表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある高校の365日

真夏の日

作者: 照月雫

太陽の位置が高い。セミがうるさい。身体に纏わりつく空気が暑苦しい。


夏は嫌いだ。美術室は蒸し暑いし、運動部はうるさい。


「暑いわ、本当」

「そうだねぇ」


隣に座る三辻優華がだるそうに言う。こいつ、夏休み中ずっとこればっかり言うな。そんな気持ちを表に出すことなく、微笑みながら私は相槌を打つ。


私、中島茉由は美術部員だ。彼女とは一年生同士付き合いがあったほうが後々楽だ、というシンプルな理由で友達になった。本当に簡単で、単純で、脆い関係である。例えば今、私が本心を口に出せば壊れる関係である。でもまあ、そんなことはどうでもいい。


「休憩しよっと」

「もう、優華休みすぎだよー」

「いいのいいの」

「もー」


いつものように彼女は窓際へ向かう。休憩と言いつつも、休まず、寧ろ集中してグラウンドを眺めている。これでは休憩にならないのに。


ピーッ。


笛の音を合図に私は問いかける。


「青池くん、どうだった? またダメだったの?」

「うん」

「そう」


トン、トン、トン。


ボールを蹴る音だけが聞こえる。蹴っているのは彼だろう。


そろそろだ。何も言わず美術室から出る。後ろから聞こえるのは鉛筆を滑らす音。また描いてるのか。


いつものことだった。彼女は窓際で彼を見つめ、そして描く。私はそこから逃げるように立ち去る。ずっと、二人で居るようになってからずっと、そうだった。


あてもなく校内を歩く。行くところ行くところに吹奏楽部が居てやりにくい。


気がついたら体育館前に座っていた。


ああ、彼が見える。一人で練習する姿がどうしても……。


「よう」

「……なんだ、裕貴か」

「なんだってなんだよ。まあいいけどさ」

「じゃあ話しかけるなよ」

「冷たいなー」


くっついてくる幼馴染を放置し、グラウンドを眺める。


「無視すんなよー。傷ついた裕貴くん帰っちゃいますからねー。バスケットで青春してきますよーと」

「……」

「……お前もそろそろ帰らないといけないんじゃないか?」

「……帰る」


帰りたくないけど。


「ほら、そんな顔してんなよ。誰だっけ、ほら、三辻さん待ってんじゃねぇの?」

「……そうですね」


待ってないけど。


「じゃあな。……頑張れよ」

「それじゃ」


少しだけボールの音の方を見て、早足で来た道を戻り始めた。


「……本当は」


本当は、もっと……でも。


彼女の顔が浮かぶ。彼の顔が浮かぶ。……知っている。


ピーッ。


もう入らないといけない。このドアを開けたら、彼女は笑顔で私を迎えるのだろう。


……ああ、嫌だなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