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Sentimental Journey

お久しぶりです。


気がつけばこんなに間が空いてしまいました。


|壁|’Д’lll)ァ゛。。ゴメンナサィ・・。

 卒業シーズンを過ぎ、春休みまでぽっかりと気の抜けたような平日が続いた。

 春分の日も過ぎ、樹里の生まれた地方では春の足音が聞こえはじめ、山のものも冬眠から覚める頃合いになってもまだこの土地は雪深く、当たり前のように朝晩は氷点下の気温で、冬眠から覚める気配はみられず、そして耕助の父の目も開く様子は見られなかった。

 一頃はときおり目をあけて、耕助や樹里に目を合わせることもあったが、群発して発作が起こり、それ以来、かすかに上下する胸の動きだけが生の証だった。

 樹里は母の時とは違い、祖父のお見舞いにはあまり行きたがらないようだった。耕助についていっても病室には入らずにロビーで待っていることが多く、耕助も無理をせず、最近は一人でゆくようにしていた。


 「はぁ?」

 以前の同僚の言葉に耕助は呆れたような返事をした。

 「お前、俺はこっちの支社にいるんだぞ。なんで本社の営業方針会議に出にゃいかんのよ。」

 「たまには違った奴の意見が聞きたいのさ。お前も久しぶりに東京に出てこいよ。そっちの小学校も春休みなんだろう?」

 電話の向こうで勝手な言い草をのたまうから、受話器を叩きつけてやろうかと思っていたが、どうやら本当に決定事項らしく、耕助は肩を落とした。

 冬休みをはさんで、耕助に樹里を一人で留守番をさせる踏ん切りがついたため、彼女にメールを送り、父親の病院に寄ってから帰宅した。

 「おかえり。」

 「ただいま。」

 暖かい家では樹里が白菜の味噌汁を作って待っていた。たまたまいた看護師長と話し込み、遅くなってしまったが、樹里は怒っている様子もなかった。

 「先に風呂に入っちまうぞ。」

 「どうぞ。」

 

 身体が冷えきり、ぬるめのお湯でさえ針に刺されたようにヒリヒリと熱く感じるシャワーで体を温めてから、ゆっくりとお湯に浸かった耕助がリビングにでると焼いた紅鮭と水菜とシーチキンの和え物、そして白菜の味噌汁ができていた。

 「うまそうだな。」

 「んっふふ。」

 自慢げな樹里は自由研究で作った自前のカフェエプロンをほどき、耕助の目の前に座った。

 「レンジで魚を焼くことができるのを買ってよかったね。」

 「ああ。」

 耕助は北海道限定のビールの蓋を開けた。プシュという炭酸ガスが抜ける音がし、手酌でグラスに注ぎ、一息で飲み干した。

 深いため息が漏れた。

 「ちかっぱおいしそうやね。」

 「あぁ、うまいな。」

 「今日はおぢいさんのとこよったん?」

 「うん。来週に出張が決まってな。」

 「…どこ来るの?」

 「来る? 来るんじゃない、俺が行くんだ。」

 「うちんとこ、来るちゅうんの。来るのはきんしゃー。」

 「あ? ああ、なるほどな。あぁっと、東京だ。と・う・きょ・う。木曜日に前乗りして月曜日に帰ってこようと思う。」

 「じゃあ、その間、うちはどうすればいいん?」

 「ああ、俺と一緒に行こう。たまにはいいだろう。」

 「いかんやろぉ。お仕事なんやろ。」

 「俺の分は出張費で出るけど、樹里の分は俺が出すから大丈夫。春休みに入っているだろう。」 

 「そうはそうだけど…お仕事なんやろ? もうちょっと真面目にしちゃわんと。」

 「姪から説教される日が来るとは。」

 「あぁん?」

 「ともかく、そう言うことだからな。」

 「ん。姐さんにもちゃんと言っちいといてね。」

 「あっ!?」

 


