第11話 旅行1 ⑥ 怒り
それはいつから、どうして建てられたのか。
誰一人として、知らないーー《イキバシ》なる橋。
「このまま。進めばいいのでござるな?」
「そそ! 後ろを振り向かなきゃいいんだよ!」
二人は横並びに、前へと進んで行った。
だが。
すみ田が、何かを感じ。
立ち止まった。
「?! どうした、すみ田??」
気づいたかやのも、すみ田に訊き返した。
振り向かずに。
「ここはーー何かの儀式などされておったでござるか?」
すみ田の震えた声に。
「そそ。人間たちが試練を行っていたよ? だから、何だって言うんだ?」
怪訝そうに、かやのも応えた。
「何も、どうも」
すみ田の目には。
自身の《経文陣》で照らした灯りの元。
本来、視えるはずではないものが。
はっきり、くっきりと。
「--その子供は。全員、生きて出たのでござるか?」
「んな訳ないじゃん。子供はーー好奇心には勝てないよ」
あっさりと、かやのは言い捨てた。
「それは! そんなのは、試練ではござらぬッッ!」
少し、錯乱しているすみ田の様子に。
「そうさ! 試練なんざ、人間が生み出した妄信さ!」
かやのも、知らずに声が上がってしまう。
「ここは人間が創った、建造物なんかじゃないんだからさぁ!」
「!? かやの殿、お主ーー何か、拙者に隠して居らぬでござるか?!」
低い口調のすみ田に、
「お前は賢い。でも、他はそうじゃない」
かやのも低く言い返す。
「《イキバシ》は贄橋とも言う。でも、本当なのはアレだよ」
「--誕生日を迎えた者しか迎えられない、と言うことでござるか?」
「そそ。そうなんだよ、それそれ!」
「そして。《決して、振り向くことなかれ》でござるか?」
「そそ! それそれ!」
すみ田は顔を下にしてしまう。
この橋の中にはーーたくさんの子供の霊魂で溢れていた。
すみ田との何かのチャンネルにあってしまったのか。
至って、普通にこの中に居る人間のように。
はっきり、と視えてしまうからだ。
「っく! 何故、このような場所に、お主はッッ!」
「…--興味心だよ」
「!? 興味、心……???」
「そそ」
「~~ふざけるなでござるッ!」
橋の中に、すみ田の怒号が響き渡った。
「ここは! 自己満足を満たすために!」
ビリビリリーー……ッッ!
「来て良い場所なんかではござらぬッ‼」
し……ぃん。
静まり返ってしまう中。
ようやく、ここで。
「うん。それも分かっているよ」
「では、何故……--ここに、入ったのでござるか?」
「巨大な蜂、見たろ?」
「うむ」
すみ田はかやのと会う前の。
巨大な蜂を思い起こした。
「あれは働き蜂なんだよ」
「? うむ、左様でござるか」
「ここの村の生産されてるもの、何か教えてあげようか?」
ざわ。
ざわざわざわーー……。
すみ田の顔が左右に揺れた。
良くないことを、思い浮かべてしまったからだ。
全身に鳥肌が浮かんでしまう。
「蜂蜜さ」
この巨大で、どこまでも続くーー《イキバシ》の中。
どこかに、女王蜂が幽閉されている。
「おれは蜂たちに頼まれたんだ。母親を救って欲しいってね!」




