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スターダスト

 今年のしし座流星群はあまり見えないそうです。

 北海道のこの時期の星空はとてもクリアです。


 今では両親の絵とか仕事に関してはタブーのようですね。なかなか難しいですね。


 樹里はそれまで父親はいませんでしたが、気にしたことはありませんでした。


 耕助という存在がいろいろと彼女のあり方を変えているのかもしれません。


 職場では耕助ハーレムっぽいですが、南雲さんもちゃんと彼氏はいます。

 あと、永倉も彼女がいます(笑。


 玉川さんは自称、彼氏持ちです。確認した人はいません。耕助は知っているかもしれません


 といったところで。


 そろそろ人物紹介を入れようか考えています。


 「ねえ、あなたの仕事って?」

 「んん〜?」

 ベッドの上で二人でごろ寝しながら、尾道の中学生が神様になってしまうアニメを見ていたところに突然の質問が降ってきた。

 風邪はすっかりよくなったようで、昼休みは走り回っていたと話してくれた。

 耕助は元気になったなぁと考えながら、適当に答えた。

 「会社員だよ。」

 「それは知ってる。」

 「あぁ〜、ええっと、営業だ。物を売る仕事だな。」

 「どんなの?」

 「やけに深く聞いてくるな。どうした?」

 「もうすぐ、勤労感謝の日でしょ。授業で聞かれるの。」

 「ああ、なるほどな。ええっと、ちょっと待て。」

 耕助はベッドから降りて、小さなベトナム製のフレンチコロニアル風な棚からカメラバックを取り出した。その中には耕助がよく樹里を撮影する中判のフィルムカメラが収められている。

 「ここが俺の会社だ。」

 耕助が樹里に指差したのは無骨なロゴで書かれた英字の会社名だった。

 「ふぅん。カメラを売ってるの?」

 「カメラはまた別の会社でやっている。俺たちはレンズを使った商品を売っている。例えば、研究所で使うような顕微鏡のレンズや測量っていって、土地の大きさを測るときに使うような機械なんかだ。あとはオーダーメイドも受け付けるぞ。」

 「…よくわかんないけど、おもしろい?」

 「あぁっと、び、微妙?」

 「なんでびみょうなのに、続けているの?」

 「いろいろとな。北欧の会社だから休みとかも多いし、給料や待遇もいいし…、ま、まあ、いろいろといいこともあるんだ。」

 「なんとなくわかった。」

 耕助は胸をなでおろし、樹里と一緒にビデオをまた見はじめた。

 

 取引先へ提出する見積もりを書くことに飽きた耕助は肘をついて画面を見ているふりをして、社内を眺めていた。いつも口うるさい永倉は営業に出ていない。南雲と水無も何やら書類を作っている様子だ。

 アダプターのチームはミーティングに行くようだ。

 メンテナンスやら納品した光学機器の調子を見に外回りでも出てくるかなと考えている時に、視野の端で動くものを捉えた。

 南雲と水無が壁の一面が書類庫になっているところに行き、昔の書類を引っ張り出そうとしていた。背が届かないのか、手短の回転椅子を引き寄せてその上に南雲がパンプスを脱いで上がった。

