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ウーパールーパーとエリマキトカゲは今でも元気にしてますか?  作者: 沙φ亜竜
第5章 明かされた過去と避けられない運命、そして……
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-3-

 ふと気づけば、景色は一変していた。

 ここは……丘の小道に入る前にいた辺りだろうか。

 真っ暗、というわけでもない。

 太陽は沈んだあとのようだが、空の様子を見る限り、まだ日が落ちてすぐくらいの時間だと考えられる。

 俺たちはその頃から、別次元の空間へと入り込んでいた。おそらく、そんなところなのだろう。


 周囲を見回す。

 俺がいて、クリオネがいて、ツチノコがいる。

 うるるとエリカの姿は、やはりなかった。


「ジョン! うるるとエリカを返せ!」


 天を仰ぎ、叫ぶ。

 答えはない。

 うるるとエリカは、戻らない。


「くっ……」


 足から力が抜けていく。

 その場で崩れ落ちるように両膝をつき、四つん這いの状態で悔し涙を流す。

 俺は守れなかった。

 うるるとエリカを助けられなかった。


「ごめん……うるる、エリカ……」


 せっかく、ふたりが手を伸ばしてくれたのに。

 戻ってきたいと、思ってくれたのに。


「俺の気持ちが、足りなかったのか……?」


 そんなことはない。

 俺はうるるとエリカを失いたくなどなかった。


「時間が、足りなかった……?」


 だったら、俺に責任はない……とは言えない。

 もっと早く手を伸ばしていれば。

 ふたりが諦め、運命として受け入れていることにもっと早いうちに気づいて、対処できてさえいれば。


「うるる……エリカ……」


 どんなに後悔しても、過去は戻らない。

 幼馴染みのふたりは、戻ってこない。

 理性という名のダムが決壊した俺の両目からは、大粒の雫がまるで滝のように溢れ出し、地面を深く暗い悲しみ色に染めてゆく。


「うるる……」

『ダイナ、泣いちゃダメなの~』

「エリカ……」

『しっかりしなさいな、男の子でしょ?』


 呼びかけに応えるように、ふたりの声が聞こえてきたような気がした。

 幻聴か。

 もしくは、ふたりの思念が微かに残っているのか。

 どちらにしても、夢や幻の一種であるのは変わりない。


「そんなに落ち込まないでほしいの~」

「というより、落ち込むことはないっていうか……」


 いや。

 幻聴にしては、やけに近くから聞こえる。

 夢や幻にしては、やけにハッキリと耳に届いてくる。

 顔を上げる。


 そこに――、

 ふたりがいた。


 うるるは一点の曇りもない笑顔で。

 エリカはちょっと恥ずかしそうに頬の辺りを指で掻きながら。

 すぐ目の前の地面にしっかりとそれぞれ二本の足をつけ、平然とたたずんでいる。


 状況はよくわからなかった。

 だが、俺は反射的に立ち上がり、ふたりに抱きついていた。


「うるる! エリカ!」


 春の日差しのような温もりが感じられる。

 ふにょん、ペッタン、という対照的な感触も、確実に伝わってくる。

 これは、夢なんかじゃない。

 まごうことなき現実だ!


「ダイナ~! あたしたち、ここにいるの~!」

「うんうん、間違いなく存在してる! ふにょんって、存在してる!」

「ふにょん~? なんか、おっぱいだけしか認識されてないみたいで、ちょっと微妙なの~!」

「そんなことない! うるるは、おなかや太ももや二の腕だって、ふにょんってしてる!」

「そ……その言われ方は納得いかないの~!」


 うるるは少し不満顔になる。

 一方のエリカも、笑顔ながら眉をつり上げ、文句を飛ばしてくる。


「ちょっと、そんなにしがみついてこないでよ! 鬱陶しいわね、まったく!」

「なんだよ、エリカ! いつもは自分から俺に絡みついてくるくせに! このこの!」

「頭をつつかないでよ! 髪の毛が乱れるでしょ!?」

「いいじゃないか、髪の毛くらい! エリカは性格からして乱れてるんだから!」

「な……なによ、それ!? わたくしって、そういう認識をされていたの!?」


 騒がしさが、心地よい。

 うるるとエリカは、ここにいる。

 ここに存在してくれているんだ!


「ふたりとも、消えなかったのねっ! よかったよっ!」

「うん、よかった。ふたりとも、お帰り……でいいのかな?」


 クリオネとツチノコも、穏やかな口調でふたりを迎える。


「ええ、ただいま」「ただいまなの~!」


 うるるとエリカも、素直に答える。

 よかった。本当によかった。

 しかし、どうしてだ……?


「う~む……。ふたりとも、跡形もなく消滅させる予定だったのだが、どうやら失敗してしまったみたいだな。それだけ、お前たちの気持ちが強かったということか。いやはや、生物の意思とは思った以上に奥の深いものだ」


 不意に、ジョンの声が響く。

 姿は見えないが、俺たちの様子はどこか近くから眺めているのだろう。


「まぁ、こうなってしまったら仕方がない。うるるとエリカ。お前たちふたりには、このままこの世界に留まってもらうことにする」

 この世界に留まる。

 ふたりは今後も、俺のそばにいられる。

 邪神がそれを認めてくれたのだ。


「ジョン! ありがとう!」


 俺がお礼を述べると、ジョンはそれを否定してきた。


「勘違いするな。お前は今後、うるるとエリカを同時に等しく幸せにしなければならない。いわば最大級の困難が待ち受けているとも言えるのだからな」


 うるるとエリカを同時に等しく幸せにする。

 そんなの、当たり前だ。

 困難でもなんでもない!


「ふっ、頼もしいな。はたしてそう簡単にいくか。見届けさせてもらうぞ。せいぜい我を楽しませてくれたまえ」


 俺の心を読んだのか、最後にそう言い残すと、ジョンの気配は完全に消え去った。

 消え去ることなく残ったのは、俺の腕に包まれた幼馴染みのふたり。


 春の日差しのような笑顔がまぶしい、ちょっとトロくてぽっちゃり気味のうるると、

 つり目から繰り出される視線が鋭い、強がりの鎧を身にまとった臆病者のエリカ。

 ふたりは今、ここにいる。

 いてくれている。


 俺は力と愛情を込めて、うるるとエリカの体を執拗に抱きしめ続けた。

 もう二度と離れていくことのないように、強く、深く、がむしゃらに。


「ダイナ、ちょっと痛いの~」

「もうっ! 鬱陶しすぎるわよ!」


 文句を言いながらも、ふたりは抵抗など一切せず、俺の腕の中で温もりに身を委ねてくれた。


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