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第4話 準備は整った!

 日本ひのもとの奥にある。

 小さな藩のーー《佃田つくでん


 当然ながら。


 資金は乏しく、これといった。

 観光場所もない。


「しかし……殿。何故なにゆえ、このような」


 はっきりと言ってしまえば。

 貧乏なのだ。

 だから。

 住民も、それ相応に働き務めている。

 誰一人として、文句を言う者はいない。


 ……多分、だが。


「--《御猿の篭屋》など! 恐れ多いッッッッ‼」


 そして。

 貧乏故に、金のかかることも。

 したくはいという。

 貧乏性が、すみ田にも染みついている。


 だからこそ。


 目の前のーー屋敷の門の前に居る。


 《御猿の篭屋》に目がくらんでいた。


 頭の中でも。

 料金のことしか、考えられなくなっている。


 ガタガタ。


 ぶる、ブルルッッ!


「うむ。案ずるな! すみ田!」


「し、しかし……このような……このような」

 弱音を吐くすみ田に、

「あれは本来価格よりも遥かに安いーー《奇機人オートム》が運ぶのじゃ!」

 こ暮と一緒に背中を押しながら。

 盛大に笑った。


「おー、とむ……で、ござるか??」


 しかし。

 それとは対照的に、すみ田の眉間にしわが寄り。

 口元も、への字になってしまう。

 目元も、険しくなっていく。


「兄上様の《奇機人》嫌いも困ったものです」


 顔を見ていないはずのこ暮が。

 すみ田に、そう言い捨てた。

「今の時代。これぐらいは普通ですよ」


 《奇機人》は名の通り。

 機械を人型にし、魂を与えて人間たちの手助けをさせる。

 それが存在理由と謳われ、製造されて来た。


 魂の技術こそーー《経文陣》同様とする。

 《錬金術》により生み出されている。


 日本より遥か遠くの異国から来たという。

 魔術師オーウェリアによって。


 しかし。


 そんな彼は、非業の死を迎えた。

 理由も、死因も。

 日本での公開はなく。

 《佃田》も然り、何の伝えもなく。


 なのだが。


「拙者は好きになれないのでござる」


 一度だけ。

 いや、複数回。

 彼が、死ぬ二日前まで。

 すみ田はオーウェリアと談笑し、術式などの知識交換を行っていた。


「人間は人間を産み、人間を育めばよいのでござる」


 真っ直ぐに。

 そう、すみ田が吐き捨てた。

「子供が思う以上に、大人には守らなければならないことも多いのですよ」

「言うようになったではござるぬかぁ~~」

「兄上様のお言葉は、理想論でしかありませんよ。この時代では」


「こーぐーれ~~??」


 ガバ! と身体を捻り。

 こ暮の首を取り、腕を巻きつかせた。


「あ、にぅえ、っさーー」


 強く巻いたためか。

 一気に顔が青ざめていく様子に。


「殿と少しは、鍛錬をするでござる。こ暮」


 腕を解き、軽く頭を叩いた。

「分かっていますよ! 叩かないでください!」

「生意気を言ったお仕置きでござるよ」

 そして。

 ようやく、屋敷の門の前に立ち竦む。

 《御猿の篭屋》と対面した。


 駕籠はシンプルとは言い難いものだった。

 大名が乗るようなーー四角く、扉のあるもの。


 明らかに、値段がーー……。


「ととと、ととと……のォおおう??」


 すみ田の額に、びっしりと汗が浮かんでしまう。


「安心せいと言っておろう? 心配しぃめが」


 駕籠の前後に居るはずの駕籠者は。

 《奇機人》で、少し錆びており。

 カタカタ、と鈍い音が聞こえていた。

「中古の駕籠者にしたのじゃ! 価格も下の下の下の、さらに下なのじゃぞ!」


 明らかに、駕籠者は整備されていなかった。

 悲鳴のような音が。

 小さくも、強く耳に聞こえた。


 すみ田も腕を組み。

 少し息を吐き。


「もう。ここまでされたら行かぬことも出来ないでござるな」


「今更、そのようなことを考えて居ったのか! お主は!?」

 しげ洸も、驚きの表情をすみ田に向けた。

 ただ、口許は笑っている。

「で。拙者はどちらの場所に暇を?」


「兄上様にお渡しした、お持ちのパンフを見て下さい。載ってます」


「っそ、そうでござったな。済まぬな、こ暮」

「いえいえ」

 ほくそくみながらこ暮が、そう応えた。

 逆にすみ田の顔は、真っ赤に染まってしまう。


 裾に入れてしまっていたパンフを取り出し。

 すみ田は読んだ。


「……《秘湯、苔凪ヌルナギ温泉》」


挿絵(By みてみん)

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