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第6話 旅行1 ① 鬼子と蜂とすみ田

 ばっちん!


「!?」


 すみ田が目を覚ますと。

 そこは駕籠の中では、なくなっていた。

 自身が、今。

 どこにいるのかさえすみ田は分からない。


 だが。


「っつ!」


 目の前の巨大な蜂が。

 すみ田を威嚇していることは分かった。


 だが。


 すみ田は攻撃を仕掛けるのを、躊躇ってしまう。


(弱ったでござるな)


 昆虫にはアンテナがある。

 一匹でも殺生をすればーーたちまち、軍隊で現れる。

 すみ田は、そのことを警戒していた。

 ただ、よかったこともある。


 幸いにして。


 すみ田以外。

 この場所には居ないようだったからだ。


 少し、辺りを見渡すと。


 ここは駅のホームのようだった。

 だが、すみ田には記憶が一切ない。

 いつ、乗り継いだのかが。


 すみ田は顔を左右に振り。


「今はこの蜂をどうするかでござる!」


 声を荒げると蜂は尻の先端から毒針を出し。

 すみ田へと向けた。


 ヴヴヴーー……ッッ‼


「攻撃を止める様子はござらぬか。致し方あるまい!」


 すみ田は手を合わせた。

 そして、ゆっくりとした仕草で離したーーかと思えば。


 バァッッッッンッ‼


 勢いよく手を鳴らした。

 すると。

 すみ田の周りに光が浮き上がり、円を描いていく。


「--《経文陣》 一撃停止型ッ! 序の口ッッ‼」


 円が大きく広がり。

 蜂たちも、中に入ってしまう。

 すみ田の前に経文陣が浮かび上がった。

 それを、手で押し。


 蜂へと向けた。


「《ピン留め》ッッ‼」


 ズ、ゥウウンッッ‼


 地面から先端が鋭利な影が、伸び上がり。

 蜂たちの身体を貫いた。

 ピクピク、と蜂たちの身体も痙攣させる。


 ついには、動かなくなってしまう蜂。


「ふむ。このような巨大なオオスズメバチがるものなんでござるなぁ」


 標本にような恰好になっている蜂に。

 すみ田も、手で触れた。


「このまま眠って居て貰おう。拙者が去るまでの間だけでも」


 この経文陣の攻撃は、殺傷能力を抜かしたものだった。

 つまりは、強制的に眠らせた訳だ。

「さて。……ここに秘湯とやらは」

 なんとか危機を乗り越えたすみ田は。

 ようやく、旅本来も目的を思い出した。


「本当にあるのでござるか??」


 《佃田つくでん》藩主であるしげ洸によって。

 半ば、無理矢理。

 金をかけた大掛かりな有給を与えられたからだ。


「《秘湯、苔渚ヌルナギ温泉》とは。誠に、このようなところにあるのでござるかな????」


 徐々に。

 自身の居る場所に自信がなくなっていくすみ田。

 そこへーー


「ん? おさ。こんなところで何をしてるべさ」


「む? お主は……鬼、でござるか?」

「あーやっぱり! やっぱり、やっぱりー!」

「!? な、何がでござるか??????」


「お前が。すみ田ってんだろう!」


 すみ田に声をかけたのは額から角を生やした。

 女の《鬼人オーガ》だった。

 胸元は大きく開いたもので。

 小さな膨らみも視えそうだったが。


 すみ田には眼中はなかった。


「おれは、むらなぎのかやのってんだ! よろしくな!」

「……安いとは。このような人外の……」

「はァ?! 安いのと、人外は別ですけど~~?!」


「む。そうなんで、ござるか??」


 かやのは腕を組み。

 大きく頷かせた。

「おれたちゃあー寂れた温泉に案内するのを生業としているわけよ! で、金銭を受けて生活をしてるって訳さ!」

「では。趣味で人間と絡んで、金をふんだくっているという訳でござるな?!」

 すみ田の言葉に、かやのは目を反らした。

「聞こえなーい♪」

「ま。人間を喰らうよか、マシでござるが」

「だっろー~~う♪」

 声を甲高くさせるかやのに。

「で。その秘湯とやらは後にして。旅館などはどこにあるでござる?」


「は?」

「--……む??」


 きょとんとしながら。

 かやのが続けた。


「おれ達は《秘湯》だけの案内って。あんたんとこにも伝えたんだけどー? 訊いてないのか?」


「な、何も……訊かされておらぬ……」


 すみ田の顔も俯いていく。

 その様子に。


「何泊?」


「--五泊六日……」

なっげぇなぁ~~おい! 羨ましいぜ!」

「訊いておらなかったでござるか? お主も」

「ああ。おれは案内だけだからな」


 すみ田が宙を仰いだ。


「殿―~~っっ‼」


 すみ田の可哀想な状況に。

 かやのも、少し興味が湧いてしまう。


「おれの寝床に来るか? 狭いけどよ、飯も、寝場所も確保出来るけど?」


 かやのの言葉に。

 すみ田の目が輝いた。


「よ、よいのでござるか?! なんと、なんと、優しい女子おなごでござるなぁ~~」


 その様子に。

 その言葉に。


 かやのの顔が朱に染まった。

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