祝祭は終わり、太陽がまた昇る
10連ガチャ。
スマホの普及に伴い、現代人の間で猛烈に広まった娯楽であり文化であり経済活動であり、そして病状である。かつてコンシューマーゲームのDLコンテンツ「キャラの追加コスチューム500円」が怒号によって非難されたのに、SSRキャラが数%の確率で当たるかもしれない抽選券が数千円で普通に受け入れられて成立している現状はこのビジネスモデルが如何に悪魔的であるかを物語っておりまあとにかく現代人の多くはこれが大好きなのだ。「価値はモノではない」をある種逆説的に証明するこの概念は、ある意味でこの場に提供されるプレゼントとしてふさわしいのかもしれない。つうかホントによくリサーチしてんな。
えーっと、この10連ガチャがプレゼントっつうコトは、これタダなんすか?
「そりゃプレゼントやからな。それでも10連ガチャやから結果は運次第やで」
まあそこで金払えって言われたらただの押し売りだもんな。
「しかも今回は、最初の無料分に満足できなかった場合、対価を支払うことで更にガチャを回すことが出来るわ!」
一気に話が現代風に胡散臭くなった。対価ってなんすか、この年の瀬にコンビニバイトで食い繋いでる人間が払える対価なんか無いっすよ。
「いや儂らかて金なんかもろてもしょうがないがな。プレゼントが無形なんやから対価もまた然りや」
と言いますと。
「端的に言うと幸運の前借りよ。定量化出来るもんじゃないから具体的にどれだけとは言えないけど、まあその分不幸があったり、あったはずの幸運が無くなったりするわね」
地味に払うのがキツイ対価だなあ。具体的にどれくらいなのかが分からないってのがまた嫌だ。寿命とか言われなかっただけマシだけど。まあとにかく最初の無料分だけ引いてみよう。
「ああその前に、ガチャの内訳を明示するで。なんたら表示法とか言うんか?儂らにはあんま関係ないけども、こういうの最近うるさいらしいからな」
ホントに色々世知辛いな。まあ何が当たるかを知って損はないか。何が当たるんすか?
「ええと、ちょっと待ってなさいよ、確かこうやって…」
シャルロッテさんが慣れないフリック操作でスマホを弄る。しばらくしてようやく目当ての画面に辿り着いたらしく、こっちに画面を向けてきた。
レア:本来知り得ない運命を知る事が出来る
Sレア:自身に利する幸運への道を知ることが出来る
SSレア:直接幸運が降り注ぐ
Uレア:??????
明示されてないんすけど。全部フワッとしてるし最後の目玉が伏せ字って。
「私に言われても困るわよこういう仕様らしいんだもの。でもこの最後の奴はまず当たらないらしいから心配しなくてもいいわよ。まあとにかく回してみなさいな、悪いことだけは起きないようになってるから」
確かにいつまでもウダウダ言ってても始まらないし、サクッと回してみますか。スマホの恐らく北極星がモチーフなのであろうシルバースターをタッチすると、星が回りながら輝き出した。そしてスマホの画面から飛び出してきた。えっなにこれ。
「あら結構派手なのね。そのスマホっていうの初めて見た時はショボって思ったけど」
「そういや嬢は今回が初めてやったか。これ結構作るのに苦労してるらしいで」
そのまま天井近くまで上昇し、一際強烈な光を放って炸裂する。かなりの輝度の光を直接目にしてしまったのだが、不思議と目にダメージは無い。光が消えると、代わりに10個の光球が浮かんでおり、輪になりながら手の届く範囲まで降りてきた。光の色は10個中9個が青で、内一つだけが黄金だった。えーっとこれは、まあ大体分かるけど…
「レア9個にSSレア1個やな。言い忘れてたけど10に一つは当たりになるようになってるみたいやで」
ホントに一体誰がリサーチしてんだ。微に入り細に入り結構なことで。そんでこの光球をどうしたらとまず青い光球に触ってみると、光球がゆっくりと膨張しその中に映像が浮かび始めた。そこには妙に見覚えのある光景と人物が映しだされており、平たく言うと勤務先のコンビニのバックヤードにいる店長と吉川さんだった。
「いやー村田君がシフト入ってくれて助かったね、中々24日に入ってくれる人って居なくてさ。そ、それで僕も明日たまたまこの時期に珍しく休みが取れて、いや休みっていうか午後6時上がりなんだけど、それでね、明日のスターウォーズ最新作のチケットが運良く二枚取れて、その良かったら、え?うんスターウォーズは昔からファンでだからその、えっ あっ彼氏、さんも。スターウォーズのファンで。明日一緒に。へ、へぇ~そうなんだ、あ、ああうんそうだね、明日ばったり会うかもしれないね…」
そして光球は役目を終えたとばかりにゆっくりと光を失い、空中に消えていっていやちょっと待ってなんだこれ。これのどこが知り得ない運命!?知ってたよ!細部以外は!別段知りたくもなかったよ!