 「あぶなっかしーなぁ。」

 手伝おうかと考えて立ち上がろうとした時、南雲の腰からのラインが悩ましいタイトスカートから伸びる黒いストッキングに包まれた脚線美が耕助の目に飛び込んだ。

 何度か、目をしばたたかせて、二人に歩み寄った。 

 「南雲さん、降りな。かわるよ。」

 「いえ、もうすぐで、とれまっ…あっ!」

 南雲の乗っている椅子がくるりと動いた。

 驚いた南雲は目をきつく閉じて、予想される衝撃に身を硬くしていたが、暖かく、がっしりしたものに支えられていることに気がつき顔を真っ赤にした。

 バランスを崩しそうになった彼女の腕を耕助はとっさに引き寄せ、南雲を両腕で抱えたのだった。

 耕助は苦笑して彼女をやさしくおろした。

 「す、すみませんでした。」

 「怪我は?」

 「大丈夫だと、思います。」

 「なんともありませんでしたか?」

 気がつけば、ミーティングルームに行こうとしていた玉川たちが散らばった書類を集めに戻って来てくれた。

 「す、すみません。」

 「すごいですね。土方さんはやっぱり力がありますね。」

 感心するように目を細めた玉川が耕助に声をかけた。

 「ん? ああ、まあな。」

 「ラグビー部でしたっけ? やっぱりすごいですね。お姫様抱っこなんて、わたしはじめてされました。」

 「あれ、そうだったんですか? 知りませんでしたよ。」

 「玉川さんもご存知だったから、そういったんじゃないんですか?」

 「わたし、知らないよ。南雲さん、よく知ってるね。」

 「じゃあ、どうして土方さんが力持ちだって知っているんですか?」

 不思議そうに尋ねる自分のチームの若い社員に玉川は少し考え、耕助にちらりと目を向けた。 

 「秘密ですよ。」

 少女のようにいたずらっぽく微笑んだ玉川に耕助の胸は鼓動を早くなった。

 「玉川! お前、誤解されるようなこと言うなよ!!」

 「ええ? ちょっと気になるじゃないですか!?」

 うふふと笑った彼女は空いているデスクの上に拾った書類を置いた。

 「さぁ、みなさん、ミーティングをすましましょうか。」

 「ええ?」

 「ちょっと。」

 玉川は答えずにミーティングルームに向かった。

 残された耕助を二人の後輩がじっと見つめていた。

 ためらいがちの咳払いもこの空気を変える訳には立たなかった。耕助は右手で顔を覆った。

 「勘弁しろよ。なんでもないんだ。」

 「気になりますよね。ね、水無さん?」

 「わ、私は、べ、別に…土方さんも、玉川さんも大人ですから。」

 「あぁ…そ、そうだよな。で、でも、特になんもないぞ。」

 「じゃあ、話してもいいんじゃないですか?」

 「玉川に聞けよ。俺にもどの話か、わからんからな。」

 「そんなにあるんですか!?」

 「水無、声でけぇよ。南雲さん、俺、ちょっと外回り行ってくるわ。もう少ししたら永倉が戻ってくるからな。」

 耕助は脱兎のごとく逃げ出した。


 精神的な疲労が多かった今日の仕事を終え、耕助が児童館に樹里を迎えによると深くかぶった帽子で顔を隠すように樹里がやってきた。

 耕助の左手を両手で包むようにぎゅっと握りしめた樹里は口を開かない。

 困った様子の耕助に児童館のスタッフが声をかけた。

 「今日は、その、ちょっとふさぎこんでいました。お友達も特に理由がわからないって。」

 「そうでしたか。ありがとうございました。」

 樹里は黙って手を振ってスタッフに別れを告げた。

 マンションまでの道中、樹里は口を開かなかった。

 どうしたものか。

 重苦しい空気が二人の間をゆっくりと流れた。

 「ねぇ。」

 つぶやきと間違えそうの小さな声に耕助は歩みを止め、樹里の目の高さまで腰をおろした。

 「どうした?」

 「わたしのおとおさんって、どんな人だったの?」

 「…なんか言われたのか?」

 「おとおさんの仕事のはなしになって、あなたの仕事を言ったら、あなたはおとおさんじゃないって言われた。」

 「……そうか。」

 学校だろうか?

 しかし、今はいろんな家族の形があって、うかつに父親は働く人という固定観念で授業は行わないはずだろう。耕助は追及をしたかったが、樹里はそんなことを求めていないことも何とは無しにわかった。

 ためらいがちの質問はあまりに当然なものだった。

 「どんな人?」

 「大人になってからはあまり会わなくなったけど、真面目なやつだったな。仕事は牛乳やチーズを売る会社で経理をしていた。」

 「マジメなのに、おくさんが二人いたの?」

 痛いところを突いてくるな。樹里の母親なら知っていたかもしれないが、そのことを今いうわけにもいくまい。

 「俺も、そこはわからん。」

 「そうなんだ。」

 九州の義理の姉や彼女の弁護士からも将来的には選択肢の一つだと言われ、時折考えていたことを耕助は口にした。

 「なぁ、樹里、俺とお前が親子になるって…」

 「それはいや。」

 耕助がつかえつかえ口にした言葉を遮るように樹里は首を振った。

 「…どうしてだ?」

 「それは、いやなの。ゼッタイ。お母さんも反対していた。」

 「そうなのか。」

 樹里は首を縦に振った。

 どういうつもりだか、わからないが故人の意思なら尊重すべきだ。耕助はうなずいた。

 「そうしたら、この話はもうこれで終わりだ。俺からはもう言わない。ただ、樹里が不便だと思ったら、いつでも言ってくれ。」

 「そんなこと、絶対言わないよ。」

 「絶対なんて、絶対ないんだ。俺はお前のことを一番に考えている。お前のためならなんでもする。」

 耕助の言葉に樹里は目を見開き、そして耕助に背を見せて空を仰ぎみた。冷たい空気の奥に星が一つ流れた。

 「…ずるいよ。」

 振り返った樹里は大きく腕を広げて耕助の首に飛びついた。耕助はそのまま、樹里を抱き上げた。

 「お前を一生、守ってやる。」

 そんな言葉が口をつきそうになり堪えた。それを言うのは、樹里の夫となるやつだけだ。腹がたつが、俺が言っていい台詞じゃない。

 耕助はその代わりに樹里を強く抱きしめた。


 それから二、三日が経ち、耕助の寝室でのいつものダラダラとした雰囲気でいた樹里が突然正座をして耕助に両手を差し出した。その手の上にはオレンジ色のいろがみの手紙が載っていた。

 「俺にか?」

 「うん。」

 耕助も樹里と対面になり、正座をしてそれを受け取り、開いてみた。


 「あなたへ

 

      いつも、お仕事、おつかれさまです。

      すっごく、すごく、すご〜く大好きです。

      これからも、よろしくおねがいします


                             樹里 」


 いろがみは何度も下書きを書いて、消しゴムで消した跡があった。

 字のうまい樹里だったが妙に筆圧が高く、ぎこちなかった。

 シンプルで、でも想いが詰まった言葉が並んでいた。

 やべぇ、めちゃくちゃ嬉しい。

 「生きてて、よかった。」

 「えっ?」

 「な、なんでもない。なんでもないよ。…ありがとうな。大事にする。」

 「手紙より、わたしを大事にしてね。」

 「お前のそういうところが、小悪魔だっていうんだよ。なんか、がっかりしたぞ。」

 ニヤニヤと笑いながら樹里は耕助に寄りかかった。


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