真夏の日
太陽の位置が高い。セミがうるさい。身体に纏わりつく空気が暑苦しい。
夏は嫌いだ。美術室は蒸し暑いし、運動部はうるさい。
「暑いわ、本当」
「そうだねぇ」
隣に座る三辻優華がだるそうに言う。こいつ、夏休み中ずっとこればっかり言うな。そんな気持ちを表に出すことなく、微笑みながら私は相槌を打つ。
私、中島茉由は美術部員だ。彼女とは一年生同士付き合いがあったほうが後々楽だ、というシンプルな理由で友達になった。本当に簡単で、単純で、脆い関係である。例えば今、私が本心を口に出せば壊れる関係である。でもまあ、そんなことはどうでもいい。
「休憩しよっと」
「もう、優華休みすぎだよー」
「いいのいいの」
「もー」
いつものように彼女は窓際へ向かう。休憩と言いつつも、休まず、寧ろ集中してグラウンドを眺めている。これでは休憩にならないのに。
ピーッ。
笛の音を合図に私は問いかける。
「青池くん、どうだった? またダメだったの?」
「うん」
「そう」
トン、トン、トン。
ボールを蹴る音だけが聞こえる。蹴っているのは彼だろう。
そろそろだ。何も言わず美術室から出る。後ろから聞こえるのは鉛筆を滑らす音。また描いてるのか。
いつものことだった。彼女は窓際で彼を見つめ、そして描く。私はそこから逃げるように立ち去る。ずっと、二人で居るようになってからずっと、そうだった。
あてもなく校内を歩く。行くところ行くところに吹奏楽部が居てやりにくい。
気がついたら体育館前に座っていた。
ああ、彼が見える。一人で練習する姿がどうしても……。
「よう」
「……なんだ、裕貴か」
「なんだってなんだよ。まあいいけどさ」
「じゃあ話しかけるなよ」
「冷たいなー」
くっついてくる幼馴染を放置し、グラウンドを眺める。
「無視すんなよー。傷ついた裕貴くん帰っちゃいますからねー。バスケットで青春してきますよーと」
「……」
「……お前もそろそろ帰らないといけないんじゃないか?」
「……帰る」
帰りたくないけど。
「ほら、そんな顔してんなよ。誰だっけ、ほら、三辻さん待ってんじゃねぇの?」
「……そうですね」
待ってないけど。
「じゃあな。……頑張れよ」
「それじゃ」
少しだけボールの音の方を見て、早足で来た道を戻り始めた。
「……本当は」
本当は、もっと……でも。
彼女の顔が浮かぶ。彼の顔が浮かぶ。……知っている。
ピーッ。
もう入らないといけない。このドアを開けたら、彼女は笑顔で私を迎えるのだろう。
……ああ、嫌だなあ。