第7話 旅行1 ② 今日初めての食事
「ときの。むら凪殿、あのーー」
「かやのでいいさ。かしこまった言い方は嫌いでね」
ひらひら、と手を振るかやのに。
「うむ。では、かやの殿。あの巨大な蜂は、この里では普通なーー」
「ああ。どこにだって居るよ」
草音を掻き分けながら、二人が獣道を突き進んで行く。
「ふむ。流石は秘境!」
「あ。意外とすんなり受け入れるんだ、お前」
「いやいや! 地元の者が言うならば、そうなのでござろう?!」
目を輝かせるすみ田に。
苦笑交じりに、
「まぁ。純粋なこった」
そうかやのが呟いた。
「然して。かやの殿のお住まいはどちらでござる?」
「あんまり期待しないでくれよ。元は朽ちた隠れ家だ」
「隠れ家、とな? 洞窟か何かでござるか? 戰のときの」
「そうそう。それな!」
ガサ!
「「!?」」
草が左右に動き始めた。
その様子に、すみ田とかやのが立ち止まった。
「かやの殿」
「なんだい? 旅禍のお侍さん♪」
「この里の《普通》の定義をお聞きしたい」
そう、強張った声を出すすみ田の視界には。
巨大なカマキリが立ちはだかっていた。
「--里の者は。どう対お゛?」
かやのはすみ田の腕を引っ張ると。
そのまま、背中に担いだ。
っだ!
っだっだっだ‼
「逃げるに決まってんだろうがッ‼」
かやのの柔らかな肌に。
すみ田も、どうしていいのか分からず。
手も置くこともままならないが。
「手! ちゃんと置かないとおこっちちゃうだろう!」
「! む、うむ!」
すみ田は、かやのの肩に腕を巻きつけた。
「さァ! かっとばすよォおおッッ‼」
「の゛ぁ゛ああオ゛あ゛ッッ‼」
半端のない奔りに。
すみ田の髪も大きく靡く。
視界の光景も、目まぐるしく動いていた。
「ぅ、っぷ!」
酔ってしまう。
「吐くのは降りてからにしてろよな‼」
コクコク! とすみ田も無言で頷いた。
そして、そのまま。
すみ田はかやのの背中でーー意識を閉じた。
◆
『暇をやる! いい休暇を取るがよい!』
『兄上様。五泊六日ですよ』
◆
「暇など要らぬ!」
ガバ‼
勢いよく起き上がったすみ田。
「? こ、ここは……」
辺りを見渡すと、そこは岩穴ーー洞窟のような場所で。
「--かやの殿の、言っていた住処でござるか」
すみ田の身体には蓑がかけられていた。
敷物は藁と草を編んだものだった。
「かやの、殿? かやの殿??」
洞窟内にかやのの気配も、姿もない。
すみ田も立ち上がり。
洞窟の入り口まで歩いた。
すると。
焼いた匂いがした。
すん。
すんすんすん!
「あー起きたのか!」
「かやの、殿」
「飯! 腹減ったろ? あ゛、食って来たか?」
「ぃ、いや」
起きてしげ洸の元に行ったら。
速攻、暇と今回の旅行案件が発生してしまった。
結果。
朝ごはんは抜きだった。
きゅ。
るるるるるー~~ッッ!
小さな腹の音が、すみ田から鳴った。
「ははは! 正直なヤツだなァ~~すみ田は!」
かやのが焼いていたのは大きな動物。
「イノシシが罠にかかったんだよ。貴重な肉だ」
「ほう。猪でござるか~~ご馳走でござるな!」
「ああ。もう時期焼けるぜ」
ごきゅん! とすみ田も唾液を呑み込んでしまう。
ふぉ、おおぅ。
「然して。ここは一体」
すみ田がようやく、その場所から辺りの風景を見た。
大きな木の幹が視界を遮るも。
この洞窟は大きな岩の中の、上の方にあるのが分かる。
麓から上がる煙に。
「この里の者は。かやの殿を存在をーー」
「知る訳ないじゃん、って言いたいとこだけど。知っているよ」
「! 人間と妖が共存して居るということでござるか」
「ああ。そうりゃあそうさ」
香ばしい匂いと。
肉を切り裂く音が聞こえた。
「ほら! 焼けたぜ!」
かやのはそう言い。
すみ田に茶碗を手渡した。
中には雑炊と猪の肉が入っていた。
「! 忝い‼」
「あ。箸な!」




