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第3話 旅の支度が終わらない!

 屋敷の前で。

 すみ田が茫然としている中。


「すぐに出られるように! この日のために用意周到にしたのじゃ!」


 藩主のしげ洸が、手荷物を持って現れ。

 弟のこぐれが紙を持って来た。


「兄上様。これを」


「? それはなんでござる? こ暮」

「兄上様が行かれます宿のマップと、旅行費用です」


 しっかりと、こ暮がすみ田の手に忍ばせた。

「弟に裏切られれるとは。なんと悲しいことか」

「裏切ってなどいませんから」

 何かを待つように。

「兄上様が重労働し過ぎなのは、周囲も心配されています」

 二人は肩を並べた。

「てか。兄上様がお休みにならないと。他の者も休めませんから」

 辛辣なこ暮の物言いに、

「そのようなこと拙者は知らぬでござる。休めばよかろう!」

 すみ田の口調もキツイものになっていく。


「儂の命に背くつもりなはいな? すみ田!」


 ふんぞり返るしげ洸に。

 すみ田も眉間に指を摘み。


「背くなど。滅そうもござらぬ、殿」


「うむ!」

「それでですね。兄上様の旅行期間、オラが受け持ちますのでご安心を」

「! そうか、それは安心でござるな。殿を頼むぞ、こ暮!」


「っは!」


 朝靄の中。

 動く影が見えた。


「お! 来おったぞ!」


 目の上に手をやり。

 目を細めるしげ洸。


 それよりも、こ暮がすみ田に言う。


「兄上様。その姿で行かれるのですか?」

「? うむ」


 すみ田の姿は。

 朝起きて着替えた状態の、格好のままだった。


 職務に当たるための着物に羽織姿。


 とても。

 旅行に、心機一転するために出る姿ではない。


 むしろ。


 仕事に行くかのようだった。


「着替えて来て下さい」


 こ暮の威圧に。

「! では、着替えるとするでござるかな」

 すみ田も部屋へと戻って行った。


「おおい! 来たぞ! 《御猿の篭屋》が!」

 そこに満悦のしげ洸が駆け寄って来た。


「……む? むム゛む?? こ暮、すみ田はどこじゃ?」


「流石に。もう少し、兄上様に着替えに行って頂きました」

「おおう! そうか! 流石は、すみ田の弟じゃなぁ~~」


「あれでは。行った先で『助けて下さい!』と言われかねないですからね」


 苦笑交じりにしげ洸に、こ暮が言う。


「ははは! 確かにそうじゃなぁ~~ははは!」


 和気藹々な中。


「お待たせでござる」

 着替えに行ったすみ田が戻って来た。

「うむ! どん、な……」


「--……兄上様。何かを退治に行かれるのですか?」


「? 一体、何故なにゆえでござるか?」


 胸元までの白い服に。

 黒いジャケットと足にフィットするタイツ。


 魔獣や、魔人を倒す衣裳。


「お出かけ用ではないか?? 拙者はこれしかーー」


 ずる。


「え? あの、殿??」


 ズルズルルーー……。


「! こ暮ッ! なんだと言うのでござる?! この服はッッ!」


 ずる。


「っちょ、待つでござる! 何故、無言でござるか??」


 ズルルルーー……。


 

 間。


 不機嫌にすみ田が頬を膨らませた。

「儂のお気に入りの着物じゃ! 少々、丈が長くて着られなくてな!」

 いい仕事をしたとばかりに、。

 しげ洸が額を腕で拭った。


 白い生地の上に。

 艶やかな線のみで蝶が四匹、裾に描かれている。

 袖にも二匹の蝶。

 すみ田にとって、眩しい柄で。

 苦手だったがーー主君の着物モノであり。

 受け取りを拒否ることも出来ない。


「刀は……持って行くでござる! 武士の魂故」


「まぁ。旅行先で使わないで下さいね。兄上様」

「当たり前でござる」

「じゃあ! とっとと行くのじゃ! 伊井すみ田!」


 怪訝な表情をしつつ。


「はい。殿」


 短く、そう応えた。


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