「うわー哀れね。身の程弁えずにいきなり星を掴もうとするからこうなるのよ。まずは地道に手の届く地面の石ころ拾いから始めないと」
「きっついなお嬢、まあ事前リサーチを怠るとこうなるってこっちゃな、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と昔のエライおっさんも」
いやそういう冷静なコメントとかいいから!なんなのこれ!?そりゃ悪い事は起きてないけど良い事でも全く無いんですけど!?
「なら嘘は言ってないじゃない。それによく思い出してみなさいよ、SSレアの所に『直接幸運が振りかかる』ってあったでしょ。つまりそれ以外はそうじゃないってことよ。これを知った上でその情報を活かして己の身を助けなさいな」
「そういうこっちゃな、これもまた一つの情報や。情報は多くあればあるだけええ。一つ一つは無価値でも多く重ねればいずれ大きな流れになる。ていうか実際のガチャのレアも満足度はこんなもんやろ」
確かにそうだ。少なくともこれで店長にスターウォーズの話を振って地雷を踏む事は無くなったわけだし。じゃあまあ残りの8個も見てみるか。適当に連続で触れてみたところ、そこから得られた情報は以下のようなものだった。
1.店長半泣きになりながらレンタルビデオ店に駆け込みスターウォーズのシリーズをまとめて借りようとするもエピソード3だけ無い。
2.吉川さんスターウォーズの内容が全く理解できず興味を持てなかったため上映中に爆睡。
3.店長、欠落したエピソード3を埋めるために宇宙大戦争を借りるかどうか10分ほど悩む。
4.吉川さん上映終了後に彼氏に起こされる。謝るが、彼氏は特に怒った風もなく最近疲れてたんだからしょうがないよねとフォロー。
5.店長、宇宙大戦争はやはり受け入れられなかったが、その代わりパロディAVの「シタデ・ウォーズ~新たなる穴の開発~」で悩む。
6.吉川さん彼氏とディナー。上映途中で寝てしまった吉川さんの為を思って、彼氏によるスターウォーズのあらすじ解説が始まる。エピソード1から。
7.店長、シタデ・ウォーズと共に擬似ロリ物と学校でしようよシリーズと素人女子大生ナンパモノをチョイス。エピソードを順に追っていくらしい。
8.吉川さん、彼氏が予め抑えていた夜景の見えるホテルで行為に望むものの、彼氏が最中に「ほら僕のライトセイバー触って…?」「行くよ、僕のフォースを君に注ぎ込むよ」等と言うので年明けに別れることを決意。
とにかく、今後何があろうとバイト先でスター・ウォーズの話をしてはいけないことだけは分かった。それ以外の収穫が何もなかった。なんだこのドロップの被り方。そんな所までガチャ再現しなくていいんだよ!
