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Just you, Just me

 甘いものはちょっとだけ。


 樹里のたたかいは終わり、ご褒美の時間です。


 11月は少し忙しいので、更新頻度を下げようと考えています。

 もう少し文章やプロットを練りたいですし。


 ではでは

 樹里は口を開けて待っていたが、返ってきたのは「甘えるな。」の耕助の一言だった。

 「いぢわる。」

 「すっかりよくなったな。これから学校に行くか?」

 「ほんとにいぢわるなんだから。」

 樹里は自分で木匙を取り、耕助の作ったおじやをすくった。まだ熱いそれをふうふうと冷まして小さな口に運んだ。

 「おいしい。」

 「だろ。風邪を引いたときに俺の母さんがよく作ってくれたんだ。」

 「…おばあちゃん?」

 「樹里にとってはそうだな。」

 「そう…パン粥よりおいしい。」

 「あれは、…ん、まぁ、そうだな。」

 二人は樹里の部屋で遅い朝食を取っていた。

 樹里は耕助の布団の上で自分のベッドに寄りかかりながら、耕助はその横でコーヒーを飲んでいた。

 「あなたは、お腹すいていないの?」

 「少しな。樹里が食べ終わったら、食べるよ。」

 うなずいた樹里は少し考えていたが、土鍋から一口すくい、耕助にその木匙を向けた。

 「あ〜ん。」

 「いいよ。気にするな。」

 耕助は断ったが、樹里はそのまま腕を上げ続けた。耕助が顔を背けても樹里の手は追ってきた。 

 ため息をつき、肩を落とした耕助は目を閉じて口を開いた。

 「はい。」

 口に差し込まれた匙に盛られたおじやは昔なつかしいやさしい味だった。

 「おままごとみたいだな。」

 「わたし、あんまりしたことない。」

 「俺もだよ。さあ、早く食べろ。」

 樹里はうなずいて、自分の口に運びはじめた。三分の一程度を食べたところで、腹が満ちたようでごちそうさまをした樹里は咳止めの薬を飲んだ。

 「歯みがきにいく。」

 「立てるか?」

 樹里は立ち上がり、おどけたように首と体を揺らした。

 「じゃあ、これを片付けてくるか。」

 樹里は頷き洗面台へと向かった。そして耕助はキッチンに洗い物を置きに行った。

 先に樹里が部屋に戻ると自分の布団には戻らず、耕助の枕に顔を埋めた。


 買い置きのインスタントラーメンで手早く朝食を済ませた耕助はまた樹里の部屋に戻り、汗で重くなった寝具を外し、洗濯機の中に放り投げた。

 「樹里、また熱を計れよ。」

 「うん。」

 樹里は体温計を脇にはさめ、反対の手で自分のとなりに来るようにと布団を叩いた。

 「なんだよ。」

 耕助は面倒そうな声を上げたが、素直にとなりに座った。

 「よっこいしょ。」

 「お、おい?」

 樹里は耕助の膝の上に横坐りになり、耕助に身を持たれかけた。

 おぉ…これって、赤ちゃん返りってやつか?

 耕助は慌てたが、すっぽりとはまり込んだように丸くなる樹里を抱えた。

 「仕方がないか。」

 「うん。しかたがないよ。」

 「お前なぁ。」

 ため息をついて、耕助は樹里の部屋の中を改めて見回した。

 博多のアパートから持ち込んだ勉強机とそれまで耕助や父親の古い本を収めていた扉付きの本棚がいかにもミスマッチだ。中には樹里の教科書や小学生向けの文庫やコミック、そして小さなぬいぐるみや小物が飾られている。

 備え付けのクローゼットにはこちらに来て買った冬のコートやセーターなどが入れられている。タンスは母親と共用で、大きかったために樹里の部屋には入れられないことを告げ、新しいものを購入した。

 統一感がないが、樹里の物を全て新しいものやこちらのものにすることを耕助はためらいがあった。

 樹里は「女の子はいつかはそうしなくちゃいけないんだよ。」そう、耕助にわけ知り顔でのたまわったが、耕助としては割り切れなかった。

 女の子の部屋にしては渋すぎるような気もするが、じょじょに揃えさせればいいか。

 ピッピッピ…

 電子音がして、樹里が体温計を取り出すと三十六度九分まで下がっていた。

 「熱は下がったな。」

 「うん。でも、まだ体がだるい。」

 「あれだけ、高い熱が出ていれば、そりゃな。…どうした?」

 耕助の話をくすぐったそうに聞く樹里にたずねると彼女は小さな手で耕助のほおをさすった。

 「チクチクする。」

 「おお、すまん。髭を剃ってないな。」

 「男の人って面倒ね。」

 よくある父娘のシーンのように樹里の柔らかそうなほおに頬ずりをしてやろうかといたずら心が浮かんだ。しかし微妙な気恥ずかしさが先に立ち、顔を樹里から離すようにあげた。

 「ゆりかちゃんがね。お父さんからさいきん変なにおいがするって。」

 びくんと耕助は反応し、樹里からさらに離れようとしたが彼女の方から追いかけてきた。

 「あなたからはそんなにおいしないよ。すっごく、落ち着く。いいにおい。」

 なつかれるのは正直うれしいが、なんとも言えず恥ずかしいな。

 耕助は尻をもじもじと動かし、ゆっくりと樹里をおろした。

 「えぇ?」

 「もう少し、横になってろ。熱が上がったら、明日も休まなきゃいけないだろ。俺は片付け物をしてくる。」

 「ん〜、早く戻ってきて。」

 「なんでだよ。」


 樹里の部屋を出た耕助は大きく伸びをして昨日の片付けをするためリビングに向かった。

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