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夜とあなたと音楽と

 少し貯まりましたので、投稿いたします。


 耕助の友人たちとのホームパーティー。


 樹里にとっては決戦の土曜日です。


 ライバルは??

 そして、土曜日が来た。

 耕助と樹里はいつも通りに起きたが朝から大忙しだった。

 少しずつ片付けていたとはいえ、当日まで使っているリビングやキッチンなどは朝のうちにきれいにしたい。

 いつもは最低限の人数だけが座るようにセッティングしているテーブルは使用しないで、折りたたみの大きな座卓を広げるために掃除機をもう一度かけなおした。

 樹里はその横で埃を吸い取る使い捨ての羽ぼうきで家具に積もった埃をとっていた。

 「いつくらいに来るの?」

 「十時くらいに電話が来る予定だ。来たら、俺は迎えに行くから。頼むな。」

 「わかったよ。でも、ウチっていつもけっこうきれいだと思う。」

 「樹里の手伝いもあって確かにそうだけどな。世話の焼ける父親がいるからって多少汚くしていてもいいと思われるのが嫌なんだよ。」

 「みえっぱり。」

 小さく呟いた樹里の頭に耕助の右手のひらが乗っかった。

 「聞こえているぞ〜。」

 「やめてよ〜。」

 抵抗の声を上げるが、樹里は嬉しそうだった。

 

 到着のメールが入り、耕助は外に出た。

 樹里は自室に戻り、埃のついた部屋着から耕助が買ってくれた明るいグレーの箱スカートと青のセーターに着替えた。鏡を覗き、もう一度髪にブラシを入れ、顔をチェックした樹里は笑顔を作り、扉のノブに手をかけた。

 

 リビングには耕助とともに男女二人がいた。

 男性は耕助よりもおちついた丸顔の男、女性の方はショートカットのパーマが大人の女性の印象をあたえた。

 「こ、こんにちは。」

 「おおぅ。こうちゃんに似ていないな。」

 「ああっ!! かわいいわねぇ。」

 二人の近づいている勢いで、樹里は後ずさりをした。せっかく作った笑顔がこわばった。

 「ほら、おっさんとおばさんに樹里が怖がっているだろう。」

 「そんなことないわよね。」

 樹里の目の高さに合わせた女性が同意を求めてきた。ふわりと女性の香水の香りが樹里を包んだ。樹里は鼻をしかめた。小首を傾げた女性は耕助と同じ歳のはずなのに、ほおが赤ちゃんのように柔らかそうで目尻のチリメンのようなしわがかわいらしい。

 「お前ら、自己紹介がまだだろう。」

 「あら、ごめんね。わたしは茨木智奈っていうのよ。耕助の友だち。」

 「俺は尾形悠次郎だ。この二人とは同級生だ。」

 「は、初めまして。樹里って言います。」

 耕助が樹里のそばに行き、背を押してリビングの座卓に向かわせた。耕助と緊張した面持ちの樹里は座布団の上に座った。尾形は耕助の隣に腰を据えた。樹里はふと立ち上がり、自分の椅子に置いてあるクッションを持って戻り、それをお腹に抱え込んだ。

 智奈はキッチンに向かい、下ごしらえして持ってきた素材を使って料理をはじめた。耕助と悠次郎は樹里をはさんで座った。

 「こうちゃんの姪っていうことでいいのか?」

 「ああ、そうだな。」

 樹里もうなずいた。

 「こいつ、いいやつだろ?」 

 「うん。」

 「仲良くやってくれな。」

 「もちろん。」

 「どこから来たの?」

 「博多です。」

 「こっちは寒いでしょ?」

 智奈はキッチンでグラタンを作りながら声をかけた。

 「うん。でも、耕助さんが服を買ってくれたし、こんどいっしょにコートを買ってくれるって。」 

 「耕助さん? こうちゃん、耕助さんって呼ばれているのか?」

 「あっ、いや、俺を呼ぶときは…」

 「あなたじゃなかった、おぢさんって呼んでいると言えばいいんだっけ?」

 悠次郎はともかく、智奈も振り返って耕助を見つめた。

 「ゆ、言っておくけど、樹里が自分で言い出したんだからな。」

 「こうちゃんが変な趣味に目覚めてしまったのかと思ったわ。」

 キッチンのカウンターに智奈の料理が並んだ。チキングラタン、シーザーサラダ、オニオンスープ。そして、

 「もう少しでパスタができるわよ。ソースはボロネーゼよ。」

 寸胴鍋からもうもうと湯気を立ててパスタをザルにあげた智奈はあらかじめ、レンジで温めてあったソースをボールにあけ、パスタと絡ませた。

 耕助は立ち上がり、料理を運んだ。悠次郎も持ってきた赤ワインを開けた。樹里は耕助を見上げると彼は冷蔵庫から「ふらのぶどう果汁」と書かれたラベルのジュースの入った瓶を持ってきた。 

 「気分だけな。」

 「うん。」

 耕助を見上げて、嬉しそうな笑顔を見せた。

 「じゃあ、かんぱ〜い!」

 「かんぱ〜い!」

 ささやかなホームパーティが始まった。

 智奈は樹里の皿に取り分けてあげている。樹里は耕助を見上げた。耕助が頷くと箸を手に取り食べはじめた。悠次郎はワインを傾けた。

 「仕事はどうだ?」

 「ぼちぼちかな。今日は子供はどうした。」

 「うちは奥さんの家に行っているよ。智奈のうちはどうした?」

 「うちはもう大きいもの、友達と遊びに行っているわ。」

 樹里は話を聞きながら、智奈の様子をうかがっていた。耕助から酌を受けたグラスがあっという間に空になる。口も手も忙しく動きながら、笑顔を浮かべて樹里の皿が空くとすぐに何が欲しいかと聞いてくれる。

 かしこまって差しだした皿を受け取った智奈の左の薬指には細いリングが光っていた。

 「い、いばらきさんて、結婚しているの?」

 「そりゃ、子供がいるし。」

 「あっ、そうだよね…そうなんだ。」

 「なぁに? 耕助の彼女かと思った?」

 真っ赤になる樹里に大人たちが笑った。


 飲みすぎてゴロ寝を決め込んでいる悠次郎と智奈にブランケットをかけて、耕助と樹里はキッチンで洗い物をしていた。

 「おいしかった。」

 「そうか。俺は洋食はちょっと苦手だからな。」

 「だから、あっさりしたのが多いのね。」

 「今日みたいなのがいいか?」

 「ううん。あなたにまかせる。」

 樹里は皿を拭く手を止めて、耕助を見上げた。

 「そうか。食いたいものがあったら、遠慮なく言えよな。…できるか、どうかは別だけどな。」 

 「うん。」

 「なんだか、嬉しそうだな。」

 「別に。…そういえば、あなたとはじめて会った時、ふられたって言ってたもんね。」 

 「いま、それを蒸し返すのか? 樹里、おまえは地味にひどいやつだな。」

 耕助は思わず大きな声をあげた。

 「なあに? 結局振られたの?」

 「聞こえていたのか? ああ、相手にもされなかったよ。」

 肩をガックリと落とす耕助の背中を悠次郎がその大きな掌で叩いた。

 「この歳でふられるとつらいよな。よし、飲みあかそうぜ!」

 「うるさいぞ。これが終わったら行くから待ってろ。」

 「えぇ〜? まだのむの?」

 「まあまあ、樹里ちゃん。耕助にとっては一年越しの片思いだったんだからな。」

 「よけいなことは言うな!」


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