「人間って…」
「なんていうか、最近はエロいことするのも大変なんやなあ。儂らの時はもっと簡単で単純やったけどなあ」
あまりの内容にお二方がドン引きしていらっしゃる。無理もない。俺も最悪の気分だ。ならばせめて、この最後に残った黄金のSSレアで気を紛らわせよう。なんだっけ、直接幸運が来るんだっけ?ほいっと。黄金の光球に触れると、レアの玉とは違い凄まじい光度と速度で爆発的に膨張し始めた。そして部屋全体が黄金の光に包まれ、そして消えた。
あれ、何もおきないんすけどねえシャルロッテさん?と振り返ったその瞬間、シャルロッテさんの赤白ボーダーニーソックスと赤のフワフワスカートが弾け飛び、生足が真っ赤なフリフリレースショーツごと露わになった。そのエロスと曲線美たるや、至高の彫刻もかくやとばかりに眩く、ああやっぱこの人は人間じゃないんだなという感想を抱いた所で生足によるミドルキックが脇腹に食い込んだ。
「ギャーーッ!なによなによこれ、どうなってんのよこんなん聞いてないわよーー!」
「そういえば言い忘れとったな。担当と対象者の組み合わせ次第ではこうなるんや。まあこれも仕事の一環ということで」
「納得できるかー!こんなんで幸運とかそれでいいのお前は!?」
大いに。ていうかこれつまり、SSレアを重ねていけばいずれは…ってことっすよね。即座にダメージから復帰しながらゴリゴリさんに尋ねる。
「まあ上手いこと重なればな。言っとくけどSSレアが出たらこれってわけやないからな。あと複数回すとその分幸運が減っていくことも忘れたらアカンで」
ぐぬう、そういえばそうだった。しょうがない、それじゃああと一回だけ。
「今の時代の人間ってのはどいつもこいつも皆こうなの…」
「健康な証拠やないか。ほなラスト一回な」
唸れ俺の運命力!先月30連ガチャで一万円分使って全部外れた俺の累積分の幸運よ今ここに!
気合とともにスマホの星にタッチすると、再びスマホから星が飛び出し、空中に静止する。そしてそのまま10の星に分裂…しない。そのまま蒼に、翠に、紅に、黄金と白銀に様々な色に輝き始め、その輝きの移り変わりが加速し始め、やがて色の境界を失い虹の輝きになっていく。
「な、なにこれ?さっき蹴った時に壊しちゃった?」
「こ、これはまさか…いやそんなはずが…」
そしてやがて光は収まっていき、しかし光球の輝きは未だに虹のままに手元に落ちてくる。手で触れるとそれは光球ではなく、形のある虹色の宝石になっていた。
「うおおおおおおーーーっ!ウルトラレア、シャイニングポーラスター大当たりじゃーっ!まさか儂の担当で巡ってこようとは!」
ゴリゴリさんが叫ぶ。やはりそうか。シャルロッテさんの完全なる御姿を拝見できなかったのは残念だが、このゴリゴリさんの興奮の仕方、これは内容も期待できる。
「坊主、よくぞ引き当てた!今こそ見せよう、シャイニングポーラスター10連ガチャ、その真価を!」
そう叫ぶやいなや、虹の宝石を手に握り天上に掲げるゴリゴリさん。それと同時にゴリゴリさんの体が更に膨張し、凄まじいまでのオーラが迸る。その奔流の勢いたるや凄まじく、着ぐるみは木っ端微塵に弾け飛び、ゴリゴリさんの中身である所のマッチョダンディが顕わになった。オールバックに纏められた艶のある黒髪と丹念に手入れされた口髭が貫禄を匂わせる。
静寂。
沈黙が空間を支配する。
えっ?まさか大当たりってこれ?
