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魔女⑦
(なんだよこれ……)
美しく舗装された広がる石畳の道、立ち並ぶ家屋の鮮やかな屋根の色。
見慣れたはず場所に、見慣れない景色。
(これじゃあまるで)
冷たい汗が背筋を伝う。指の先から体が冷えていくのを感じる。
まるで……町だ。
ここは大通りの市場。
しかし、やはり男の知っているものとはどこか違う。
何かがおかしい。そう、ずっとおかしかったんだ。
目眩がする。誰かが頭の中をぐるぐるとかき回して、そんなことはあるはずがないと叫んでいる。
そんなことは、ありえない。
それでも考えずにはいられない。絡まった思考の糸を恐る恐るほどいていく。
村は今、雨が降らないせいで不作が続いていたはずではなかったか。
それなのに、通り雨なんてものじゃない、まるで何日も降り続いた後のようにぬかるんでいた地面。
見たことのない少年と町という言葉。
そして何より、今目の前に広がるこの景色。
男は市場の雑踏の前に立ち尽くす。
もはや違う世界なのではと思えるほど、突然に姿を変えた故郷の景色。
ただ、人で溢れる市場の賑やかさにだけは、故郷の面影が見えた気がした。