That's My Style
短めですが、更新です。
北の大地は冬がはじまるのも早いです。
樹里はその準備をします。
取り立てて何かが起きるわけではないのですが、それが一番楽しいのかもしれませんね。
二日酔いの朝、耕助が重い頭と胃袋を抱えながらリビングに行くとまだパジャマ姿の樹里が自分で作ったホットミルクを飲んでいた。
「お、はよう…」
「おはよう。だいじょうぶ?」
「ああ。たぶんな。」
いつもの椅子に座った耕助はこうなるだろうと予想して買っておいたスポーツドリンクを煽った。
「…やめる?」
「いや、行かないと。樹里の冬服がないだろう。」
「そうだけど……」
「大丈夫だ。昼前には行ける、と思う。」
不満は漏らさないが、呆れたような表情の樹里は二人分のトーストを焼きはじめた。
「なんか、ふわふわした白い虫が飛んでる。」
樹里の目の前には粉雪のように白く小さな虫が風に流されるように飛んでいた。
「ああ、雪虫っていうんだ。これが来るともうすぐ雪が降るんだ。」
「へぇ〜。すごいのね。お知らせしにくるんだ。」
「ああ、口を開けて歩くなよ。不味いからな。」
「食べないよ!?」
驚いたように大きな声をあげ、樹里は耕助から借りた薄いマフラーを口元に持って行った。
耕助は駐車場には向かわずにそのまま道路に足を向けた。
「車で行かないの?」
「駐車場が混むからな。地下鉄で行ったほうが早いよ。樹里はまだ地下鉄には乗ったことないだろう?」
「うん。」
耕助の後ろを慌てて樹里はついて行った。
10月を過ぎた頃だが、吐く息はうすく白いもやのように霞んで見えた。バスステーションに併設された地下鉄駅に入った二人は大通駅へ向かう白い地下鉄に乗った。
「どうだ?」
「…よくわかんない。」
「そうだよなぁ。まあ、こんなもんだ。」
二人はひとまず、老舗のデパートに向かった。地下街の店を眺めながら歩いた二人は大きなガラスでできたケージの中に飼われているおうむたちを眺め、デパートの地下の入り口に向かった。
耕助はまっすぐに子供服売り場を目指した。
特にブランド志向ではないが、いいものを選ぶ手間を省くにはしっかりとした評判のある店を選ぶに限る。そしてその保証料が含まれているのだから、ある程度は納得して買う。これが耕助の服の選択基準であった。
プラス、自分の趣味じゃないものは着たくないよなぁ。
耕助はある意味、快楽主義者である。積極的に求めるわけではないが、自分の基準に合わないものは選ばないし、それを選択するとどうしても高くつく。そういう意味で自分の趣味を優先するから、快楽主義者である。
それが、自分だけなら問題はないだろうが。
「こっちの方がかわいいと思うの。」
「かわいい、かもしれないけど…お姉さんじゃないよな。」
口ごもった耕助の目の前に樹里が掲げた服はショッキングピンクにラメのロゴ、肩の部分が露出している。冬に着るにしては露出が高いことはさておいて、色が派手すぎて耕助の基準から外れてしまった。
「ん〜、そうかなぁ?」
「もうちょっと見てみようぜ。」
「ん。」
うなずいた樹里は耕助の後に続いた。
耕助が覗いたショップはパリのブランドでシックな色使いが売りだったが、子供にすると地味にうつるものだった。
「これなんてどうだ?」
灰色のニットケープはお揃いの帽子と合わせると同年齢より大人びた表情の樹里によく似合っていた。ただ、似合いすぎて大人のような雰囲気を醸し出していた。
「なんか、地味?」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。学校でもみんなきれいな色の服を着ているもん。」
「でも、きれいだよ。」
樹里の頬に紅が差したように赤くなった。
「…これにしようなかぁ。」
「いいよ。」
「うん。」
耕助は樹里にケープと帽子を求め、他のショップでセーラーカラーのコートを買った。
二人は昼食をデパートのファミリーレストランに決めた。
樹里は満足そうに何度も自分の服が入った紙袋に目を送った。
「あなたは何か、買わないの?」
「俺は、別にいいや。ああ、そうだ、靴も買わなくちゃいけないな。長靴だって必要だし。」
「いがいと物入りね。」
「北海道は大変だぞ。福岡なんて天国だからな。」
「でも、ご飯はおいしいよ。」
樹里は煮込みハンバーグシチューのハンバーグを頬張った。
「ふとるぞ。」
「うぅ、あなたって、いやな人。」
「嘘だよ。背も伸びているし、大丈夫だよ。」
「…しらない。」
耕助と樹里は靴売り場に向かい、編上げの茶色のブーツと真っ赤なラバーブーツを求めた。
「燃料手当が吹っ飛んだな。」
「えっ?」
「なんでもないよ。」
耕助は樹里の肩を抱き、地下鉄駅へと向かった。
「飯がつまらん。」
「我慢しろよ。」
朝食のおかずが代わり映えしないことに耕助の父親が文句をつけたが、耕助は背中を向けて返事をした。