 「うちもついてゆきたぁ。」

 何度目かの由貴の不満に助手席の耕助は苦笑を浮かべた。

 すっかり慣れた耕助の赤いアルファロメオのハンドルを握った由貴は二人を千歳の空港まで送るためにここだけすでに雪のなくなった道央自動車道に向かっていた。

 「いまはうちだけでごめんなさいでしたぁないね。」

 「次はうちがこうさんとしっぽりと温泉でゆっくりとさせていただきますえ。」

 「姐さんは子どもを置いてゆくっち? それ、虐待って言わんと?」

 「樹里ちゃんはもう、おねえさんでおすしなぁ。お一人さんでもさみしいなんて、言うわけないない。」

 「ははは。ついたらメール入れますね。」

 「どこのホテルって言うてはりましたっけ?」

 耕助は本社とカメラ部門のショールームにほど近い銀座でもリーズナブルかつ女子向けのホテルの名前を教えた。

 「樹里と一緒だと言うと総務の子がここを紹介してくれてね。」

 「こうさんの会社での交流関係に関しては、また、後ほど、ゆっくりと、お聴かさせていただきたいと思うておりますが、銀座ですか? よろしいおすなぁ。樹里ちゃんはどこにゆきたいと思うてはりますの? やっぱり、遊べるところがよろし?」

 「うち、耕助さんとのんびりしたい。」

 「まあ、主に仕事だからなぁ。近場しか連れてゆくことができないだろうなぁ。」

 「うん、そないなら、今度は三人でどこかにゆきまひょ。」

 

 飛行機は無事に定刻通り成田に着いた。

 昼過ぎにはホテルに入ることができ、二人はとりあえず楽な服装に着替えをして、ベッドの上で伸びをした。

 気の抜けたため息ともあくびともつかない声をあげた。

 「晩御飯はどうするの?」

 う〜んと耕助はうなりながら、スマートフォンで検索していたが、少し離れた所のおでん屋にすることに決めた。

 夕暮れの銀座の街はやはり華やかで、樹里は顔こそ動かしこそしていないが、目をキョロキョロとさせていた。ワンピースの上に襟と袖ぐりにファーのついたダブルのキルティングコートを羽織った樹里は、チェスターコートの耕助の左腕をとった。

 「芸能人とかいないかな?」

 「さあね。こっちで働いていた時はよく通ったけど、気がつかないなぁ。」

 「あなたはあんまり興味がないよね。」

 「そんなわけじゃないけど、あんまり見るのも失礼だろ?」

 「そうかも。」

 「思ったより寒い。」

 「ん? 乾燥しているからだな。おでんが美味しいぞ。」

 「なんでおでん?」

 「そりゃ、うまいからだな。」

 「ふぅん。」

 耕助の言葉通り、その店のおでんは樹里をとても満足させた。


 次の日、耕助は仕事に向かい、樹里はホテルで留守番をすることになった。

 久しぶりの本社出勤に耕助は一度道を間違え、ついたのはギリギリだった。

 会議には中部と関西、九州の支社からも来ていた。本社のプレゼンテーションを聞いているうちに薄々と感じた違和感が疑問になり、確信へと変化した。

 「統合するんか?」

 「…知らなかったのか? そっちの方が驚きだ。」

 隣に座っていた同期の坂本がささやいた。

 「少なくとも、俺にはおりてきてないはなしだ。」

 「合理化だとさ。カメラと光学で分けているのは日本だけらしいからな。」

 「家賃の支払いが楽になるな。」

 「それだけで済みゃいいけどな。あとは飯の時間にでも。」

 耕助は頷き、年下の社員のプレゼンテーションに意識を戻した。

 昼になり、ささやかな同期の食事会となった。耕助と坂本の他に関西支社の友里が来ていた。彼女の近況を聴きながら、松花堂弁当をつまんでいた耕助だったが、樹里は今頃ホテルのレストランで一人飯だろうなと思うとかすかに胸が痛んだ。

 「おい、姪っ子はどうした?」

 「聞いたわよ。引き取ったんですって?」

 「ああ、今頃、ホテルで飯を食ってると思うぞ。」

 「ダメじゃない!? 連れて来なさいよ!! 心配じゃないの!?」

 友里の非難に耕助は眉をしかめたところにスマートフォンが振動した。取り出すと樹里からのメールだった。

 「はじめの頃はな。どう付き合っていいかわからなかったけど、意外としっかり者だってのがわかってな。ほら。」

 耕助は二人に樹里からのメールを見せた。そこには写真が添付され、レストランでテーブルの上のオムライスと一緒に写っている樹里の姿があった。

 「こんな可愛い子を一人にさせて。連れてきてよかったのよ。」

 「保育所って赤ちゃん向けだろ?」

 「応接室にいても誰も文句なんて言わないわよ。」

 「そうか。失敗したな。どっちにしても会議が終われば、そのままホテルに戻るからな。」

 「私も今日中に戻らなくちゃいけないから、夜は無理ね。」

 「そう言うと思っていたから、昼に誘ったんだろ。それと耕助、カメラ部門との統合で人員の合理化の検討もあるんだ。支社の現地雇用扱いは不利だぜ。」

 耕助は坂本の言葉に大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 「マジか。樹里のこともあるし、それはまずいな。」