シャルロッテさんの方を見ると、シャルロッテさんもゴリゴリさんの方を見ながら眼と口を開いて固まっている。彼女も内容は知らなかったらしい。
「そう急ぐな坊主、ここからだ。ぬぅんっ!」
ゴリゴリさんの体から、さっきの奔流すらも比較にならない程の勢いでオーラが迸り始める。最早それは洪水に等しかった。
「あー大当たりってそういうことなのね。分かったわ、この姿になるのも随分久し振りね。」
シャルロッテさんの衣服も全て弾け飛び、同調するかのように高圧のオーラを放ち始めた。ゴリゴリさんのオーラが空間を満たすのと対極に、シャルロッテさんのオーラは地に満ち世界を支配していく。気が付けばマンションの壁も何もかも全て吹き飛んでいる。人間である俺は最早自分がどこに立っているのかすらも認識できない。あまりの衝撃に体を丸めて縮こまっていると、やがて自身の体に掛かる力が無くなり、浮遊感に包まれた。
「さあ坊主、眼を開けろ。折角の栄誉だ。見ないで終わるのは惜しいぞ」
「全くね、この姿を人間に見せるなんて、数千年以来よ。クリスマスプレゼントにしては奮発し過ぎじゃないかしら」
そう言われて目を開けると、そこは今まで見たこともない空間だった。最初に連想したのは宇宙空間だったが、その空間は伝え聞く宇宙の様相とは違い、白い光に満たされていた。しかし同時に様々な色に輝く星々が周り、流れ、巡行していて、その星の海は見渡す限りどこまでも続いていた。
「この世界を目にすることが出来るのは、本来ならば奇跡と偉業を成し遂げた聖人のみ。それを拝謁することが出来たのだ。これ以上の幸運は他にあるまい」
ゴリゴリさんの声がした方向に振り向くと、そこには居たのはマッチョダンディではなかった。黒曜石を思わせる漆黒の硬質の体に白い衣を纏い、背中には血色の真紅に染まった鳳凰の翼。右手には巨大なハルバードと左手には円盾を持ち、その盾の表面には何らかの言語による文字が刻まれている。天使、と思ったが少し違うようにも思える。
「けれど何の加護もない只の人間がこの空間に長く留まることは出来ないわ。出来得る限り目に焼き付けておきなさい」
シャルロッテさんの声で話すその存在も、またプラチナブロンドの美少女ではなかった。そこには肩から六本の腕を生やした女神がおり、それぞれに、珠、鎖、矛、杯、杖、鐘が握られていた。白磁を思わせる肌をエメラルドに輝く衣で包み、巨大な白い翼と4つの目を持つ大蛇に跨って居るように見えたが、下半身はその蛇と融合しているようだった。稲穂で編まれた冠を頭に載せ、髪は清流を思わせる、無限に透き通る蒼を湛えていた。
「完全に理解を超えているといった顔だな、まあ無理もなかろう。あまり長く留まると正気も消し飛ぶ。この世界に至るには、長い永い研鑽が必要なのだ。それこそ人の一生、一代では到底収まらぬ程にな」
「それでも諦めず、連ね重ね続ければ必ずここに届く。全ての道はここに続いているわ。人の、いや全ての存在はやがてここに至るための物。だから、運命を止めずに、また明日を生きなさい。この世界を知っている分だけ、そうでない人間より強く歩いていける筈だから。それではね少年。また、幾億の時の果て、大いなる御魂の元で逢いましょう」
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気が付くと、俺は自分の部屋に居た。ベッドの上だし、布団は被ってるし、壁は相変わらず白無地の殺風景で、電灯はそろそろ切れそうで最近掃除もしてないからカバーに埃も溜まっている。ベッドの反対側の壁には28インチ程度の型落ち薄型テレビが鎮座ましましている。スマホを見ると、日付だけは12月25日だった。冷蔵庫を開けると、賞味期限切れになったモンブランとチキン南蛮が仕舞われていた。
…まあ、夢だわな。意味分からんけど。せめてエロい夢だったほうがまだしも得した気分になれたというものだが。だがまあそれはそれとして、取り敢えず諦めかけてた単位をきちんと取るために、教授に土下座でもしに行くか。あと、レンタル屋によってスターウォーズも借りられるだけ借りて、見終わったら最新作を映画館に見に行こう。それで、吉川さんと店長とシフトが重なった時に、スターウォーズの話を振ってみよう。きっと面白いことになると思うのだ。