第8話 旅行1 ③ 厄介な事案
空腹も満たされたすみ田。
両手、両足を伸ばし、宙を見上げていた。
「っはァ~~かやの殿は料理の腕がいいでござる~~♡」
「っそ、そうかな?? そう、か?」
「うむ! 拙者は料理だけはセンスがない! 殿にも、こ暮の奴にも止められる!」
「……そいつは、うん。そっか……」
かやのも、なんと言っていいのか分からずに。
苦笑しか出来なかった。
「! そうでござっる~~‼ かやの殿‼ 拙者に料理を教えてくれでござる‼」
「いやいや。休暇なんだから、休みなよ。な?」
「いやいやいや! 拙者は暇など欲しくはなかったんでござる!」
「そんなんだから。殿? ってのに言い渡されたでしょうね」
「いやいやいや! 拙者への誕生日のサプライズでござる!」
その言葉に。
かやのも表情を変えていく。
「誕生日、なの?? お前」
「? うむ! 左様でござる!」
「やったー~~ッッ‼」
腕を高く伸ばし。
かやのが喜んだ。
薄気味悪くなり、すみ田も上半身を起き上げた。
「な、何事で……ござるか?」
「おれも誕生日なんだよ! そっか~~そっか~~よかった~~」
「……そう、でござるか。一緒で、ござるか」
徐々に、嫌な予感もし始めた。
バクバク。
バクバクバクーー……。
「で。何故、そのように嬉しいのでござるか??」
「ちょっと! こっちに来てくれ!」
勢いよく、かやのがすみ田の腕を掴み。
洞窟の入り口に連れて行った。
「あれ! あれが視えるか? お前には!?」
「? あれ、で……ござ……る……か……」
指をさされた方向には。
巨大な石造りの橋が在った。
十字の形で。
しかもそれは、宙に浮く形で在る。
何処から伸び、何処に伸びているのかが分からない。
ただ、十字の片方は極端に短く。
入り口は近く。
古びた城を貫通する格好だった
その橋の下に。
すみ田たちの居る洞窟もあり。
村も、そうだった。
思わず魅入ってしまった。
「なんと。摩訶不思議な!」
喜々とすみ田も言った。
「もっと不思議なのはさ。誕生日を迎えたヤツじゃないと。入れないんだ!」
すぐに、かやのの言葉に。
すみ田の表情から、笑顔も消えた。
「……その中に。あの蜂たちの親が居る! だから、子たちが居るんだ!」
「それで、かやの殿はーー」
「入って、親を放り出したい! んじゃなきゃ、おれの商売も上がったりだ!」
「……しかし。奇妙で、ござるな?」
「何がだよ?」
すみ田は目を細め、顎に指を置いた。
その様子に、かやのが訊き返した。
「何故。親蜂はーー出られないのでござるか??」
「そ、それは……おれも知らないよ! こっちが知りたいよ‼」
「奇怪な、話しでござる」
「! おお、おれを疑うのかァ?!」
かやのの叫びに。
すみ田も顔を左右に振り。
「お主のような優しい鬼人が。女子が嘘を吐くはずがないでござる」
きゅん♥
きゅ、きゅん♥
「‼ ぁ゛、あ、ああ♥」
「? 顔が真っ赤でござるが。如何したでござるか?」
「な゛! なんでもないよ‼」
かやのはそう吐き捨て、顔を横に反らした。
頬に充てた指先は熱く。
「?? ふむ」
「だから! 一緒に、来てくれるだろう??」
「……--しかし。拙者、は」
脳裏に、こ暮の顔が浮かんだ。
◆
『兄上様。如何なるときも、鞘から刀を抜いてはなりませんよ』
それはこ暮の部屋で。
すみ田が書物を読んでいたときだった。
『兄上様が、人よりもーー厄介なんですから。下手に手を出せば、兄上様も傷をつきかねない』
『傷など。癒えるでござる。こ暮は心配症でござるな』
ペラ。
『それに拙者は殺生はせぬ。刀も、理由があっても。必ず考えるでござるよ』
ペラペラ、ペーー……。
『傷つくのはーー』
◆
「傷つくのはーー……」
そう口に出た。
「大丈夫! 大丈夫だって! お客さんには、手は出させないから!」
にこやかに、掴んだままの腕を振った。
「おれが全部するからさ♪」
キラキラ、と輝かせるかやの。
彼女も悪気があるわけじゃない。
ただ。
ちょっとだけ、不安で堪らないだけで。
一緒に、来て欲しいだけだった。
すみ田も、女子である彼女を心配した。
だから。
こ暮には、心中で謝りながら。
「拙者も。お手伝いをさせて頂くでござる」
そう強く、かやのに言ったのだった。