 「お父様はどうなの? ご病気だったんでしょ?」

 「この間、また卒中が起こってな。かなり重い。」

 「大丈夫なの?」

 「…一応、顔を出して、確認した。樹里も続けてだから気分転換もかねて連れて来たんだ。坂本から来いと言われて、ナンダコノヤローって思ったが、来てよかったよ。昨日は銀ブラで喜んでくれた。」

 「だろ。あとは早く結婚しちまえよ。聞いてるぞ。谷崎さんと会食したんだってな。」

 「えっ? 娘さんと付き合ってるの? 私たちとは結構離れているわよね。」

 「坂本もそうだけど、友里もどうして詳しいんだよ? 」

 「営業はねぇ。新鮮な情報が命ですもの。」

 「うっせぇよ。したり顔で言うんじゃねぇ。」

 「あの爺さんも意外と気に入ったようだぞ。」

 「お前もうるせぇよ。樹里からはお付き合いにオーケーをもらったけど、二人とも仲がいいんだか、なんなんだか、わからネェよ。いっつも互いの内角ギリギリを攻めるような会話ばっかりしやがる。」 

 「京女に博多娘か。俺なら胃に穴があきそうだ。」

 「そんな地方のイメージで語るのやめてくれる。いちおう、私も京女なんだからね。」

 「だから言ってる。」

 「ほぉ?」

 「話を戻すけど、雇用契約なんかそんなに簡単に変えられるのか?」

 「お前が東京に戻るか、関西にゆくか、覚悟を決めてくれるなら、なんとかしてやれる。」

 「東京はわかるが、なんで関西だ?」

 「大阪に直営のショップがあったでしょ? 京都にギャラリー併設のショールームを作る計画があるのよ。大きくないけど、ブランドイメージを前面に出していくのよ。」

 「なるほどなぁ。」耕助は大きな背中を伸ばして背もたれに寄りかかった。「正直、親父は家に帰れないだろうと思う。樹里は、やっと慣れて友達もできたんだ。また転校はちょっと俺からは言い出しにくいな。由貴さんはまあ、地元に戻るわけだから嫌な顔はしないと思う。 …たぶん。」

 坂本はニヤニヤしながら、お吸い物に手を伸ばしたが、耕助はそれを無視した。

 「子供の転校ってデリケートだものねぇ。うちも大変だったわ。」

 「うちにもショールームを作ってくれるっていうなら万々歳だけどな。」

 耕助の言葉に友里が少し考え込んだ。

 「それもありかもね。」

 「そうか? 客は少ないと思うぞ。」

 「いえ、ちょっと前に海外の観光客向けに北海道と京都をセットでセールスするニュースを見たんだけどね。」

 「ああ、あったな。春と秋は京都へ夏と冬は北海道のリゾートへってやつだろう。」

 「うん。今、自然やスノーリゾートで海外の人は来るんだから、自然をテーマにしたギャラリーでって考えると少しありかも。」

 「…よし、耕助の宿題ができたな。企画書を提出してくれ。」

 「なぜ坂本に命令されなくちゃいけない。」

 「嫌だったら、俺よりも偉くなってみろ。」

 「うるせぇよ。俺は出世とは違うところに価値を見出したんだ。」

 「家族を養うんだったら、そんなことも言ってられねぇよ。」

 「そこそこもらっている程度で十分だ。」

 「そのうち樹里ちゃんのおねだりがクラスアップしていくぞ。」

 「やめてくれ。もう今だってかなりなもんなんだ。着道楽だったよ。」

 「自分の可愛さを知っている感じだもんね。」

 耕助は大きなため息をついた。

耕助は同期にはこんな感じです。あと友里さんは名字です。


はじめは樹里が受け入れられずに耕助と喧嘩するところから書き出したのですが、ちょっと深刻になり過ぎまして、考えていたら先に進まなくなってしまいました。


本当にすみませんでした。

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