだった。
「澄花」
「何?せいちゃん?」
「これが幸せってやつなんだね。」
「いきなりどうしたのさ。」
「誰かのことをずっと想うって、結構不安の方が大きいからさ。その想いが届かなかったらどうしようってずっと考えちゃう。だから、単純だけど、長年の想いが叶うってすごく幸せなことなんだなーて思っただけだよ。」
空を見上げながら、そう言っていると、いつの間にか、僕の頰が赤らんでいた。
「そうだね。私もそう思うよ。」
澄花も同様に頬が赤らんでいた。
「そろそろ、次の授業に行かないとな。澄花、移動教室だろ?遅れるぞ。」
「あ、そうだったね。じゃあ、もう行くね。」
「ああ」
こうして、僕達の新しい生活は始まった。
読んで頂き、ありがとうございます。
かなり物足りなかったかもしれません。
宜しければ、感想をいただけると幸いです。(酷評でも構いません。)